↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TSしても俺は男だ! 第2部 ――体が覚えていくのが、一番怖い  作者: らび


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

更衣室の掟

 事件は、三宅に「運動不足でしょ、付き合いなさい」と区営のジムに連れて行かれた日に起きた。


 問題は、運動そのものではなかった。問題は、その後の――更衣室だった。


 女性用更衣室。当たり前だが、田中にとっては未知にして禁忌の領域である。第1部で女湯には入ったが、あれは他人ばかりで、無になることで乗り切れた。だが今日は違う。すぐ隣で、三宅が当たり前のように服を脱いでいく。


(見るな、見るな、意識するな……)


 田中は自分に言い聞かせた。中身は男だ。男が、女性の着替えを前にして平静でいられるわけが――いや、待て。今の俺は、女だ。女が女の着替えを見て動揺するのは、それはそれで不自然だ。じゃあどうすればいい。どういう顔をすればいい。田中の脳内は完全に処理落ちしていた。


 結果、田中は挙動不審の極みだった。ロッカーに向かって直立不動になり、着替えるでも脱ぐでもなく、ただ石像のように固まっていた。


「……あなた、面白すぎるでしょ」


 隣で、三宅が肩を震わせていた。笑っている。


「顔真っ赤。中身が男だってこと、今ほど信じられる瞬間ないわ。女は女の裸なんかで、いちいちそんな顔しないの」

「わ、笑うな……! こっちは必死なんだよ……!」

「はいはい。ほら、こっち向かないで着替えれば? 私は気にしないから」


 三宅の「気にしない」が、かえって田中を追い詰めた。この女は、田中の中身が男だと知っていて、なお平然と着替えている。信頼されているのか、単に無頓着なのか。たぶん両方だ。そしてその信頼が、田中に「絶対に変な目で見てはいけない」という強烈な自制を強いた。


 田中は壁を向いたまま、人生で最も気まずい着替えを、汗だくで終えた。快感がどうとか、そういう次元の話ですらなかった。ただただ、居心地が悪くて、恥ずかしくて、消えてしまいたかった。


 帰り際、三宅が真顔で言った。


「今日わかったこと。あなたの体は男の視線には反応するけど、女の空間では"男の羞恥"のほうが勝つ。……面白い。体と心が、ちゃんと別々に動いてる」

「観察日記つけるのやめろ」


 だが、田中はこのとき、少しだけ救われてもいた。三宅の前でだけは、「女のふりをしなくていい」。男として恥ずかしがっても、笑われこそすれ、責められない。それは二ヶ月ぶりの、途方もない解放だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。