狼男VS大蛇
時間はローガがグレンを助け出す少し前にさかのぼる。
ローガはグレンの元へ向かう最中久しぶりに全力を出したことによる高揚感を感じていた。
(村にいた頃は全力なんて出せなかったからな。なんせこれをやると後で異常に腹が減るからな。)
食料に乏しいローガの村では不用意に全力を出すとそれだけで食糧不足になりかねないため常に力を制限し生活していた。そしていつしかその事が当たり前になってしまい全力で走り回る快感を忘れていた。
(そうだ。これだ。俺はこれがやりたかったんだ。)
ローガが村を出る事を決意した理由。もちろん食糧危機のためというのが第一の理由であったし、長老に語った外の世界を見てみたいという理由ももちろんあった。しかし、心のどこかに「こんな狭い村の中では全力を出すことが出来ない。」「俺はもっと自由に生きたい。」そういった願望があったことは否めなかった。
次第に速くなる鼓動ととに体の奥底から溢れた出す歓喜。全てを放り出してこのまま何も考えず心の赴くままに走り続けたい。そんな衝動にかられたローガを正気に戻したのは一段と濃ゆくなった血の臭いであった。
(さすがにこのまま何処かに行くのは無責任過ぎるな。ほっといたらグレンは確実に死ぬだろうし。それに、近づいみて改めて思ったがやっぱりコイツは気に入らない。うん、グレンを助けるついでにコイツは殺しとこう。)
自分でも理由がわからない謎の衝動に衝き動かされ大蛇と戦うことを決意する。
(さて、そうと決まればまずはさっそく、あいさつ代わりに奇襲で一発かましてやるか。)
こうして場面は先程の奇襲の踵落としへとつながる。
あいさつ代わりの宣戦布告を済ませたローガは敢えて追撃を行わずグレンに歩み寄る。
「すまない……助かった。」
だいぶ弱っていたが歩み寄るローガに礼を言う程度の余裕はあるらしい。
「いいさ、コイツをぶっ殺すついでだ。立てそう……にはないな。 とりあえず移動するぞ。」
そういって装備も合わせると100キロを軽く超えるグレンを軽々と担ぎ飛ぶような速さで離脱する。
あと、いつの間にか目的が逆転していた。
追跡用に最後に傷をつけた木のところまで移動すると(途中からハイになってしまいつけるのを忘れていた)近くの木の根元にグレンを横たえる。
「すまない。しかしよかったのか?先程の一撃はかなりダメージを与えていたはずだから追撃のチャンスだったはずだが。」
「いや、アイツはあれぐらいじゃ余裕で反撃してくるだろうぜ。それに、今のおまえがあそこにいたら戦闘の余波で確実に死ぬからな。」
「そうか……すまない。足を引っ張ってばかりいる。」
「まあ、ここにいれば俺と一緒に来た冒険者達がみつてくれるだろうから安静にしてな。」
「一人でヤツと戦う気か?仲間がいるなら一旦合流して一緒に戦った方が……。」
そこまで言ってグレンは口を噤む。
ローガの体からにじみ出る闘気を感じ取ったからだ。
(昨日とはまるで違うな。これが本気になった先祖返りの気迫か……。ならば、俺の忠告など不要なものかもしれないな。)
「分かった。もう留はしない。ただ、先にヤツと戦った者としてアドバイスだ。ヤツの血は……。」
「毒だろ?ヤツの傷口から異常な臭いがする血が流れてたからな。あんな異常な臭いの血がまともなはずないしな。」
「ふっ、本当に俺の忠告など何一つ必要無いようだな。ならば、せめて武運を祈らせてもらおう。」
「おう、そっちは安静にしてろよ。」
それだけ言ってローガは大蛇を殺すべく再び走り出した。
(さすがにやせ我慢も限界だな。ローガ殿勝てよ……。)
走り去るローガの背中を見ながらグレンは再び意識を失った。
ローガが先程の場所に戻ると予想通り蛇はダメージから復帰しておりローガを元気に威嚇し始めた。
ここで初めてローガは大蛇をゆっくりと見た。
(改めて見るとやっぱコイツデケーな。頭だけで軽く1メートル超えてやがる。体は蜷局巻いててよく分からんがざっと20メートル以上ってとこか?さて、この巨体をどうやってぶっ殺そうか。)
ローガが思案していると先に蛇が仕掛けてきた。
おそらく様子見のつもりであろう、牽制程度に毒液を吐き出してきた。
それをギリギリで躱しながら前進し距離を詰める。
そう、ギリギリで躱し躱している。強力な毒液だ。飛び散った毒液に少し触れただけでも毒に侵される恐れがあり、通常なら多少大げさな動きになってでも完全にリスクを回避するために大きく避けるものだがローガはあえてそれを敢えてギリギリで躱す。
この時ローガは自覚すらしないままにそうしていた。この方がいい、いや、自分の場合はむしろこうしないと駄目だ。体がそうローガに訴えかけてきてそうさせていた。
大蛇の方も牽制ぐらいにはなるだろうと吐き出した毒液を、あえてリスクを負ってまで前進しながら躱すローガに面食らう。そうくるとは考えていなかったのだろう。慌てて二発、三発と毒液を連続吐き出しローガを下がらせようとする。
次々吐き出される毒液を毛先が軽く掠るぐらいのギリギリで躱し続けながら前進する。
業を煮やした大蛇は毒液を吐くのをやめ喰らいついてきた。
1メートル超える頭部が口を開いて喰らいつけば当然その攻撃範囲は広い。ましてはローガの体は一気に距離りを詰めようと走り出した影響で勢いがついている。
(さっきから感じる全身の毛穴が開くようなこの感じ。そうだ、これこそが戦いだ。)
自ら大蛇の口へ突っ込むかたちとなったがローガはそんな状況で自覚せずに笑っていた。獲物を見つけた獣のように獰猛に笑っていた。
迫る大顎をスライディングするように躱し大蛇の死角(つまり顎の下)に滑り込む。大蛇は攻撃の反動で頭を動かすことができず無防備な喉元を晒しているがここで自慢の爪を使うことは出来ない。
(コイツの血は猛毒らしいからな。それが無かったらこれで勝ってたんだけどな。)
どんな生物であろうと喉元の皮膚は薄い。例え硬い鱗に覆われていてもローガは爪が使えれば切り裂ける自信があった。
しかし、ここでそれをやれば返り血を大量に浴びてしまいこちらも危ない。
(流石にコイツと心中する気は起きないし、ここはとりあえず打撃一択だな。)
そう判断し膝蹴りをくれてやることにした。
衝撃により僅かに首が浮く。首が落ちてくるタイミングでさらに追撃で蹴り上げる。
膝蹴りの時はスライディングした姿勢から起き上がりざまの一撃であったが、今度の蹴りはしっかりと大地を踏みしめた状態での真上に突き上げるような一撃。
大蛇の巨体が首を起点にして「へ」の字のように僅かに浮いた。
しかし、大蛇もやられっぱなしではない。長い体を鞭のようにしならせながら横なぎの体当たりを繰り出す。
上には先程蹴り上げた大蛇の頭部があるため退路ははない。自ら軽く跳んで体当たりの威力を殺しつつ体当たりしてきた胴体を受け止める。
その巨体にふさわしい威力を秘めた体当たりであった。だが、ローガの体のポテンシャルも負けてはいない。
(コイツの巨体は確かに強力な武器でもあるが同時に弱点にもなりうる。正直打撃だけでコイツを仕留めるのはしんどいからその弱点、利用させてもらう。)
完全に体当たりの衝撃を受けきると信じられない事にその巨体を投げ飛ばそうとする。
ギリッと歯を食いしばる音とともに全身の筋肉に力がこもる。
「ぶっっっっっっとべえぇぇぇぇぇ!」
純粋に力技で大蛇を無理やり上へと放り投げる。
大蛇もまさか自分の巨体が空を跳ぶ日がこようとは夢にも思っていなかっただろう。故に衝撃を逃がす着地の仕方など知らない。
「これで決める!」
ローガは大蛇を追うようにして自らも跳んだ。
一方ローガが木につけた目印を頼りに森の中を進むチェイス達は倒れているグレンを発見した。
始めにグレンを発見したのは先頭を歩くゴルドだった。
「む、だれか倒れているぞ。」
大きな声ではなくむしろボソリとつぶやくように口を開いただけであったので危うく聞き逃すところだった。
「おい、『だれか倒れてるぞ』じゃねえよ。そういう大事なことはもっとはっきりと喋れ。」
一拍遅れてさっきのセリフを理解しチェイスが急いでグレンに駆け寄る。
「おい、大丈夫か?ベルルカ来てくれ怪我人だ。」
顔面蒼白で弱々しく呼吸するグレンを見てメンバーで唯一医療の知識があるベルルカを慌てて呼ぶ。
ベルルカが駆け寄りすぐさまグレンの容態を確認する。
「これは………毒にやられているな。しかし、この毒はもしかして………。」
ベルルカは独り言をつぶやきながらカバンから数種類の薬品を取り出しその場で調合を始める。
「手持ちの薬品でどうにかなりそうな毒なのか?」
薬品の調合を始めたベルルカをみてチェイスが質問する。
「いや、これは私ではどうする事も出来ん。というか、この毒が私の予想通りの物ならば解毒の術をはない。」
「なに?じゃあそれは何を作ってるんだ?」
「これは一時的に仮死状態になる薬だ。私に出来る事は少しでも毒の回りを遅くすることぐらいしかないからな。」
「そんなにヤバい毒なのか。こりゃ戦う時は気をつけないとな。」
「ああ、この毒を魔物が使ってくるとしたらくらった瞬間に死か確定すると思え。なにせこの毒はおそらく『咒毒』だ。」
「『咒毒』!おい、それって確か高位の呪術師なんかが毒に呪いを混ぜて作り出す解毒不可能な必殺の毒のことじゃねえか!」
「ああ、ご丁寧な説明どうも。おかげでいちいち説明する手間が省けたよ。付け加えるなら解毒する方法は一応ある。それは、『咒毒』を作った術者が呪いを解くかもしくは術者を殺すかだ。そのどちらかが出来れば『咒毒』はただの毒に成り下がる。それ以外ではどやっても解毒でいない。」
「しかしありえないだろう!魔物が『咒毒』を使うなんて。」
「ああ、普通はな。しかし、相手がもし古代種だとしたらありえなくはない。」
「おいおい、ホントに古代種だったら俺たちの手にすらあまるぞ。」
二人がが今回の敵に対する認識を戦慄と共に改めていうと周りの索敵をしていたシアンが戻ってくる。
「駄目ね。あの新人のヤツこの周辺にはいないみたい。目印もここで途切れてるしホント一人でどこいったのよ。」
シアンが苛立だしげに報告する中、一人周囲の警戒をしていたゴルドだけがソレを目撃した。
一瞬だが木々のてっぺんの隙間から大蛇が空を跳んでいるのが見えたのだ。
(これは報告した方がいいのだろうか?)
下手に報告して気がふれたと思われるのも不愉快だと思っていると大蛇がチラッと見えた方角から轟音が聞こえた。
「たぶんあっちに居るんじゃないか。」
その方向を指さしながらつぶやいた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
今回は度々出てきてる大型魔物などの区分についての補足説明をします。
ギルドでは魔物の体の体積によって次のように区分しています。
小型魔物 1㎥以下
中型魔物 1㎥以上~3㎥以下
大型魔物 3㎥以上
もちろん魔物にも個体差がありますので小型魔物に分類される魔物であっても1㎥以上の大きさの魔物はいます。
あくまでもこの分類はその種類の魔物の平均的な体躯を魔物学者達が調べたものを基準としています。
また、魔物の強さは体が大きい小さいだけではかれないので小型魔物だから弱く大型魔物だから強いというわけではありません。
作中で大型魔物の調査を行っているのは基本的に大型魔物はみな大食いであるため生態系を破壊するなどの懸念があるからです。
ちなみに今回会話の中でチラッと出てきた古代種ですがこれは前回の補足で説明した神話の時代に生息していた魔物の事をさします。
感覚的にはゲームなどでラスボスを倒した後に行く事が出来るようになる裏ダンジョンに出てくるモンスターみたいな感じです。
次回も読んでいただけたら幸いです。




