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ワーホリ後宮薬師は変人皇帝に溺愛されたくない   作者: kiyoaki


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第46話 セレブお茶会用の高級茶を考えるよ<上>

 さて、古来より美を追い求める女たちの執念は、時に珍妙なる飲み物や怪しげな薬膳を歴史に誕生させてきた。

 絶世の美女とうたわれた楊貴妃が美貌を保つために珍重したという阿膠(あきょう)(ロバの皮を煮詰めた(にかわ))入りの茶は、その生臭さを消すのに料理人たちが血の滲むような苦労をしたというし、西洋の貴婦人たちは肌の透けるような白さを演出するためにヒ素入りのお茶を優雅に啜っていたという。周囲の人々も、美に憑りつかれた女たちの胃袋も、怪しげな食材の加工や消化にさぞかし苦労したことだろう。


 後宮の片隅にある下女用の住居房で、凜華は乳鉢で粉をゴリゴリと挽き続けていた。

「研究にはお金がかかる。でも予算は使い果たしちゃった……。だったら、あるところから貰うしかないもんね」

 凜華が現在、寝食を忘れて(と言いつつ三食きっちり食べているが)没頭しているのは、安全かつ高品質な化粧品の開発であった。

 この時代の女たちが顔に塗りたくっている白粉は、多分に鉛を含んでいる。塗れば塗るほど肌は黒ずみ、精神を病んでいくという本末転倒な代物だ。

 そこで凜華は、安全な鉱石(雲母や滑石)をすり潰して精製し、生薬や植物の抽出液を練り込んだ化粧下地を考案した。さらに米粉から作った白粉、紅花や青黛(せいたい)を用いたアイシャドウや頬紅など次々と新作を作ってゆく。

 特に口紅のラインナップは圧巻であった。

 王道の「真紅(レッド)」「薄紅色(ピンク)」はもちろんのこと、現代風の落ち着いた「米黄色(ベージュ)」、高貴な身分の女が好むであろう妖艶な「薄紫(モーヴ)」まで取り揃えるという、顧客のニーズを完全に把握した商品展開である。

 ついでに、高価な香油をたっぷり混ぜ込んだ高級石鹸から無香料の安価な実用石鹸まで作り分けていた。


 そんな折、自室の扉が開かれた。

 先春殿に仕える周但娘が下女を引きつれて、澄ました顔で入ってくる。

「梅妃さまがお呼びよ。あんたに、折り入ってお願いしたいことがあるそうだから。すぐに来なさい」

 梅妃といえば、名族・蕭家の出身。後宮の妃の中でも一、二を争うお金持ち。凜華の顔が輝く。

「梅妃さまがお呼び? 喜んで参りますとも!」

 飛んで火に入る夏の虫……ではなく、絶好のビジネスチャンスである。

「今すぐ行くわ。飛んでいくわ。ああっ、梅妃さまにお会いできるなんて、なんて光栄なの。めちゃくちゃ嬉しいいいいっ!」

「えっ、何なの。こわっ……」凜華の打算しかない勢いに、但娘は引いている。

 凜華は試作した化粧品の数々を箱に詰め込むと、意気揚々と先春殿へ向かったのである。


 一方、凜華を待ち受ける梅妃は、見事な透かし彫りの長椅子に身を横たえながら、自身の肌の調子がすこぶる良いことに満足していた。

「滑雪膏」を使っていた時は肌荒れを起こしていたのだが、凜華が持ってきた「凜雪膏」に切り替えてからというもの、見違えるように肌のキメが整いくすみも消えた。

 梅妃はただ美しいだけの女ではない。

「あの洗濯女が凄腕の薬師というのも、あながち本当かもしれぬ。美と健康の真理も知っているか」と睨み、下々の者に凜華の身辺を探らせたのだった。

 下女たちの報告は、奇妙なものばかりだった。

「下賤の肉とされる豚肉を日常的に食しております」

「炒った麦を煮出した汁をガブ飲みしております」

「近所の下女たちに、ひどい悪臭を放つ草を配って使わせているようです」

 常の妃であれば「なんと野蛮な……」と眉をひそめるところだが、梅妃は違った。

「あの者がやっていることには必ず(ことわり)があるはず」と考え、上質な豚肉と麦、そして周家から蕺草、ドクダミを取り寄せ、凜華の真似をして常食・常飲してみたのである。

 結果は驚くべきものであった。豚肉(ビタミンB1の宝庫)のおかげで疲労感が消え、麦茶(ミネラルが豊富)によって寝付きが良くなり、ドクダミの煎じ薬(強力な抗菌・デトックス作用)によってお通じも改善し、吹き出物一つない陶器のような肌を取り戻したのだった。


 さらに梅妃は、皇帝・景雲の変化にも気がついていた。

 かつては些細なことで癇癪を起こし、眠れないために夜な夜な徘徊を繰り返し、官吏に執拗に絡んでは恐怖に陥れるという奇行が目立っていた彼は、凜華が仕えるようになってからは見違えるように落ち着いた。昼間は政務に邁進し、夜は早々に寝所に入って眠っているようである。顔色もよくなり、目の下の隈も薄くなっている。

 あの気難しい皇帝の心身を健やかにするのは、並大抵のことではない。身分は卑しくとも信頼され、寵愛されるのも無理からぬことと考えていた。

 頻繁に召し出しを受ける凜華に対して複雑な気持ちがないわけではないが、長い目で見るならばあれはこちら側に取り込んでおいた方がよい……。

 そんなことをつらつら考えていると、部屋の外から但娘の声がした。

「梅妃さま、お呼びの者を連れてまいりました」

「入れ」

 案内されて部屋に入ってきた凜華は、大きな箱を掲げたままにっこりと微笑んだ。


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― 新着の感想 ―
コスメが大好きなので凜華が化粧品やメイクグッズを作る話が読みたいです!
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