お救いください お薬師様 第十一話
常磐林蔵様が連載されている「宗盛記」の二次創SSです。
楽しむには「宗盛記」の知識が必須となります。
「読んでおいてほしい本編の話数」は下記となります。チェックいただければ幸いです。
宗盛記0100 永暦二年七月 豌豆瘡対策 から
宗盛記0105 応保元年十二月 帰京 まで
この連載は、プロットを作成の後、AIで文書化したものを推敲して仕上げています。
いままでは梟丸くん視点でしたが、この章は視点がしょっちゅう入れ替わります。
ご了承ください。
本日の二話目です。
この話は第十話の裏側です。
永暦二年 七月
利根川沿いの小さな宿。
客はまばら。
舟待ちの旅人が、黙って粥をすすっている。
店の隅で、二人の男が酒を飲んでいた。
旅人風。
だが、どこか落ち着きすぎている。
一人が小声で言う。
「列、長いな」
もう一人が頷く。
「焦れる頃合いだ」
外では、川風が鳴っている。
渡し場の列は、今日も進みが遅い。
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男は湯飲みを置いた。
「渡し場の噂、まだ弱い」
「そうだな」
もう一人が言う。
「実際にあった話の方が、人は信じる」
「だが、実際には無い」
「だから作る」
二人は静かに笑った。
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最初の男が言う。
「舞台は下総の渡し場」
「遠すぎず、近すぎず」
「いい距離だ」
「値段は?」
「五倍」
「高すぎるか?」
「高い方がいい。
“本当に急いだ奴だけ”の話になる」
二人は頷いた。
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「結末は?」
「捕まる」
「厳しすぎると、反発が出る」
「だから――」
男は指を一本立てた。
「熱を測って、解放」
もう一人が笑う。
「それなら安心する」
「命までは取られない」
「だが、銭は戻らない」
「ちょうどいい」
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沈黙。
外で舟の櫂が鳴った。
だが、それは漁から戻った舟。
闇舟など、どこにもない。
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男は立ち上がった。
「さて」
「どこで流す?」
もう一人が答える。
「明日の朝」
「渡し場の列」
「苛立ってる旅人がいる」
「そこに一つ、置く」
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「誰が話す?」
「俺が振る」
「お前が知ってる役」
「あと一人」
「知らない役が必要だ」
二人は視線を交わす。
店の隅で、
本当に何も知らない旅人が、粥を食べていた。
男が呟く。
「……ちょうどいい」
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外へ出る。
夜の川は、静かだった。
闇舟も、役人の待ち伏せも、
どこにもない。
だが、明日になれば、
下総の渡し場で
・急ぎの旅人が
・五倍払って
・夜に川を渡り
・捕まり
・熱を測られ
・解放された
という話が、
いくつもの口から語られるだろう。
実際には、
誰一人、渡っていない。
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男は、最後に言った。
「人はな」
「見たことより」
「聞いた話で動く」
もう一人が頷く。
「だから」
「噂は、川より速い」
二人は闇に溶けた。
その翌朝、
渡し場の列で、
一人の旅人がこう言った。
「……お前ら、闇の渡し場の話、知ってるか?」
噂は、静かに流れ始めた。




