女子の世界の歩き方
三宅葵は、宣言通り田中を「観察」した。そして観察のついでに、やたらと世話を焼いた。
「その下着の選び方、間違ってる。サイズ合ってないでしょ、苦しくない?」
「……なんでわかるんだ」
「肩の食い込み方。見てればわかる。付き合いなさい、買い直すから」
休日、田中は三宅に連れられて、女性用品の店を渡り歩く羽目になった。第1部でも一度、店員に勧められるまま買い物をしたことはあったが、あれは「なし崩し」だった。今回は違う。三宅は、田中に「理屈」を教えた。
なぜこのサイズなのか。なぜこの丈が楽なのか。なぜ女はこの角度で座るのか。すべてに理由があった。三宅の解説は、まるで理科の実験の手順書のように理屈立っていて、田中は初めて「女の世界」を、感覚ではなく理論として理解し始めた。
「あんた、詳しいな」
「私も、"女らしくしろ"って言われ続けて生きてきたから。攻略本を丸暗記させられた感じ。……嫌々ね」
その「嫌々」に、田中は引っかかった。三宅の口調に、初めて温度のある感情が滲んだ気がした。だが、三宅はすぐにいつもの淡々とした調子に戻ってしまった。
試着室で、三宅に言われるまま新しい下着を着けてみる。確かに、体が楽だった。今まで感じていた締め付けや違和感が、嘘のように消えた。
(……ちょっと、感動してる場合か、俺は)
鏡に映る自分に苦笑する。だが、二ヶ月間ずっと「敵」だと思っていたこの体と、初めて少しだけ「折り合い」がついたような、そんな感覚もあった。
帰り道、三宅がぽつりと言った。
「あなた、この体を嫌ってるでしょ」
「……当たり前だろ」
「でも、嫌ってるだけじゃ、しんどいよ。一生続くかもしれないんだから。――嫌いでもいいけど、"使い方"は覚えたほうが、楽になる」
使い方。その言葉は、田中の中に妙に残った。戻ることばかり考えていた。この体と「どう付き合うか」なんて、考えたこともなかった。
三宅葵は、田中が二ヶ月間、一度も持てなかった視点を、事もなげに差し出してくる。田中はまだ、それを素直に受け取れずにいたが、少なくとも――一人ではなくなった、という事実だけは、確かに胸を温めていた。




