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ワーホリ後宮薬師は変人皇帝に溺愛されたくない   作者: kiyoaki


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第93話 キラキラの蛍光白衣から宝石泥棒捕獲作戦だよ<三>

「洗濯で使う『白龍粉(はくりゅうふん)』っていう高級漂白剤が原因らしいんだけど」

「白龍粉?」

「洗滌局のおばちゃんたちが、白衣を洗う際に『秘伝の白粉』を仕上げに使ってくれてるみたいなの。『凜華ちゃんは陛下のお気に入りなんだから、後宮で一番輝いてもらわないと!』って張り切ってて」


 洗滌局では、皇帝の白地の衣類を洗う際は「白龍粉」なる専用の高級漂白剤を使っている。

 これは「硼砂(ほうしゃ)」と「明礬(みょうばん)」の粉を混ぜ合わせたものである。

 明礬はともかく、天然の「ホウ酸塩鉱物」である硼砂は非常に高価なものだった。汚れを落とすだけでなく、水を軟らかくし、白さを引き立てる効果がある。

 洗濯女たちは皇帝の白い御衣を洗う際、凜華の白衣も一緒に入れて洗っていた。「夫婦みたいなもんなんだから、同じ漂白剤を使ってもかまへんやろ」みたいなノリである。

 凜華は洗滌局出身(というほど働いてもいないが)の希代の星であり、無償で診察もしてくれるありがたい存在。ささやかな感謝の気持ち、洗濯サービスのつもりだった。


「白龍粉は陛下専用で、本当は使っちゃいけないんだけど」

「いや、そんなことはどうでもよい」

 景雲は、皇帝専用の漂白剤が凜華の衣類に使われていること自体はどうでもよかった。咎める気もない。

「その硼砂と明礬とやらは光るのか?」

「ううん、光らない。白龍粉に蛍光増白剤かなんかが混ざってるんだと思う。たぶん『ウミホタル』の粉」

「海蛍……? 虫か?」

「虫っていうか、甲殻類だけどね。ウミホタルの体内には『ルシフェリン』という発光物質と、それを光らせるための酵素『ルシフェラーゼ』が含まれている。これらは乾燥させても長期間性質を保つ。粉末にして布に擦り込んでおくと、雨や霧で『水分』を吸収した瞬間に再び酵素反応が起きて、こうやって青白く発光する」

 白衣は白龍粉で漂白したはずが、なぜか紛れ込んだウミホタルの粉末によって、物理的に青白い光を放つようになってしまったのだ。

 晴れの日は水分がないので光らないが、今日のような霧の夜に着て庭に出ると、全身の布地が水分を吸って猛烈に発光を始めるというわけである。

 これが、人々を震え上がらせた「壺天閣の光る幽霊」の正体であった。


 呆れながらも、景雲は問わずにはいられなかった。

「で、お前は夜な夜な光りながら、庭で何をしていたのだ」

「実験に使うミミズを掘ってた」

「ミミズ?」

「雨の日はよく採れるんだよね。見て見て」

 凜華が嬉しそうに、持っていた深皿を景雲の顔の高さまで突き出す。青白い光にホラーチックに照らされた深皿の中には、採取したばかりのミミズが何匹も元気よくうねっていた。

「……ミミズだな。しまえ。今すぐ視界から外せ」

「いいミミズでしょ? 特にこの太いやつ、動きが活発で最高。良質な土を食べて、栄養満点のフンをたくさん出して欲しいんだよね。ミミズのフンには天然の抗生物質が含まれてる可能性があって……」

「……」

「あ、触ってみる? ぷにぷにしてるよ」

「触るか!」

 こいつは何を言っているのだろう……と思いながら、景雲は剣を鞘に収め、ため息をついた。

 雨の日の夜に、全身から青白い光を放ちながらウキウキとミミズを採る女。

 これが好きでたまらず、妃にしようと目論んでいる自分も頭がどうかしていると言わざるをえない。


「馬鹿馬鹿しい。洗滌局に文句を言って、洗い直させろ。そのような気味の悪い服を着てウロウロされては、ここの風紀に関わる」

 景雲は苦言を呈したが、凜華は「えー」と不服そうに口を尖らせた。

「いいじゃない、これはこれで便利だよ。手燭を持たずに歩けるし。キラキラしててかわいいし」

「かわいくはないだろう。どう見ても発光する妖怪だ」

「妖怪じゃないよ。暗いところを歩いても、目立つから馬車に轢かれる心配もないし。安全のための反射材(リフレクター)効果にもなる。もし誰かに狙われても『うわっ、光った!』って驚いてる隙に逃げられるしね」

「暗殺者でなくても、お前が光っているのを見た時点で、関わり合いになりたくないだろうな……」

 くるりとその場で回ってみせる凜華の白衣は、暗闇の中でぼんやりと幻想的に輝いていた。

 彼女が動くたびに光の尾を引き、きれいといえばきれいだが、不気味といえば不気味である。

 本人が大層気に入っている様子なので、景雲もこれ以上は文句を言う気が失せてしまった。


 同時に、彼は凜華の呑気な言葉の中から、一つの違和感をいだいた。

「……凜華。ウミホタルとやらは、内陸の川や湖にも生息しているのか?」

「海水生だから、海辺の砂浜にしかいないよ」

「ウミホタルの粉に漂白効果はあるのか?」

「ないよ」

 景雲の表情が、スッと険しくなった。

 ここは、海から遠く離れた内陸の都である。海産物を運ぶだけでも莫大な輸送費と氷が必要となる。

 粉にしてから運ぶにしても、なぜ洗滌局で使っている漂白剤に手に入りにくい海辺の生物の粉が混ざったのか?


「……なぜウミホタルなのだ」

「え? なんか言った?」

 景雲の独り言に凜華が反応する。景雲は咳払いし、大真面目に言った。

「いや、なんでもない。その白衣は……気に入っているのならそのまま着ていればいい。ただし、ここの者たちを脅かして回るのは控えよ」

「脅かしてないよ。ミミズ掘ってただけです!」

 かくして、後宮の幽霊騒動は「薬師が着ていた蛍光白衣」というアホらしい結末を迎えた。

 結局、景雲は幽霊の正体を周囲に明らかにはしなかった。

 壺天閣は相変わらず怪奇スポット、住んでいる凜華は魔女や妖女だと恐れられていた方が、用のある者以外は近づかないので安全かと考えたのである。


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