ロイドの受難
村に到着し宿の手配も済ませたローガはさっそくとばかりに狩りに出ようとする。
「待て、ローガ。調査に行くんだったら俺達も同行しよう。」
狩りに出ようとするローガを引き留めてロイドが提案する。
「別に来なくていいぞ。今回は急ぎだから俺一人の方が動きやすいし。」
「俺はこれでもランク8の冒険者だぞ。足手まといにはならない。」
「そこまで言うなら着いてくるのは構わないけど遅かったら置いていくぞ。」
「ずいぶんな自信だな。まるで自分の方が早いって口ぶりじゃないか。」
二人の会話に割り込むようにチェイスが口をはさむ。
「いや、実際問題ローガの方が早いと思うぜ、ロイドの旦那。少なくとも俺はこの前の大蛇討伐の時はローガの全力の走りに着いて行けなかった。」
「チェイスでも着いて行けないほどの早さか……。しかしだからと言ってローガ一人に任せっきりなのは上位の冒険者としては容認できないな。」
「ロイドの旦那えらいやる気出してるな。糞生意気な新人に先輩冒険者の威厳を見せたいのかもしれないが今回は分が悪いから止めといたほうがいいと思うぜ。」
「別にそういうつもりじゃないがやはりローガ一人に任せっきりなのは……。」
当然ながらロイドがここまでローガに同行しようとしているのは別に勤勉さからの行動ではない。帝国の諜報員としての顔を持つロイドは帝国の時期皇帝であるレイザールが異常に関心を寄せているローガについての情報を少しでも集めたいという意図があったからだ。
それがなければ面倒な護衛依頼など断固として拒否したいのが本音である。
「まあ、そこまで着いて行きたいってんならもう止めねーけど俺はパスさせてもらうぜ。本来の仕事のガッデム様の護衛をグレン達だけに任せるのも悪いからな。」
そんなロイドを尻目にチェイスはもっともらしい理由をつけて面倒ごとを回避した。ちなみにグレン達は宿の部屋不足により別の宿に泊まることになったためここにはいない。
(はぁ~~~。俺も休みて~~~。)
ロイドは心の中で盛大なため息をつくがその事を顔には一切出さなかった。
「それじゃ出発するか。さっきも言ったけど遅かったら置いてくからな。」
村の出入り口でローガはロイドを振り返りながら改めて忠告すると返事も聞かずに走り出す。
(はぁ~。なんで寄りにもよってこんな元気すぎるヤツの調査をしなきゃならんのかねぇ~)
ロイドは心の中でもはや定番となったため息をつきながらローガを追って走り出した。
しばらくローガを追って走ったロイドは内心でそのスピードと体力に舌を巻いていた。
(くそっ、話には聞いてたがとんでもないスピードで走り続けやがる。とんでもない脚力とバケモノじみた耐久力が合わさるとこんなにも理不尽なことになるのか。ヤバい、そろそろスピードを維持するのがつらくなってきた。)
ロイドのスピードが落ちてきた事を察したローガは少しスピードを緩めてロイドに並んだ。
「俺、魔物確保したらとりあえず来るときに斥候らしきヤツらを見た辺りで食ってるから着いてくるんだったらそこで一旦合流な。」
それだけロイドに言い残すとさらにスピードを上げてあっという間にロイドを置き去りにして走り去った。
一瞬スピードを合わせてくれたのかと期待したロイドだがどんどん小さくなっていくローガの背中がそれは淡い幻想だったと無情にも語っていた。
(ホントに置いて行きやがった!ってゆうかさっきまでのスピードがトップスピードじゃなかったのか!?マジでどんだけだよアイツ………。)
もはや米粒以下ぐらいにしか見えなくなったローガを見て流石のロイドも今回ばかりはこの言葉を抑えきれなかった。
「はぁ~~~。マジで帰りて~~~。」
「遅かったな。でも安心しろ、ロイドの分はちゃんと残しといたぞ。」
必死の思いでローガを追いかけようやくローガに追いついたロイドを出迎えたローガの第一声がこれだった。
その言葉の通りローガが準備したであろう魔物の肉が焚火によって焼かれていた。
もっとも、無造作に木の枝に突き刺しただけで毛を毟るなどの最低限の下ごしらえすらされていない肉は見るからにマズそうで全く食欲をそそらなかった。肉体的な疲労も合わさりむしろ吐き気がしてきた。
「いや………。遠慮しておく………。」
「そっか、じゃあ俺が食っちまっていいな。」
ローガは確認をとるとマズそうな肉をバクバクと食い始めた。
ロイドは息をと整えながらこの後の調査方法について確認する。
「それで、ローガ。この後はどうするつもりだ?まさか無計画に走り回って探すなんて言わないよな?」
「別にそれでもいいんだけど、ここにアイツらの臭いが残ってるからそれを追ってった方が手っ取り早そうだから臭いで追跡するつもりだ。」
これ以上走り回られたら身が持たないと危惧していたのでそれを聞いてロイドは思わず安堵する。
「そうか、やはり見た目通りローガは嗅覚も鋭いのか。しかし、良く数時間前にちょっと居ただけのヤツらの臭いを追えるものだ。」
「嗅覚で獲物を追跡するのは狩りの基本だからな。俺の村ではみんなできて当たり前だったぞ。」
ローガは最後の肉を口に放り込み立ち上がった。
「そんじゃ、追跡開始と行こうか!」
ローガは臭いをたどりながら迷いなく雑木林の中を進む。
しばし進むとローガは突然立ち止まり耳をすまし気配を探り始める。
「どうした?いたのか?」
ロイドは小声で問うがローガは答えない。黙って気配を探る事に集中しているようだ。
仕方なくしばしローガの行動を見守っていると今度は突然走り出した。
(はぁ~~~。また置いて行きやがった。しかし、アイツ雑木林の中とは思えないほど静かに走りやがるな。)
ロイドも心の中でため息をつき追いかける。ローガを追いかけているうちにロイドにもなぜローガが突然走り出したのかわかった。
(なにかいるな。これは…魔物の気配か!)
どうやらローガは魔物の気配を察知してそれを仕留めるために走り出したようだ。
ロイドが追いつくころにはすでに戦闘は終わっていたようでローガは魔物の死体のそばにたたずんでいた。
ロイドはローガが仕留めた魔物が何だったのか確認する。
「こいつはジャイアントセンチピートか。妙だな、こいつらは通常もっと木々が覆い茂った密林の様な場所に生息しているはずだが?」
「なあ、ロイド。こいつらって多分人を食うよな?」
「ん?ああ、こいつらは普通に肉食で凶暴だから人なんて見つけた瞬間に襲いかかるだろうな。」
「やっぱりそうか………。」
「どうしたんだ?何か気づいたのならもったいぶらずに話せ。お前の頭じゃ一人で考えたところで答えなんてでないだろ。」
「それもそうだな。実はあの盗賊の斥候らしきヤツらの臭いなんだけどこの先に続きてるんだよな。でもこのさきこのムカデみたいなやつがウジャウジャいるんだよ。その数はたぶん十匹や二十匹ってぐらいじゃきかないぐらいだ。ついでに言うと、血の臭いみたいのはしないから襲われてないみたいだ。」
「なに!?ジャイアントセンチピートの密生地帯に入っていたのか。しかも襲われた形跡もないだと?」
「それからこのムカデから微かに人の臭いがした。ひょっとしたら誰かに飼いならされているのかもしれない。」
「それは無理だろう。ジャイアントセンチピートは飼いならせるような魔物じゃない。」
「でもそうじゃないと説明がつかないぞ。このムカデは俺ほどじゃないけど気配に敏感だ。何十匹もこいつらがいる場所を感知されずに通り抜けれるような方法でもあれば別だが。」
「虫よけの臭い袋とかを使ったとは考えられないか?確かそんな魔導具があったハズだ。」
「臭い袋ってくらいだからそれは臭いがするんだろう?なら俺がその臭いに気づかないはずはない。」
「それもそうか。しかし、ジャイアントセンチピートはかなり凶暴な魔物だ。それを飼いならす方法など……いや………待て、普通なら飼いならせないが例外がある。もし俺が考えていることが事実なら今回の件は予想以上に厄介な事になる。」
「なんだよその例が言って?」
「種族特性だ。」
「種族特性ってグレンの虎咆みたいなやつだよな?」
「種族特性には本当に色々な能力があるんだ。中には特定の魔物に全く襲われなくなるなどといったものあり、その上位能力としてその魔物をテイムして使役するといった能力がある。」
「へぇ~。そんな種族特性もあるんだな。」
「何を呑気な!もし本当にジャイアントセンチピートたち種族特性で統制されているのならこれはとんでもなく大変なことだぞ!」
「そうなのか?」
イマイチ事の重大さがわかっていないローガに呆れながらロイドは心の中でもはや何度目かわからないため息を吐いた。
(はぁ~~~。ローガの調査だけでも手一杯なのにこれ以上厄介事とかマジでもう勘弁してくれよ………。)
しかし、ロイドの願いが聞き届けられる事は無かった。
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