第2話 少年と風呂
お姉ちゃんの家は、島のはずれにある。
東海岸から、丘を登り、廃墟を抜けた場所にある。
もう見た感じボロい。草は生えっぱなし。柱の一本は折れている。
電柱も見当たらないが、電気はついている。どうなっているんだろう。
お姉ちゃんが先に家に入り、靴を脱ぐ。
「どうした?早くこい。」
いいのだろうか。知らない人の家、でも、他に行くところはない。
靴を脱いであがる。帰る家が無いぼくにとって、これはとても恐ろしい事だった。
お姉ちゃんの家は、何か、奇妙だった。
壁にひびが入り、窓ガラスもひびが入ってる。けど妙にきれいだ。
ほこりが積もってない。
電球は裸のまま使ってる。
けど、キッチンを覗くと、高級そうな家具、高級そうなお皿があった。
「ふむ、お前、汚れてるな。」
「えっ」
たしかに、地面に座ったりしてた。
「風呂だ。」
そういうと僕の首根っこを捕まえて、風呂場に運ばれた。
ぼくが何かを言う前に、服を全部脱がされた。
そしてお姉ちゃんも服を脱ぎだした。
無造作にシャツを脱ぎズボンを脱ぎ、あっという間に裸になった。
下着はつけてなかった。見ちゃいけないと思って後ろを向いた。
ドアを開けると、お湯が貼ってあった。
・・・いつお湯を沸かしたんだろう?
お湯を入れたまま外に出たの?
そう思って立ち尽くしていると、また首根っこ捕まれて、お風呂に投げいれられた。
「わわっ」
ざっぱんざっぱんとお湯が波を打ってあふれ出す。
お姉ちゃんが入ってくる。
さらにお湯があふれる。
大きなお風呂だけど、二人はさすがに狭い。
お姉ちゃんはぼくの背中側に座り、ぼくを包み込むように腕を回して来た。
冷え切った体が、熱湯でゆでられたように熱くなる。
心臓が破裂しそうなほどドクドクする。
「そういえば、お前、何て名前だ?」
お姉ちゃんの腕の中で、ぼくは答える。
「バレッサ・キーリング、10歳。お姉ちゃんの名前は?」
「私の名はベルフェゴール。キリンだな。お前のことはキリンと呼ぼう。私のことはベルと呼べ。」
「ベル・・・」
ベル姉ちゃんは風呂から出て、ぼくの体を洗う。
そう言えば、お母さんにこういう事されてたな。と思い出した。
髪の毛も体も一緒に、泡だらけにされ、目を開けてられないが、
体中の隅々まで現れてくすぐったい。というかものすごい雑だ。
顔も髪の毛も体もスポンジで適当にごしごしされている。
シャワーで泡を落とすときもかなり雑だ。
ぼくを犬かなんかと思ってるんじゃないんだろうか。
ベル姉ちゃんはぼくを風呂に入れてから、自分の体を洗い始めた。
細い腕、おおきいおっぱい。とんでもないほど綺麗で、どうしても見てしまう。
ベル姉ちゃんは髪の毛を洗った後、シャワーで洗い流すのだが、
「あれ・・・?」
水滴が、なにか、変だ。 何か透明なものにそって落ちているような、
頭の横に、透明な何かがあるような気がした。・・・角?
じっと見ていると、ベル姉ちゃんと目が合った。
「えっち」
にやりと僕をからかう。
心臓がどくんと跳ね上がる。絵に書いたように慌てふためく。
「あっ・・・いやっ・・・そうじゃなくて・・・」
ベル姉ちゃんは笑いながらシャワーを止める。
「ベル姉ちゃんはなんで、あの海岸に居たの?」
話を変えるために、ぱっと思いついたことを言った。それだけだった。
が、ベル姉ちゃんは急に真剣な顔になった。
「知りたいか?」
どうしたんだろう。何か触れちゃいけない事だった?
ベル姉ちゃんは、今度はぼくの前に入る。
体育座りする僕を挟み込むように足を広げ、お風呂のへりに手をかけ、ぼくをまっすぐに見た。
「私はな、この島から出れないんだ。」
・・・どういうことだろう。仕事があるとか?
「私は、悪魔だ。」
悪いことをしたって事?
悪魔的に美しいって事?
「私は過去に、ある罪を犯し、その罰として、千年、この島に閉じ込められたんだ。」
せんねん。せんねんて。どこまで本当なんだ。
ぼくをからかっているのか?
でもさっきのとは違う。目が真剣だ。
「あの海岸、たまに、湿度とかの関係で、空気が澄んでるときは本土が見えるだろう。
たまに見に行くんだよ。あの海岸に。」
ベル姉ちゃんは、首を傾け、悲しそうに笑った。




