お救いください お薬師様 第八話
常磐林蔵様が連載されている「宗盛記」の二次創SSです。
楽しむには「宗盛記」の知識が必須となります。
「読んでおいてほしい本編の話数」は下記となります。チェックいただければ幸いです。
宗盛記0100 永暦二年七月 豌豆瘡対策 から
宗盛記0105 応保元年十二月 帰京 まで
この連載は、プロットを作成の後、AIで文書化したものを推敲して仕上げています。
いままでは梟丸くん視点でしたが、この章は視点がしょっちゅう入れ替わります。
ご了承ください。
永暦二年 七月
信濃と上野の国境に近い、東山道沿いの小さな村。
山裾に張り付くように家が並び、道と川が交わる場所だ。
宿場にもならぬが、旅人は必ず足を止める。
――破れるなら、ここ。
平教盛と黒装束の長が、最初に指を折った地点だった。
昼過ぎ、三人連れの塩商人が村へ入った。
信濃で塩を売り、相模に帰る途中だという。
その一人が、広場で崩れ落ちた。
赤く火照った顔。
荒い息。
額から滴る汗。
「熱が……」
その言葉と同時に、村人たちは距離を取った。
高札は見ている。
隔離せよ、とある。
だが、どうやって。
「家に入れれば、家族にうつる」
「外に寝かせれば、死ぬ」
「役人を呼ぶか?」
「国衙まで二日は……」
声だけが重なり、誰も動けない。
村長は歯を食いしばり、納屋の方を見た。
「……あそこへ」
村外れの掘っ立て小屋。
藁を積んだだけの粗末な建物だ。
だが、運ぶ者がいない。
そのとき。
道端から、二人の旅人が進み出た。
口元には藍で型染めされた布。
布には、小さく「バイ」の印。
「運ぶ」
短い声。
「やめろ、うつるぞ!」
一人が、ゆっくり布を外した。
陳皮のように凹凸だらけの顔。
深く刻まれた痘痕。
「もう、もらわぬ」
もう一人も布を外す。
同じ顔だった。
言葉は、それだけで足りた。
二人は躊躇なく旅人を担ぎ、納屋へ運ぶ。
中に入ると、片方が周囲を見回した。
「藁を替えろ」
村人が動く。
「桶。三つ」
井戸へ走る。
「火。強く」
薪が運ばれる。
湯が沸くと、布を沈め、引き上げ、絞る。
それを口に当てさせる。
旅人の額、首、脇を拭き、汗を拭い取る。
誰もが、その動きを目で追った。
男は、振り返らずに言う。
「同じように」
村人が、恐る恐る、桶を持つ。
火をくべ、布を煮る。
しばらくして、男が一言だけ言った。
「それでいい」
その声に、村人の肩から、力が抜けた。
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夕刻、村長の案内で、三人の男が連れてこられた。
いずれも、深い痘痕の顔。
四十を越えた年齢。
二人の旅人は、短く頷いた。
それぞれに、同じ動きを繰り返し見せる。
着物を変える。
口覆をする。
手を洗う。
汗を拭う。
使った布は煮る。
他の者は距離を取る。
言葉は少ない。
だが、誰一人、間違えなかった。
最後に、旅人の一人が村長を見る。
「近隣にも、同じ顔がいるはずだ」
「国衙に申し出れば、日当がでる。忘れるな」
村長は、無言で頷いた。
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夜半。
村外れの林。
「バイ」の布を外した者たちが集まっていた。
十名ほど。
それぞれ、旅人、僧、行商、百姓の姿。
「止めたな」
「初動は成功」
「次は?」
「この村から、周囲へ広げる」
「港と渡し場にも、厚く」
それだけで、会話は終わる。
名を呼ばず、顔も確かめず、
闇に溶けるように散っていった。
表で動くのは、官と寺と村。
彼らは、その背後で、流れを歪ませぬための重石となる。
黒装束とは、そういう存在だった。
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