第11話 少年と真実
ギシッ
「ん?」
奇妙な音が倉庫の中に響く。
それは明らかに聞こえる大きさで、聞いたことのない音。
なんだ?とその場にいる人間が思った瞬間、
ベルフェゴールの頭と体を入れたトランクの“フタ”が、メキメキと変形していく。
それが、聞いたことのない音を出している。
老人が叫ぶ「どうなってる!?ちゃんと拘束したのか!?」
隊長と思われる男が答える「4重にやったぞ!?」
部隊の人間は各々が武器を手に取る。この対応の速さは場数を踏んだ人間の動きだ。
トランクが破壊され、中からベルフェゴールの首がごろん、と転がり落ちた。
そこから、ごろん、ごろん、と、転がって、倉庫の真ん中に移動する。
そこでピタリと止まった。
あまりの光景に息を呑む悪魔狩りの人間たち。
すーっと、首が中に浮く。
傷だらけの頭、その目がギラリと光る。
一人が剣で斬りかかる。が、剣は木の枝のように、グニャグニャにねじれて、細くなり、曲がった。
次の瞬間、その場に居た人間全員の腕がボキリと折れた。
倉庫に響き渡る悲鳴。絶叫。
隊長が叫ぶ。「お前は・・・一体何者だ!!」
「いっただろう。私の名はベルフェゴール。魔界で最強の悪魔の一人。悪魔将軍ベルフェゴール。」
全員の腕が折れて、武器を持つことができない。
「くっ・・・」
「たしかに、悪魔は首を切られると、その力が弱まる。だけどねぇ、
たとえ首だけになっても、お前ら全員をビー玉みたいに圧縮することはできる。」
ベルフェゴールの顔の傷が、グニャグニャと修復されいく。
圧倒的な力の差。悪魔狩り部隊は全員死を覚悟した。
「本来なら、人間ごときに封印される私じゃない。」
ベルフェゴールの首はくるりと周り老人の方を見る。
老人は逃げ出そうとすでに走り出している。
が、ベルフェゴールが睨むと、両手両足が同時にねじ切られ、手と足が吹っ飛ぶ。
「だがあの封印は強力だった。正直自力では脱出できなかった。
あれは人間に作れるモノじゃあ無い。これがどういう意味かわかるか?」
ベルフェゴールは隊長らしき人間に質問する。
「何の話だ・・・?」
「こういうことさ」
ベルフェゴールが念じると、車のボンネットが剥がれ飛び、ねじれ、一本の槍になった。
それが老人のもとへ弾丸のように襲いかかる。
しかし、それは当たる瞬間、エネルギーがゼロになったかのように、地面に落ちる。
グワワンワンとたわみ音をだす槍。
「それ以上芝居を続けると殺すぞ。」
「わかったわかった。」
ベルフェゴールが脅すと、老人は怯えることをやめ、動きが止まった。
そして、体が縦に、背中から真っ二つに割れていく。
「な・・・」
驚く部隊の人間たち。
それは着ぐるみのように、外側だった。
中からは、青い髪、ツインテール、赤い半透明の角、褐色の肌の女が出てきた。
「どうもみなさん。こんばんわ。アルレッキーノです。悪魔です。」
悪魔狩りの人間たちは、驚いて何も声が出ない。
車のトランクから、緑色の紐が伸び、くるくると空中にあるベルフェゴールの首の下にくっつき、
体を作っていく。
「悪魔狩りのボスは悪魔だった、ってことだ。知らなかったのかお前ら?」
ベルフェゴールは部隊の人間を嘲笑する。
「どういうことだ!?騙していたのか!?」
隊長は怒りを表す。
「社長が悪魔って・・・」
部下の人間も動揺を隠せない。
アルレッキーノはぴょんと飛び跳ね、空中で横になり、何もないところでベッドに寝転がるように、
くつろぐ格好をした。
「いやぁ~騙すだなんて人聞きの悪い。オレは一度も嘘は言ってないぜ?」
「ふざけるな!」
激昂する隊長、及び、部下たち。
「おいおい、怒るなって。」
くるりとアルレッキーノが回って隊長の方を見る。
空中で上下逆さまになっている。
「お前たちに言った事もすべて真実だ。悪魔を殺せ。場所はここだ。やり方はこうだ。報酬はこれだけだ。道具はこれだ。すべてに嘘は無い。お前たちにも、何も不都合も不利益もなかっただろう?」
隊長が毅然と反論する。
「お前は悪魔だ。悪魔に利用されていた。それは許せない。」
「おいおい、それの何が悪いんだよ。悪魔がこの世から減るのは良いことだろう?」
「それはお前の利益になるだろう。悪魔の利益に加担した。」
「なら切腹でもするか?」
「貴様・・・!!」
アルレッキーノと悪魔狩り隊長が会話している間に、ベルフェゴールは完全に復活していた。
頭に半透明の緑の角が生え、緑色のドレスに身を包み、その姿は完全無欠の美しい女だった。
「おっと、おしゃべりはもう終わりだ。ベルフェゴールと戦っては命がいくつあっても足りん。」
「待てっ!!」
アルレッキーノはふっと煙のように消えた。
「まったく・・・つまらんやつだ。」
それを見た後、ベルフェゴールは残された悪魔狩り部隊を見渡す。
「さぁ、どうする?」
部隊に対して、やる気があるならかかってこい、といったような態度だ。
しかし、彼らにもう戦う気はなかった。両腕をへし折られたのが原因ではない。
少なくとも、自分たちは正義の行いをしていた、と思っていたことが悪魔の命令によって、
行っていた事だと判明したからだ。
「・・・」
何も答えない。答えられない。それほどにショックを受けているのだ。
いくらかの静寂が流れた後、
急に気温が下がった。
冷蔵庫にいるような冷たさ。
部隊の人間は恐怖であたりを見回す。
ベルフェゴールは動じない。何が来るかわかっているようだ。
そして、煙が一箇所に集まり、人の形を作り、悪魔が現れた。
アルレッキーノではない。新しい悪魔。本物の悪魔。
長い黒髪をオールバックにした、皮膚が異常に白い、黒の長袖、黒のズボン、黒の靴に身を包んだ、
明らかに怪しい男。
「お前が来たか。悪魔魔人、バフォメット」
ベルフェゴールはその顔を知っていた。
「わかっているな。私がなぜここに来たのか。」
ベルフェゴールはその理由も知っていた。
「ああ。わかっている。」
「お前は禁を破った。」
「ああ。」
「島から出た。地獄の最下層に送られる。」
「だろうな。」
「待って!」
「誰だ?」
ぼくは飛び出した。ベル姉に隠れてろと言われたけど。
「僕は・・・ベルフェゴールの・・・家族だ!!」
バフォメットは意外そうにベルフェゴールの顔を見る。
だがベルフェゴールは何も答えない。
「ぼくも行く。ベル姉といっしょに。」
ベル姉はぼくを見ない。
その後、ふっとベル姉も、バフォメットと名乗る悪魔も消えた。
消えた。お別れの言葉を言う時間も無いまま。
それから、ベル姉ちゃんは戻ってくることはなかった。




