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番外編:湖にお出かけ

 「お姉様! 相変わらず綺麗だね、カドニア湖は」

 私の目の前で可愛い妹がにこにこと笑っている。ウッカとのわだかまりがなくなってから、しばらくが経ったある日、私はカドニア湖に来ていた。

 お母様がお気に入りだった場所。

 最後にここを訪れたのは、お父様が亡くなる前の……あの毒入り菓子の事件が起こる前だ。あれから、もう六年も経過している。懐かしい。

 学園に入学して、お父様が亡くなって、ずっと忙しかった。

 昔、お母様が亡くなる前に家族四人でよく来ていた場所。

 お母様が亡くなって、お父様とウッカと訪れた場所。

 そして今は、もう一緒に笑い合う事もないと思っていたウッカと共にここにきている。

 この湖は良くも悪くも、家族との思い出にあふれた場所だ。もうお母様とお父様はこの世に居なくて、二度と笑いかけてくれることはないのだとそれを思い出して、寂しくもなったりする。

 だけど、この場所で皆で過ごした日々を思うと心が温かくなる。

 お母様は私を庇って殺されて。

 お父様は事故で死んでしまって。

 だからこそ、可愛い妹だけは失いたくないって必死に動いた。

 私はウッカの意見も聞かずにウッカを突き放す事を最良としていた。

 それもあってウッカとまたこの場所を訪れる事が出来るなんて、少し前までの私は欠片も思っていなかった。

 ずっとウッカに嫌われたままでも、疑われたままでもいいから、ウッカに幸せになってほしいとただそればかりを思っていた。

 そんな私が、ウッカと共にこの場所に立てている。

 目の前で可愛い妹が私に笑いかけてくれている。

 それを嬉しいと思う。幸せだと思う。

 「ええ。本当に綺麗ね」

 お母様の愛した場所。お母様が連れてきてくれた場所。

 此処にまた家族で訪れる事が出来た事が本当に嬉しいと私は思う。

 二人で景色を楽しむ。空気が澄んでいて、この場所は心地が良い。

 いつまでも居たくなるほどの穏やかさがここにはある。

 

 しばらく眺めた後、ルサーナたちに食事を勧められる。




 「美味しい!」

 今日はカドニア湖に行くという事で、公爵家の料理人にお弁当を作ってもらっていた。

 それを口に含んだウッカが声を上げる。顔を綻ばせるウッカを見ながらもう私は必死に平常心を保つ。可愛くてたまらないのだけど、あまりにもだらしない顔をウッカの前で見せたくはない。

 このカドニア湖に久しぶりにやってきたのは、ウッカが来たいといったからだ。ウッカは、和解をしてからというもの私と一緒に何かをしたいという事が多くなった。今までできなかった分、ウッカは甘えてきて、凄く可愛い。

 あまりにも可愛すぎて私は何でも聞いてみたくなってしまう。何でも言う事を聞こうとして周りに止められてしまったりもするが、なるべくウッカの頼みは聞いてあげたい。

 この前なんてね、一緒に買い物したいなんてウッカが可愛く頼んでくるから一緒に買い物にも行ったのよ。

 あとギルも一緒に行かないか誘ったのだけど、今日は外せない様子があるとかでこれなかったの。残念だったわ。今度はギルも連れてきたいわね。

 「良かったわね」

 「うん! ナザント家の料理人さんって本当に凄いよね。いつも美味しいもの作ってくれていて尊敬するもん。私も料理ちょっとしてみたいなぁ」

 「料理に興味があるの?」

 「うん。この前、本でね、仲良しの姉妹は一緒に料理とかするんだって見たの。だからね、出来たらお姉様と一緒に料理してみたい」

 「私も料理はしないから上手く出来るかわからないけど、それでもいいなら」

 「もちろん。私もしたことないもん」

 ウッカの可愛い提案を私が断るはずもない。

 ウッカがお気に入りの恋愛小説に仲良しの姉妹が出てくるようで、ウッカはそこで仲良し姉妹がやっているようなことを私とやりたいらしいのだ。その発想が可愛いと思う。本当私の妹は天使のように可愛い。

 それにしても私と出かけられて嬉しいと、にこにこ笑っているのを見ると心が温かくなってくる。

 もうウッカも今年十四歳だから、そろそろ結婚相手についても考えなきゃならない。貴族間では政略結婚も当たり前だけれども、私はウッカには好きな人と結婚してもらいたいから悩むわ。

 「今度予定をあけるからそこでしましょう」

 「うん! 楽しみ」

 「それよりウッカは好意を抱いている方とかいないのかしら?」

 「え、好きな人? 居ないよ?」

 「そう。出来たら私に相談しなさいね」

 ウッカももう十四歳なのだから、そのうち恋人とかも出来るのかしら。ウッカがこの人と結婚したいなどといって突然人を連れて来たら私は暴走する自信があるわ。その前にウッカには報告をしてもらわないと……。

 「うん。わかった。お姉様に相談する」

 頷いてにこにこと笑うウッカを見ながら、社交界デビューしたらウッカに出会いも訪れるかしらなどと考えた。可愛い天使の社交界デビューなのだから、きっちり、ウッカの可愛さが際立つものにしなければならない。似合わない装いでウッカの可愛さを表現できないなんていうのは許せないものね。

 まぁ、ウッカに出会いの場を提供することも検討中だけど、どうするのがウッカにとって一番良いかしら。

 「ね、お姉様」

 ウッカはそれから食事をしながら私に一生懸命話しかけてきた。

 聞いて聞いてと私に話しかけてくるウッカは本当に可愛かった。




 食事を終えてしばらくの間、湖でのんびり過ごしてから私たちは帰路についた。

 また、ウッカとカドニア湖に来たいなと私はそんな風に考えるのであった。





エリザベス・ナザントという令嬢の番外編追加です。

1月6日書籍発売となっておりますが、早い書店さんではもう29日には並んでいるそうです。

よろしければ手に取っていただければ嬉しいです。

今回の書籍は店舗特典もありますので、欲しい方は配布店舗を確認してご購入下さい。


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