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理不尽に内定を取り消された白魔女ですがパワーカップルに拾われたのでお二人を全力で新婚旅行に送り出します!!  作者: 井上数樹
第二話

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Part5:Black Oak Knights Entityだそうです

 瞬く間にわたしは地上5ヤートの位置まで持ち上げられ、宙吊りにされた。


 目と鼻の先にピクルスお化けの汚い唇があって、そこから大量の唾とともになんだかよく分からない訴えが叩きつけられた。



『我々は|黒樫の騎士団の集い《Black Oak Knights Entity》です!!


 我々は|黒樫の騎士団の集い《Black Oak Knights Entity》です!!


 我々は|黒樫の騎士団の集い《Black Oak Knights Entity》です!!』



「分かった分かった!! 分かりましたから怒鳴らないでください!!」



 驚くべきことに、ピクルスのお化けはぴたりと口を閉じた。


 正直とても会話の成り立つ相手と思えなかったので、一瞬このまま解放されるかと期待を抱いてしまった。いかんせん、こちらは宙吊りにされて頭に血が昇っているうえ、スカートまで捲れかかってもう大変なのだ。


 甘かった。


『…………つらい〜……』


 頭巾の一部に水が染み出す。恐らくそこに目があるのだろう。怪物はそこからさめざめと涙を流し始めた。もし同じだけの涙を人間が出したら、涙腺が破裂するんじゃないだろうか。


 涙の量もさることながら、急に「つらい」と言って泣き出されても困る。


「……え、何が?」


 そう、思わず真顔で答えてしまったのがまずかった。


 ピクルスお化けが大きく口を開き、天を仰ぎながら再び慟哭を始めた。



『我々は|黒樫の騎士団の集い《Black Oak Knights Entity》です!!!!


 我々は|黒樫の騎士団の集い《Black Oak Knights Entity》です!!!!


 我々は|黒樫の騎士団の集い《Black Oak Knights Entity》です!!!!



 もう、涙も唾も物凄い勢いで飛んできた。


 でもそれ以上に、耳から入り込んでくる絶叫と、その声の中に練り込まれた黒々とした魔力の方がこたえた。わたしは悪酔いに似た不快な酩酊感を覚えていた。


(この感じ、呪障?!)


 もっと早く気づくべきだった。


 状況のあまりの突飛さに惑わされて、当然考えるべき可能性を見落としていた。


 こんな事象、呪い以外にあり得ない。


(早く、防御術を……!)


 もはやスカートを手で押さえている余裕なんて無かった。


 腰の杖帯(ソードホルダー)に手を伸ばすけど、ヒートアップしたピクルスのお化けは一層声を張り上げる。黒い魔力の波動が叩きつけられ、酷い頭痛に襲われた。


「うるさ……っ!」


 杖を取ろうとした手で反射的に耳を押さえていた。でも、呪いの声は強引に頭のなかに入り込んでくる。


『我々は|黒樫の騎士団の集い《Black Oak Knights Entity》です!!!!』


『我々は|黒樫の騎士団の集い《Black Oak Knights Entity》です!!!!』


『我々は|黒樫の騎士団の集い《Black Oak Knights Entity》です!!!!』


「げっ」


 そのうえ最悪なことに、立ち並ぶアパートをすり抜けるように怪物たちがぞろぞろと姿を現す。瞬く間にわたしはピクルスお化けの包囲網下で、文字通り吊し上げられてる状況に陥った。


 今からサバトでも始まるのかって雰囲気だ。このまま生贄として、ぐつぐつ煮えたぎった鍋にぶち込まれかねない。


 というかこの量の呪障をまともに浴びたら、シチューになるより先に死ぬ!!


『我わ』


 わたしを吊るしている一体が一際大きく口を開いた刹那、戦艦の大砲のような轟音とともに、怪物の上唇から上が吹き飛んだ。


「えっ?!」


 頭を失った怪物がぐらりと姿勢を崩す。当然わたしも、建物三階くらいの高さから落下したのだけれど、その落着地点に奥様が駆け込んでくるのが見えた。




「シライナァァァァァァ!!!!」




 怪物たちのコーラスさえ吹っ飛ばすような大声をあげながら、奥様が走ってくる。片手に握った杖を振ったと見えた瞬間、わたしの真下で透明な水が湧き上がり、瞬く間にクジラの姿になった。


『ホェー』


「きゃっ」


 クジラの背中は、小さい頃に遊んだトランポリンのようだった。


 わたしの身体はクジラの背中でぽよんと一回跳ねて、それから奥様の腕の中に収まった。


「ごめんなさいっ、狙いをつけるのに手間取ったわ!」


 やっぱり奥様の魔法だった。


「た、助かりました〜……」


 ほっと一息ついた……場合じゃない!


「奥様、囲まれてます!!」


 太陽の光を覆い隠すように、集まってきたピクルスの怪物たちがわたしと奥様を取り囲み見下ろした。


 黒々としたローブから、それよりもさらにどす黒い瘴気と敵意が立ち上っている。一斉に襲い掛かられたら少なくともわたしはひとたまりもない。


「上々吉」


 でも奥様は違った。


「囲まれたということは、一網打尽にできるということよ」


 一角鯨(モノケロス)の牙から作られたレイピアのように鋭利な杖を振るうと、たちまちわたしたちの周囲に透明な水流が湧き上がった。


『『『我々は|黒樫の騎士団の集い《Black Oak Knights Entity》です!!!!』』』


 怪物たちの胴体から何節にも折れ曲がった細い腕が飛び出し、わたしたちに向かって殺到する。反射的に頭を守ろうとしたけど、結果的にその腕は一本たりとも届かなかった。


「無礼者!」


 奥様の素早い腕の動きとともに、足元の水流が防壁のように立ち上がり、怪物の攻撃を妨げた。


 のみならず、水の壁の一部が大砲のような形に変化し、そこから発射された水弾が怪物の一隊を薙ぎ倒す。


 その轟音たるや、怪物の忌まわしい叫び声すら天の果てにまします聖女様まで吹っ飛ばすぐらいに凄まじい。


 胴をぶち抜かれた怪物の上半身が、防壁のすぐ向こうにばらばらと散らばった。


 ちょうど首だけになったパーツが目前に落下。わたしと目(?)が合う。


『いたい〜!』


「ひっ?!」


 頭だけになっても喋ってる!


 もうこっちが「こわい〜!」って叫びたくなった。


 それを我慢できたのは、怪物のばらばらになったパーツが蠢いて、それぞれ別の個体になろうとしていることに気づいたからだった。


「っ、奥様! 増殖しようとしてます!!」


 砲撃の音に負けないよう大声で叫ぶ。


「そう」


 幸い、わたしの声は何とか届いた。


「じゃあシライナ、何分割すれば良いかしら」


 残念、意図が伝わってない。


 奥様は砲撃を再開。宣言通り怪物の軍勢を粉微塵にする勢いで攻め立てるけど、敵は引も切らさず寄せてくるし、流れ弾であちこちの煙突をへし折っていてもう滅茶苦茶だ。


「おい戦艦女、いい加減に戻ってこい!! ウェストエンドを廃墟にする気か?!」


 マイカ先生がより直接的に怒鳴ってくれたお陰で、ようやく奥様は攻撃を切り上げた。


 実際、情け容赦の無い砲撃で怪物の攻勢は弱まっている。退くなら今しかない。


「奥様撤退です!!」


「まだ敵が残ってるわ」


「このままじゃわたしたちが公共の敵(パブリックエネミー)になりますよ!」


「むぅ……」


 不承不承(ふしょうぶしょう)と顔に書いてあったけれど、奥様は最後に一斉射して追撃を断ち切ってから、わたしに背中を押されてアパートに入った。


 すぐ後ろで、散々に吹き飛ばされた怪物たちが再び身体を形成する気配を感じた。


 あの叩きつけるような怨嗟の声が響き渡るまで、いくばくもないだろう。


「せめて、家に入り込まれるのは阻止しないと……!」


 奥様を家の中に押し込んでから、わたしは杖帯に吊るした杖と数本の護符を引き抜いた。


「聖なる樹々たち。我らの砦、我らの櫓となって現れよ!!」


 護符を地面に投げつけると同時に杖を振るい、封じ込めた白魔法を解放させる。


 魔力の触媒に使ったのは、カートレット家の近くにある例の森から採ってきたオークの根。いかなる場所にも強く根付く、生命力の塊。それは、たとえ汚れ切った首都(シティ)の地面であっても変わらない。


 投げつけた触媒は石畳に深々と突き立ち、わたしの魔力を受けて即座に建物を覆うほどの大木へと育った。


 基本通りの結界術だ。


 術が成立した直後、復活した怪物たちの腕が木々に掴み掛かった。


『かたい〜』


『うざい〜』


 そう、怪物たちに多少揺さぶられてもびくともしないし、彼らは魔力でできたオークの内側に入れない。結界とは、内と外に異なるルールを設けるものだ。わたしが許可しない限り、彼らはこのなかに入ってこれない。


『いれて〜』


「え、絶対無理」


 もう逆さづりにされてスカートをめくられるのは御免だ。


 わたしは思いっきり力を込めてドアを閉めた。


 閉めると同時に緊張の糸が切れて、ずるずるとその場に腰を落としてしまった。


「た、助かった〜……」


 ほんとにそうだろうか? と頭のなかの理性的なわたしが水を差した。


「すっかり包囲されてしまったわね」


「おお、まるでオーレリア包囲戦の如くだ。ちょっとアガるな」


 窓の外でウゾウゾと蠢いている怪物たちを見やりながら、奥様も先生も呑気にそう言っている。


 なんだかもう、このまま頭を抱えたくなった。


「シライナ、あれはやっぱり呪いの一種かしら?」


「恐らくは。でも、呪障が具現化するなんて相当重いケースです。下手したら旦那様のより酷いかも……」


「そんなに。一体、誰がどんな理由で呪われてしまったのかしら」


「あー……」


 マイカ先生が乱れた髪をぼりぼりと掻き回した。


「もしかしたら原因、俺かなぁ」


「一体何をやったんです?! こんな酷い呪い、そうそうありませんよ!」


「おー……うん」


 先生は短くなった葉巻を口の端で揺らしながら、こともなげに言った。


「ぶっ殺したからかなぁ、(キャラ)を」

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