出発
護衛の依頼を受けて三日後の出発の日。
アナンダの町の門前には護衛依頼を受けた冒険者たちと同行するガッデムの従者たちが集結していた。
その中に当然ながらローガの姿もあった。自分以外にどんなヤツが依頼を受けたんだろうと周りを見渡しているとあることに気づいた。
(あれ、ここに居るヤツらってみんな俺が知ってるやつらばかりだな。)
今回ガッデムの護衛依頼を受けたのはロイド、チェイス、グレン、レン、ソーヤ、ローガの六名であり、いずれもローガにとっては面識のあるメンバーだった。
ローガはまずこの中で一番仲がいいグレン達に話しかける。
「グレンのパーティーじゃないか。お前たちもこの依頼を受けたのか?」
「はい、実は我々は近々王都へ行く予定があったので。」
ローガの疑問にグレンガ代表して答える。
「レンとソーヤは病み上がりだろうに。依頼書に約半月ほどの長旅になるって書いてあったけど大丈夫か?」
この疑問に今度はソーヤが答える。
「大丈夫ですよ。実はこのての貴族などの護衛で町を行き来するような依頼は、たいていの場合貴族のメンツとかもあって護衛者が乗る馬車も貴族の人達が手配してくれるので移動自体は楽なんですよ。それにこの依頼はローガさんも受けるとグレンから聞いていましたしね。ローガさんが一緒なら魔物や盗賊の奇襲を受ける前に感知してくれるから道中の安全度もますので我々だけで王都に旅するよりずっと楽だと思いまして。」
「おっ、何の話してるんだ?俺も混ぜてくれよ。」
話しているとチェイスがウザイ感じで話に加わってくる。おそらく今回の依頼を受けた冒険者の中で唯一の女性であるレン目当てに話しかけてきたのであろう。
「おお、貴方は冒険者ランク7のチェイス殿ではないですか、大蛇の一件では討伐隊の指揮を執っていたそうですね。魔法具の双剣を巧みに操る戦士だと噂を聞いています。私も剣を得物として戦うので色々とお話を聞いてみたいとかねがね思っていたのです。」
しかし、釣れたのはグレンだった。グレンが剣術談義をしようと話しかけてきたのでチェイスはタジタジになっている。
そこに今回の護衛依頼を受けた最後の冒険者であるロイドも合流する。
「今回依頼を受けたメンバーが全員集まってんのか。ちょうどいい。組織的に動くためにこの中での暫定的なリーダーを決めていたほうがいいと思うんだがこの中で俺がリーダーするってヤツはいるか?」
ロイドの提案に我こそはと名乗りを上げるような者はこの場にいなかった。
「まあ、ランク8の俺が居るのに自分がやるって言い出すヤツはいないか。しゃあねえな。ひとまず俺がリーダーということでいいか?」
ロイドの提案に全員否は無かった。
「いいみたいだな。今回の護衛依頼で我々には小型の馬車が二台貸与されるらしい。だから三人ずつに分かれて隊列の先頭と最後尾に分かれて警護しよう。都合のいい事にそっちの三人はすでにパーティーを組んでいるみたいだから俺・チェイス・ローガで先頭を、そっちのパーティーで最後尾を警護するするかたちで行こう。」
この提案にグレンのパーティーも同意する。
「了解した。こちらとしてもパーティーメンバーの括りで動けるほうが連携がしやすいので助かる。」
「よし、じゃあ決まりだな。」
こうして警備のの配置も決まりいよいよ出発することとなった。
馬車での移動もローガにとっては初めての体験だ。馬車の荷台の中でガタゴトと揺れる感覚を楽しみながら外に見える景色をきょろきょろと見回す。
対照的に隅の方で青い顔でぐったりとしているチェイスが問う。ちなみにロイドは外で馬を操っている。
「ローガ、随分とテンション高いな。もしかして馬車に乗るのは初めてか?」
「ああ、そうなんだ。だからこのガタゴトと揺れる感じも外の風景も新鮮でな。………そういえばチェイスは随分とテンション低いな。」
「俺はこのての乗り物に乗ると気分が悪くなる体質なんだ。」
「ふーん。なんか大変そうだな。」
「おまえみたいな神経が図太い奴には俺の様な繊細な者の苦しみはわからんだろうよ。」
チェイスは一人だけ元気な様子のローガを皮肉る。
「そうだな。本当の意味で人が理解できる苦しみは自分の苦しみだけかもしれないな。」
しかしローガに皮肉を理解できるだけの頭はなく、なぜか哲学的な事を言い出した。
「なに似合ねー難しいこといいだしてんだよ。」
そこで馬車が大きく揺れチェイスが一層気持ち悪そうに青い顔になる。
「なんかホントに体調悪そうだな。やっぱりチェイスも苦手な馬車に乗ってまで王都に行きたい理由があるのか?」
「愚問だな。俺はこの苦しみに耐えてでも王都に行かねばならない理由がある。」
「へー。」
「おい!自分で話題を振ったんだろうが。そこは興味持てよ!」
「すまんすまん。ふと疑問に思っから聞いてみたけど良く考えたら別にそこまで知りたいってわけじゃないんだ。別に俺は他人がどんな目的で何を思って行動しようが関知する気は無いし別に話さなくてもいいぞ。」
「おまえ興味無さ過ぎだろ!もうちょっと同行者とコミュニケーション取ろうとしろよ!」
「?こうやってにこやかに会話できてるから十分コミュニケーション取れてるだろ。」
「にこやかなのはお前だけだ!くそっ、段々わかってきたぞ。お前あれだな、一種の天然だな。天然で理不尽なヤツなんだな!」
「おい!仲良くするのはいいことだがちゃんと周囲の警戒もしてくれよ。俺達が索敵でへましたら後ろのやつた全員に危険が及ぶんだからな。」
チェイスが大きな声でツッコミを入れるので流石に気になったのかロイドが注意してた。
「大丈夫だ。今のところ誰かがこっちに敵意を持って近づいてくるような気配は無い。というか、この辺は魔物自体が少ないな。小型魔物気配がちらほらするだけで中型以上の魔物は近くにはいないな。」
「なんだ、ちゃんと索敵してたのか。ここは街道沿いだからな。魔物が少ないのもそのせいだろう。その調子で頼むぞ。なにかあれば小さなことでもいいから報告してくれ。」
「了解。」
こうしてしばし穏やかな時間が流れた。
「話が逸れたがお前、自分で話題ふっといてホントに俺が王都に行く理由聞かないつもりか!?」
「うん。やっぱり全く興味がわかないからいいや。」
しばらく街道沿いを進み木々が乱立する林の傍を通りかかったときローガの気配感知に反応があった。
ローガは先程小さなことでもいいから報告しろと言われたいたこともありロイドに報告する。
「向こうの林の方でなんかこっちを見てるヤツが居るぞ。気配からしてたぶん人だな。」
「そうか。チェイスどう思う?」
「それだけじゃまだ何とも言えないな。確か近くに村があったはずだからそこの住人がなにかの用事で林に居て、なんとなくこっちを見てるだけかもしれない。ただ、盗賊の斥候という可能性も十分にありそうだけどな。」
「俺としては盗賊の斥候という可能性の方が高いと思う。なんせこの時期にこの辺は盗賊が集まりやすいからな。」
「あ~、今そんな時期なんだっけか。とはいえ、現状じゃ何の証拠もないし確かめる術もないから微妙なトコだな。」
「なんでこの時期は盗賊が集まりやすいんだ?」
二人の会話に割り込むようにしてローガが疑問を口にする。
ローガの疑問にチェイスが仕方ないという感じで説明する。
「大蛇討伐の時に、この時期は高位の冒険者たちは殆ど『東国連合』の国の一つが開催している武術大会に行ってるって話はしたよな。盗賊が集まるのはその影響というか弊害みたいなもんでな。東国連合に行くには王都からの定期馬車に乗って移動するのが一番手っ取り早いから冒険者たちはまず王都を目指す。その道中で盗賊退治とか狩りをしながらな。盗賊たちはそれから逃げるため冒険者たちとは逆の方、つまり田舎の方に移動するわけだ。だからこの時期は田舎の方に盗賊が集まりやすくなるんだ。」
「なるほど。それでアイツらの体から微かに血の臭いがしたのか。」
「血の臭いがした!?そういうことは先に言えよ!」
「話してる最中に風向きが変わったからわかったんだよ。さっきまでは全然臭わなかったぞ。」
「とにかくヤツらが盗賊である可能性が高くなった。まだ襲ってくる様子は無いがガッデム様に報告しておいたほうがよさそうだな。」
ロイドは馬を操りガッデムの馬車に近づいた。
「ほう、盗賊の斥候らしき人影を見た………か。」
「はい、ですがあくまでもらしきです。彼らが本当に盗賊だったという確証はありません。」
ロイドの報告を聞いたガッデムは頭を悩ませる。
「確証もないのに動くわけにもいかん。かといって本当に盗賊だった場合は被害が出てからでは遅い。どうしたものか……。」
そこに空気を読む事を知らないローガが呑気に切り出す。
「なあガッデムさん。この先の村でしばらく馬を休ませるんだよな?俺、腹が減ったんでその間にちょっと狩りに出たいんだけどいいか?」
「おいおい、流石にここは空気を読めよ。今はそんな場合じゃないだろ。」
すかさずチェイスがツッコミを入れるがガッデムがなにかひらめいたようだ。
「いや、ちょうどいい。ローガよ、狩りに行っていいからついでに盗賊が本当にいるか調査をしてきてくれ。」
「別にいいけど、流石に調査までしたらそんなに早く帰ってこれないぞ。」
「構わん。流石に盗賊が居るかもしれんと知っていて放置するわけにもいかんからな。本当はこの先の村を超えてその隣の村までいく予定だったが今日はこの先の村で一泊することにする。ローガの索敵能力なら明日の朝までには調査できるだろ?」
「林の中を駆け回って気配を探るだけだからそれだけ時間があれば余裕だな。」
「それは心強いな。よろしく頼むぞ。」
「盗賊がいたらの話だけど討伐はしなくていいのか?」
「余裕があればしてくれたほうがいいが無理をする必要は無い。いることさえわかれば討伐依頼を出せるしな。」
「よし、それじゃさっそく行ってくる。」
ローガが馬車を飛び降りようとしたのでチェイスが慌てて止める。
「待て待て、行くならこの先の村の宿に着いてからにしろ。宿を確保してからにしないと野宿する羽目になるぞ。」
「え~。俺、腹減ったんだけど。」
「我慢しろ。合同で依頼を受けてるんだから自分勝手な行動は慎め。」
「わかったよ。」
それからしばらくローガはマテをされた犬状態で馬車に揺られる事となった。
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