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【Side Story】リサの再出発

三章は、明日の12時スタートです。



 フクロウ亭には、新しい住人が増えていた。

 かつて「劣化コピー」と蔑まれた女性職人、リサである。


 彼女は現在、ソフィアの部屋に居候し、寝食を共にしている。

 ソフィアとしては、初めての「弟子」ができて、毎日が楽しくて仕方がない。

 朝起きてリサがいる。工房で一緒に作業ができる。それだけで、ソフィアはニコニコと上機嫌だった。


 だが、リサ本人は違った。


 カラン、コロン。

 夕暮れ時。リサが重い足取りで店に戻ってきた。


「ただいま……」

「おかえりなさい、リサさん。どちらへ行っていたんですか」


 ソフィアがパタパタと駆け寄ると、リサは気まずそうに目を逸らした。


「……ギルドよ。仕事を探しに」

「え……」


 ソフィアの表情が、目に見えて曇った。


「就職、ですか。……出て行っちゃうんですか」

「いつまでもあんたの世話になるわけにはいかないでしょう。あたしだって、自分の食い扶持くらい稼がないと」


 リサはぶっきらぼうに言ったが、その表情は暗い。


「でも、ダメだったわ。どこの工房も門前払い」

「……」

「あたしの悪評……『劣化コピーのリサ』って名前は、まだ業界に残ってるみたい。技術を見てもらう前に断られちゃった」


 リサが溜息をつく。

 すると。


 ぱぁ……っ。

 ソフィアの顔が、花が咲いたように輝いた。


「そ、そうなんですね。それは残念ですね」

「……あんた、顔と言葉が裏腹よ」

「す、すみません。不謹慎ですね私。リサさんが困っているのに喜ぶなんて」


 ソフィアは自分の頬をペチペチ叩いた。

 その様子を見て、リサは毒気を抜かれたように笑う。


「……はぁ。あんたって、本当に調子狂うわね。可愛いけど」

「で、でも、実際どうしましょう。生活費、必要ですよね」

「そこなのよ。このままだと、無職の居候になっちゃうわ」


 リサが頭を抱えていると、店のドアが開いた。


「こんばんは。調子はどうだい、二人とも」


 現れたのは、OTK商会のマリアだった。

 彼女は事情を聞くと、あっけらかんと笑い飛ばした。


「なんだい、そんなことか。簡単なことさ」

「簡単?」

「ああ。『緋色の妖精』ソフィアちゃんの弟子だと言えばいい。彼女の名前を出せば、引く手あまたさ」


 マリアの言葉に、リサがハッとする。

 確かにそうだ。

 今やソフィアは、帝都を救った英雄であり、新進気鋭の天才職人。その「一番弟子」となれば、どの工房も喜んで雇いたがるだろう。


「あ……」


 ソフィアが、また気落ちしたように項垂れた。

 リサが就職できてしまう。出て行ってしまう。


 だが。


「……いいえ。それは、できないわ」


 リサは静かに首を横に振った。


「え? どうしてですか。私の名前でよければ、いくらでも使っていいんですよ」


「……あんがと。でも、そのせいであんたの評判下げることになるのは、嫌」


「リサさん……」


「あんたには世話になった。もう十二分にね。その上で迷惑なんてかけられない」


「…………」


 リサの主張を、ソフィアは理解できた。しかしそれでもリサが困ってる状況をほっとけなかった。


(ほんと、優しいだから……)


 リサは、ソフィアがどう言っても、自分を助けようとしてしまうだろうと思った。

 だから、アプローチを変えてみることにした。


「それにね、ソフィア。このままじゃ、あたしの、職人としてのプライドが許さないの」


「職人としてのプライド……」


 リサは拳を握りしめた。


「かつてのあたしは、婚約者の名前や、技術にぶら下がって生きてきた。その結果が『劣化コピー』よ。……また誰かの名前を借りて生きるなんて、真っ平だわ」


 彼女の瞳には、職人としての、一人の人間としての強い光が宿っていた。


「あたしは、あたしの実力を認めさせたい。ソフィアの弟子としてではなく、『職人リサ』として」

「リサさん……」


 ソフィアは感動で目を潤ませた。

 なんて格好いいんだろう。やっぱり、リサさんは凄い人だ。


 職人としてのプライドの話をされてしまった以上、ソフィアにリサを止めることはできない。己もまた職人として、譲れぬものがあるから。


「……とはいえ、霞を食べて生きていくわけにもいかないだろ?」


 とマリアが現実的な話をする。


 リサはバツが悪そうに頬を掻き、ソフィアに向き直った。

 そして、深々と頭を下げる。


「お願い、ソフィア。あたしが一人前の職人として認められるまで……ここの工房で、バイトさせてください」

「……」


 ソフィアは、満面の笑みで答えた。


「はい。喜んで」


 こうして、フクロウ亭に正式な「アルバイト店員」が誕生したのだった。


明日から三章スタートとなります。


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― 新着の感想 ―
(ほんと、優しいだから……) 優しいのだから でしょうか。 裏腹ではなく、真逆?
まってたー また、よろしくお願いします。
リサの職人としての成長も実は気になっています笑 リサの成長サイドストーリーもソフィアとの職人技コラボレーションストーリーも読みたい、読みたすぎる! 第三章楽しみすぎる!
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