第12話 魔物との決戦〜決戦篇〜 第4戦菅生 決勝
どうも!ラドロです!今回はすこし間が空いてしまいました…
それでは、どうぞ!
シーズン折り返しの菅生戦は曇り空で決勝を迎えた。現在フォーメーションラップだがすでに各チーム、勝利に向けて無線を飛ばしていた。
「予報では降ったり止んだりと曖昧なものしかないので降雨時には春樹の判断でレインタイヤに変えるかを判断してもらうので意識してください」
「了解。今の所ドライだからしばらくは何も考えずに行くよ」
『さあ今マシンが隊列を維持してメインストレートの坂を登りきった。そして…シグナルが…いまグリーンに変わった!全28周の菅生戦、今始まりました、各マシンが隊列を解き1コーナーへとまっしぐら!』
今戦からポイントが50ポイントを超えハンディウェイトが上限の100キロ分課せられたKON。今回ばかりは苦しい戦いが強いられ、1コーナーで2台に抜かれ最下位となってしまった。
一方前方でもオープニングラップから大きく動きを見せるドライバーがいた。
ポイントランキング3位のクイーンZ、高田望美だ。1コーナーで背後にピタリと付くとそのままその先にある緩やかな左コーナーで一気にステアリングを切り、横に並ぶ。直線は並んだままだったがその次は左への鋭角コーナー。インについていたクイーンが2番手に浮上した。
レース5周。ここまでちらほらオーバーテイクなどがありつつも特に波乱はなく順当に進んできた。しかしその状況も一変する。そう、雨が降り始めたのだ。ドライバーが次々と悲痛な無線を飛ばす。マザーもその例にもれなかった。
「やばいよ、タイヤが全然グリップしない!」
「耐えて耐えて。もう少し様子見たい」
しかしそんな中いち早く行動に出たチームもいた。
『おっとぉ?ここで15番手を走行していたKONがピットに入ります。レインタイヤに変えるのでしょうか』
実況の予想通りKONはピットへ入るや否やタイヤをレインに交換して無給油、ドライバー無交代でピットアウトした。これで前との差はかぎりなく大きくなったが、それでもラップタイムはこれでダントツのトップだ。差を一気に縮めにかかる。
それから2周。私ー高島由衣ーは少しずつではあるが前との差が縮み始めているのに気づいた。すると自分の心の声を読んだかのように無線が飛んできた。
「由衣。前との差が、降雨前とくらべて2秒ほど縮んでいます。頑張って」
やはりそうなのだ。雨が降るとコーナーではスリックタイヤを履いている場合、ハンディが軽かろうと重かろうと同じスピードにまで下げて通らなければならない。つまり少なくとも晴れのときよりも差の広がり方は小さくなる。加えてハンディをうまく利用して私はコーナーで差を縮めることに成功したのだ。
(スピンしないようにしないとね…)
そう思いながら馬の背コーナーを通過した時のことだった。
「由衣!ピット入って、ピット入って!」
「何、何、どうしたの!」
「レインボーコーナーでマシンがコースアウトしてスタック。多分FCYは出る」
「了解!」
そして私はマシンをピットに運ぶ。ピットロードにはいったその刹那ミニパネルが黄色に変化し、FCYが表示された。ギリギリのところでピットに滑り込むことができたのだ。これで他チームはレーシングスピードで周りが走る中レインタイヤに変えていた中自分たちだけは周りが80キロ以下の低速走行のときにレインタイヤに変えたことになるので実質的なロスタイム、他との差を抑えるのに成功、ポジションは大きく上がることになると思われた。
FCYが解除されるころ、周回数にして9周目。トップのウィダーから無線が飛ぶ。
「やんだ。雨はやんだ」
「了解。わかってるとは思うけど見た所まだコースは濡れてるからね。リスタート気をつけてね」
そしてレースは周回数10周でリスタートした。その頃にはなんと菅生の空には晴れ間が見えてきていた。上下位の一部や中位にいたチームの多くは再びタイヤ交換を余儀なくされるため、多くのマシンがピットに入った。なぜならレインタイヤは晴れの日の路温よりもかなり低い温度で走ることを想定されているのでレインで晴れの中走ると熱でタイヤがタレ、あっという間に使い物にならなくなるからだ。そして最初にタイヤ交換したKONも例外ではなかった。
「タイヤやばい。濡れてる所走ってるけど、タイヤが限界だ」
「あと1周だけ粘って。そしたら給油等をふくめた普通のピットするから」
「了解」
そしてその言葉通り、KONはなんと11周でドライバー交代、給油を含めた通常のピット作業を敢行した。ほかのレイン組に比べるとピット回数は1回節約できるので有効なリカバリーと言えるだろう。しかしなぜこんなに早いピットインで行けるのだろうか。給油は大丈夫なのか。その答えは決勝前の休憩にまで遡る。
「今回、どうするんだよ。俺たちは100キロハンデだろ?」
「落ち着け大祐。考えがある」
「ほー。ぜひとも聞かせてもらいたいな」
「俺としては給油時間の差で前に出ようと思う」
「…燃費走行でペースを落とすの?」
「惜しいな、創一。当たらずも遠からず。もともと菅生は低速コーナーが多い。つまりブレーキをある程度踏んで減速しなければならない区間が続く。そこでリフトアンドコーストーブレーキを踏む手前でアクセルを離し、惰性で走ることによって燃料を節約することーをしてもらう。俺たちはハンデが重いから同速度からアクセルを離した時の減速がハンディの軽いほかよりも鈍い。つまりペースの落ち幅も小さい」
「…要は燃費走行と燃リスで燃料をセーブしつつも50キロのハンデで燃費走行によるペース低下はカバーする、というわけか」
「そのとおり。そのためピットでは給油時間を短縮できる」
「そこで逆転しよう、というわけか」
この作戦があったため作戦通りの展開ではなかったがタイヤ選択のミスをカバーできたのだ。結果として6番手にまでジャンプアップした。
一方トップ争いは路面が乾くに連れてその激しさを増していた。タイヤを変えなかったため上位を保っていたのはウィダー、マザー、タキオン、の3台だ。加えてもともと下位だったが同じような理由でザ・ファウストZとファースタースープラが上位争いに加わる。
そして周回数は13周。多くのチームがピットインを済ませ、ファースタースープラの高宮拓海もピットから出ていこうとする。すると直後彼は衝撃的な光景を目にし、無線でそのまま叫ぶ。
「なんでKONが前出てんの!?タイヤ、向こうは失敗してたんだよね?!」
実は大幅なアンダーカットのため、他のマシンが天候に対応できてないマシンをオーバーテイクするのにペースを落とした中KONは2回ともそれを回避できたので結果として前に出ることに成功したのだ。これで5番手。
そしてレース14周。トップ3台もピットインした。各自問題なく作業を済ませ、ウィダーがトップでピットアウト。誰もがホンダ1-2-3は固いだろうと思っていた。しかしKONのアンダーカットはその予想すら打ち砕いた。
『これでトップの殆どがピットを終えましたが…ウィダー、KON、マザー、タキオン、ザ・ファウスト、ファースターの順ですね。実質最下位からスタートしたKONが2番手にまで、登ってきました!』
「まーじかよ…」
俺ー帆高ーはそう呟くしかなかった。するとドライブする大輝から無線が飛ぶ。その内容に少々気圧されたが最終的には
「よし、行け」
そう返していた。
レースは16周。俺ー大輝ーはマザーに最終コーナーでテールトゥノーズにまで畳み掛けていた。ガラス越しに見える景色の殆どはマザーのテールランプだ。そしてメインストレートでジリジリと圧をかけ…
(…ここだ!)
1コーナー手前でステアリングを素早く右に傾け、マシンを一気にインにねじ込む。スリップのおかげで時速が出ており、完全に並んだ。そして次の2コーナーも右コーナーなので必然的に前に出る。もう脳裏にマザーのことは意識から前に出ると同時になくなっていた。
「大輝、ナイス。前のKONと1.5秒差。バックストレートで見えると思うからそこから詰めてって」
「了解。飛ばすよ」
そしてそれからわずか1周。本当に大輝はKONとの差をほぼゼロにした。
『さあ来た!ここにタキオンの気迫がものすごく現れている!周回数17周のバックストレートでテールトゥノーズ!そしてインに寄せるKON!そしてアウトに振ったタキオン!馬の背コーナーで大外だ!サイドバイサイド!立ち上がりで…抜いた!KONがこれで3番手に後退!』
まだまだ終わらない。周回数18周、ついにトップのウィダーNSXの後ろ姿を捉えた。
「落ち着いていけよ。ペースは完全にこっちにあるんだ」
「わかってる。練習の二の舞いはしない」
先程、自分から行け、
と言っておきながらあまりの勢いにヒヤヒヤしていると、
『さあ最終コーナー!ここで一気にタキオンが真後ろに来た!メインストレートでスリップストリームに入る!1コーナーでまたあの気迫のオーバーテイクか…ってぅわあ!メインストレートでタキオンが横並び!そして難なくオーバーテイク!』
勢いそのままにオーバーテイクしてしまった。これには春樹も
「ハハ…エグすぎだろ…」
と頬が引きつっていた。
というのもタイム等から行ってほかが遅いのではない。なんならウィダーなどはハンディが軽い関係でかなり速いのだがそれでもなおストレートや立ち上がりで置いていかれるくらい、大輝が速すぎるのだ。
一方苦戦するのは100キロハンディのKON。しかし彼らは冷静だった。
「大祐、焦るなよ。ポイント圏に入れば良し、5位以上なら御の字くらいの心意気なんだ。自滅だけは…」
「しねえよ。余計な心配はいらない。必要な情報だけ無線にのせて。集中させてくれ」
「ああ。わかった」
その直後、マザーが後ろから迫る。大祐は軽く牽制するもののブロックまではしない。馬の背でインを譲り、4番手に後退した。
(やはりあそこがターニングポイントだったな。)
そう振り返りながら20回目のメインストレートを通過する。あそこ、というのは周回数14周の時だ。ピットで自分のやや前方にGT-Rの姿があるのを確認した時。
「すまん、これ以上KONにポイント取られても、自分たちが今のポジションのままでもこれからのチャンピオン争いが厳しくなる。今は守りに回るくらいなら攻めにいきたい。フルプッシュしたい。勝ちに行かせてくれ」
この一言を飛ばしていたのだ。帆高はかなり迷ったようだが最終的にはGOサインを出してくれた。そして今。帆高いわくすでに後ろとは10何秒という圧倒的な差ができているらしい。サスペンション効果、様々だ。残り8周。チャンピオン争いへの前進に向けて気合を入れ直した。
周回数24周。ホンダ勢が上位を独占する中、孤軍奮闘するトヨタ勢のファースタースープラは、未だにファウストZにオーバーテイクされて4番手に落ちたマザーを攻略できずにいた。10周近くのバトルでメンタルはもう正常ではなかった。
「もうやばい!いつまで粘るのこのNSXは!」
「落ち着いて。このポジションを保てばいいんだ。焦らずにな」
結局このバトルは最後まで続いたがあまりにも拍子抜けするような結果を迎えるのをまだ知らない。
それから4周。結局あれから上位の順位に変動はなかったがなんとタキオンは2位に35秒もの大差を築き上げた。そして
『さあ戻ってきました。過去2戦、クラッシュでノーポイントだったタキオンがついに復活を遂げます!タキオンNSX、2勝目!』
一方KONもタキオンとウィダーに周回遅れにされながらも6位で最終コーナーに差し掛かっていた。俺ー創一ーは中継画面越しにランキングに大きな一歩となる数ポイント加算に静かな喜びを感じていると直後目を疑う事象が一瞬の間に起こった。
最終コーナーの中腹に差し掛かったところでマシンが急に見えないなにかに弾かれたのようにイン側の芝生に飛び出し、ガードレールに激突。あまりの勢いだったのか、マシンはコースのイン側にまで跳ね返った。
一瞬の間に起こった残酷な出来事に
「嘘だろ!?」
と頭を抱えた。
「大祐、大丈夫か!?」
と正宏が無線を飛ばすと
俺のーおそらく正宏もー左耳につけたイヤホンに
「すまん。だめだ。足が壊れた」
と彼の声が聞こえてきた。しかしこれだけで終わらないのが菅生だ。
『KONがクラッシュしている!そしてファウストZが来て…ああああ!見えなかったのか!?ファウストが最終コーナーでKONとの衝突を避けようとしてアウト側にコースオフ!そしてその横からマザーとファースターが抜けていった!やっぱり出た!魔物が出ました菅生!そんななかホンダが1-2-3を飾った!!』
ホンダから反撃の狼煙、更には白星が上がった。ポイントランキングは1位がKONで51ポイント、タキオンが40、アミューズメントが雨天に苦しみノーポイントに終わり39ポイント、クイーンが8番手チェッカーで23、ウィダーが23ポイントで2チームは4番手タイ。5番手には今回7番手チェッカーで21ポイントとなっている楽天がランクインした。
前半戦最後にしてチャンピオン争いへ大きく動いた1戦だった。
(続く)
今回も読んでいただきありがとうございました。もし本作品を高く評価してくださるなら次回以降も読んでいただけたらと思います。それでは!




