お救いください お薬師様 第九話
常磐林蔵様が連載されている「宗盛記」の二次創SSです。
楽しむには「宗盛記」の知識が必須となります。
「読んでおいてほしい本編の話数」は下記となります。チェックいただければ幸いです。
宗盛記0100 永暦二年七月 豌豆瘡対策 から
宗盛記0105 応保元年十二月 帰京 まで
この連載は、プロットを作成の後、AIで文書化したものを推敲して仕上げています。
いままでは梟丸くん視点でしたが、この章は視点がしょっちゅう入れ替わります。
ご了承ください。
永暦二年 七月
下総の港。
初夏の潮風の中、港はどこか落ち着かなかった。
桟橋の入口には柵。
その横には高札。
・入港は許す。
・上陸は許さぬ。
・発熱者を隠す船、厳罰。
人は読む。
だが、本当にそうなるのかは、誰も知らない。
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昼過ぎ。
沖から一隻の船が寄ってきた。
「止まれ!」
役人が叫ぶ。
だが船は、そのまま桟橋へ寄る。
縄が投げられ、
船乗りが三人、ひらりと降りた。
「おい勝手に降りるな!」
船頭は肩をすくめる。
「相模からの帰りだ。
荷を降ろしてすぐ出る」
見物人が集まり始める。
港は暇ではない。
だが、こういう揉め事は、皆見たい。
その時。
荷受けに来ていた回復者が、船を見た。
男はさらに、目を凝らす。
「……待て」
役人が振り向く。
「どうした」
男は船の奥を指す。
「誰か寝ている」
ざわり、と空気が変わる。
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回復者三人が、ためらいなく船へ乗り込む。
「やめろ!」
船乗りが怒鳴る。
だが、荷の陰を覗いた瞬間。
一人が息を吐いた。
「……出たな」
奥で、男がうめいていた。
顔は赤い。
額は汗だらけ。
腕には、小さな発疹。
桟橋の群衆が、一斉に後ずさる。
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「船乗りを縛れ!」
役人が命じる。
縄が回る。
「待て、違う、ただの熱だ!」
「発熱者を隠したな」
役人は冷たい。
船頭は言い訳する。
「荷を降ろしてすぐ出るつもりだった!」
群衆から怒号が飛ぶ。
「広がるぞ!」
「子供がいるんだ!」
船乗りたちは、あっという間に縛られた。
担架が運ばれる。
発熱者と船乗りは、そのまま港外れの隔離小屋へ連れて行かれた。
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次は、荷。
「釜を出せ!」
大鍋が運ばれる。
布。衣。船具。
すべて、熱湯へ。
ぐらぐらと煮える。
「これは?」
「木箱です」
役人は即答した。
「焼け」
火が上がる。
箱は炎に包まれた。
群衆は黙って見ている。
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最後は船だ。
石灰の袋が運ばれる。
白い粉が、甲板へ撒かれる。
船は、あっという間に白くなった。
役人が宣言する。
「この船、三日封鎖!」
静まり返る港。
誰もが理解した。
本気だ。
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その夜。
港の外れ。
火の消えた焚き場の横で、男が立っていた。
黒装束。
そこへ、もう一人来る。
「うまくいったな」
「見物人が多かった」
黒装束は頷く。
「役人の動きも良かった」
「回復者もな」
もう一人が笑う。
「船も、荷も、乗組員も。
全部こちらだ」
「船頭役、上手かったぞ」
「縛られるのは慣れている」
二人は静かに笑った。
あの船は、相模から来たのではない。
船も荷も、
黒装束が用意した。
船乗りも。
発熱者も。
すべて、仕込み。
目的は一つ。
見せること。
防疫とは、
ここまでやるものだと。
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黒装束の男は言う。
「明日には噂になる」
もう一人が頷く。
「もうなっている」
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翌日。
別の港。
船頭が語る。
「下総で捕まったらしい」
「発熱を隠した船だ」
「荷は全部煮られた」
「船まで石灰だ」
さらに別の港。
「上陸したら終わりだ」
「見せしめにされる」
やがて、誰かが言う。
「だがな」
「隠さなければいい」
「船は雇ってくれる」
「運べば、銭になる」
頷きが広がる。
港の空気が変わる。
隠す者は減り、
申告する者が増える。
その様子を、遠くから見ていた黒装束が、ぽつりと言った。
「流れは整った」
「これで水運は止まらぬ」
そして、もう一人が静かに答える。
「……教盛様の望み通りだ」
夜の港に、潮の音だけが残った。
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