逆転劇
ローガは自らも跳び空中に放り投げた大蛇に追いつくと大蛇の頭が下に来るように打撃をくらわせていく。
大蛇も頭から落下するのが危険であることを本能で理解し必死にローガの打撃から逃れようとする。
刹那のうちの空中での攻防。それを制したのは……。
「俺の勝ちだ。このまま自重で潰れて死ね!」
ローガであった。大蛇が踏ん張る事が出来ない空中での戦闘を一度も経験したことが無いことが幸いしたようだ。
実はローガは狩りの時体が硬く重い獲物を相手にする場合にこの作戦をよく使う。相手の重心や体の重い部分を見極めて叩き落すのはお手のものだった。
ローガは落下時の轟音の中で確かに大蛇の首の骨が砕ける音と手ごたえを感じた。
(今のはかなり効いたはずだ。しかし、まだ油断ならない。コイツは首をねじ切って頭蓋骨を粉砕し上顎と下顎を引きちぎって泣き別れさせて始めて安心出来るレベルのバケモノだ。なぜか分からんが俺の本能がそういっている。)
ローガが今まで生きてきた経験上本能に従って行動して失敗したことは無い。
本能に忠実という点では獣と変わらない。しかしそれがローガの本質なのだろう。
完全に頭から落下した大蛇は首があらぬ方向に曲がっておりピクリとも動かない。
しかしローガは本能に従い警戒を解かない。事実ローガの耳にはまだ微かに動く大蛇の心臓の鼓動が聞こえていた。
(死んだふりからの不意打ちで一発逆転を狙っているな。)
それが分かっているから不用意な追撃はしない。砕けた首の骨が簡単に治るはずはないが、逆に言えば大蛇はまだ首の骨が砕けただけとも言える。
ローガは冷静に大蛇の損傷具合を確認していく。
(首の骨は確実に折れてる。あの首の状態じゃ頭を支えるのはまず無理だろうから当然頭を起点とした攻撃のかみつきや毒液の吐き出しはもう使えないだろう。となるとヤツに残された攻撃手段で最も有効な攻撃方法は……巻き付きからの締め上げか。つまりヤツは俺がとどめを刺そうと近づいた瞬間にそれをやるつもりで虎視眈々と狙ってるって訳だな。)
ローガはそこまで読んだ上で次の手を考える。
(さて、どうやって止めを刺すべきか……コイツの返り血を浴びるのは出来れば遠慮したいから、遠距離攻撃で仕留めたいところだな。……適当な岩でも探してきて投げるか。)
さっそく使えそうな岩が無いか探そうとした時、ふと自分の考えに違和感を覚えた。
(まてよ、今俺なんで『返り血を浴びるのは出来れば遠慮したい』って考えたんだ?『返り血を浴びるのは絶対にまずい』って考えてたからわざわざのど元を引き裂くのを避けて首の骨を折ったのに、いつの間にかヤツの血の毒がそんなに危険と思わなくなってる。)
自問自答するが答えは出ない。ただ、改めて考えても不思議と今は大蛇の血にそこまでの脅威は感じない。
(まあ、いいか。とりあえず岩探すかな。)
ローガは深く考えない事にして岩を探すべくその場をあとにした。
一方その頃、チェイス達は先程の轟音を頼りに森の中を進んでいた。
ちなみにグレンは連れて来ていない。下手に動かすと危険と判断し仕方なくその場に放置する事となった。(一応ベルルカが魔よけの香を焚き魔物が寄り付かないようにしている)
森の中を進む一行はやがて大蛇が首をあらぬ方向に曲げて横たわっているのを発見した。
「おいおい、なんだこりゃ。」
一同を代表するかのようにチェイスの口からそんな言葉が漏れた。
無理もない。先程敵はヘタをすれば古代種かも知れないと話しあっていた魔物が首の骨をへし折られて死んでるとしか思えない状態になっているのだ。
「いったい何をすればこんななるんだ?」
おそらく独り言のつもりで漏らしたチェイスの言葉にゴルドが反応した。
「実は先程の轟音の前に木々の間から一瞬コヤツが空を跳んでいるのが見えた。」
「はぁ?何言ってんだ。こんな巨体が跳ぶはわけないだろ。なんか変なキノコでも拾い食いしたか?」
「……投げ飛ばされた上で勢いをつけて頭から地面に叩きつけられたら、ちょうどこの様なかんじになるのではないか?」
ゴルドの言葉に全員が沈黙する。確かにそう考えると今の大蛇の損傷度合に納得がいくからだ。
「となるとこれをやったのはローガである可能性が高いな。」
ベルルカの推理にシアンが異を唱える。
「まって、あんな新人にこんな事が出来るはずない。これは……そうよ、ロイドさんが私たちを追い越して先に討伐してしまったとは考えられない?」
「シアン。そう考えるのは無理がある。そもそもロイド殿は剣士だ。このような戦い方はしない。首が折れていること以外に外傷がほとんど無い事を考えると血の毒の事を知っている誰かがやったと考えるのが妥当だろう。そうなるとやはりローガがやったと考えるほうが自然だ。グレンは明らかに誰かからあの場所に避難させられていた。ローガがグレンを助けたとしたら助けたときに血が毒であるという情報を聞いてたとしてもおかしくない。」
「それは……。」
「お前がなぜそこまでローガの事を認めたがらないのかは知らないが、この場は個人的な感情をもちだすべき場所じゃないことぐらいわかるだろう。」
「……そうね。ごめんなさい。」
そんな二人のやりとりを横で聞いていたゴルドがボソリと口を開く。
「それをいうなら誰がやったかよりもあの大蛇が本当に死んでいるのか確認するほうが先だろう。もともと我々はアヤツの討伐に来たのだから。」
「ゴルドの言う通りだな。相手は古代種の可能性すらあるバケモノだ。慎重にいこう。」
チェイスがいつになく真剣な口調でその場をまとめた。
「まずは俺が近づいて様子を見る。皆は戦闘になった時に備えておいてくれ。」
そういうとチェイスは双剣を構えゆっくりと大蛇に近づく。しかし、大蛇は動かない。
とうとう大蛇の目の前までたどり着きチェイスは油断なく双剣を構えながら大蛇を軽く足で蹴る。しかし、それでも大蛇は動かない。
それを見てシアンが口を開く。
「どう?生きてる?」
「いや、何の反応もない。たぶん死んでると思うが……。」
「煮え切らないわね。それなら私も近づいて確認する。」
そいってシアンも大蛇の生死を確認するために近づく。
その時、岩を探して戻ってきたローガが大蛇の近くにいる二人に気づき慌てて叫ぶ。
「離れろ!そいつはまだ生きてるぞ!」
その叫びと同時に大蛇が動いた。二人は瞬時にその場を離れようと足に力を込める。
しかし、ここで大蛇が用意していた罠が二人を襲う。
罠の正体は気化毒だった。ローガとの戦いの序盤に大蛇がばらまいた毒液が毒の性質をそのままに気化し無臭のガスとなって周囲に立ち込めていた。時間がたち空気と混ざったため薄くなっていたため毒液のように即効性は無かったが吸い続けることで本人達も気づかないほど緩やかにその毒は体を蝕んでいた。
それにより、致命的なまでに反応が遅れた。
大蛇は信じられない事に首の骨が砕けているにも関わらず無理やり頭を上げ二人を見据えると毒液を吐き出そうとする。
それに反応できたのは事前に大蛇が生きている事を知っていたローガだけだった。
「くそっ、まにあえ!」
とっさにローガは担いできた岩を投げる。
大蛇の頭部を粉砕するつもりで投げた岩は剛速球さながらの速さで大蛇に迫るが大蛇は胴体からのけぞるようにして躱すとさらに体をねじりこちらを向く。
一瞬大蛇と目が合った。どす黒い光を宿したその目に執念の炎を見た。
岩の投擲により態勢を崩したローガに毒液を吐き出す。
それを見たローガは崩れた態勢のまま無理やり跳躍する。 しかし、跳んだ瞬間にこれが悪手であったことを悟った。
(しまった。誘われた。)
ローガの着地地点にはすでに大蛇の尾のあたりが待ち受けていた。さすがのローガも何もない空中で着地地点を大きく変える事は出来ない。
着地を待たずにローガの体を拘束せんと尾が迫る。ローガもそうはさせるかと抵抗するが今回の攻防では大蛇に軍配が上がった。
抵抗むなしく巻き付かれ締め上げられる。凄まじい力で締め上げられ止めにグレンとの戦闘時につけられた傷を自分で開きローガの頭にたらし始める。
毒により力が入らなくなった体に追い打ちをかけるようにさらに締め上げる。
「がああああああぁぁぁぁぁぁぁ。」
ローガの悲鳴が森に木霊しやがて消えた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は『咒毒』についての補足説明をします。
性質は作中でも語られたとおりの解毒不可能な毒ですが、正確には呪いの力で解毒の効果を無効化しているといった方が正しいです。
そのため、一口に咒毒といっても毒の強さはベースとなった毒物に依存します。
例えば腹痛になる程度の毒に呪詛を込めて咒毒にすると飲んだ相手が永遠い腹痛になり続ける咒毒が完成します。
実は咒毒はもともと、とある古代種の魔物が使用していたのを人々が真似をして作り出したものが原型となっています。
そのため、その古代種の魔物に連なる魔物は咒毒を使えるという訳です。
若干ネタバレしてしまったところで今回の補足説明を終わります。
次回も読んでいただけたら幸いです。




