お救いください お薬師様 第六話
常磐林蔵様が連載されている「宗盛記」の二次創SSです。
楽しむには「宗盛記」の知識が必須となります。
「読んでおいてほしい本編の話数」は下記となります。チェックいただければ幸いです。
宗盛記0100 永暦二年七月 豌豆瘡対策 から
宗盛記0105 応保元年十二月 帰京 まで
この連載は、プロットを作成の後、AIで文書化したものを推敲して仕上げています。
いままでは梟丸くん視点でしたが、この章は視点がしょっちゅう入れ替わります。
ご了承ください。
永暦二年 七月
表の対策
坂東防疫体制が構築される。
一、高札
常陸国衙前。
朝靄の中、役人と郎党が慌ただしく動いていた。
大きな板が三枚、門前に立てられる。
一枚目。
・太宰府にて、豌豆瘡発生。
・平清盛様、坂東にて大戦を決意。
・大将 常陸介 平教盛
・副将 伊豆守 平宗盛
・副将 武蔵守 平知盛
人々がざわめく。
「戦……?」
「いや、これは……」
二枚目。
・当座の費用、八千貫文。
・さらに、上総・武蔵・伊豆、三国の国守の収入を投入す。
どよめきが広がる。
「八千貫……?」
「国ごと動かす気だぞ」
三枚目。
・過去に豌豆瘡に罹り、回復した者、雇い入れる。
・日当 一日に米二升。
沈黙。
やがて、誰かが呟いた。
「……死に損なっただけじゃ、なかった」
同じ高札は、郡衙、宿場、渡場、港町、すべてに立てられていった。
二、辻説法
宿場町の辻。
西光寺の僧が立ち、小者が子供たちに、小枝に巻き付けた水飴を配っていた。
「ほら、手を出しなさい」
子供たちは群がる。
僧は、優しく語る。
「豌豆瘡はな、悪鬼が体に入ることで起きる」
「えーっ!」
「だが、防ぐ方法がある」
藍染の布を掲げる。
藍色のバイ印。
「これで口を覆えば、悪鬼は入れぬ」
母親たちが、身を乗り出す。
「さらに、手を洗い、口をゆすぐ。
これは禊だ」
僧は、ゆっくり唱える。
「そして、お薬師様の真言だ」
「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」
「長いよ……」
「覚えられない」
「だから、オン・コロコロでよい」
子供たちが真似る。
「「オン・コロコロ!」」
町に、奇妙で、明るい声が広がった。
三、宿
宿屋の土間。
主人が頭を抱えていた。
「煮沸、消毒、隔離……
商売にならん……」
役人が、札を差し出す。
「掛りは、国が保証する」
「……は?」
「手間賃として、一日五升。
五人分の日当だ」
主人は、黙り込んだ。
やがて、深く息を吐く。
「……釜を出す。
全部、煮る」
その日から、宿の裏庭では、
湯気が立ち続けた。
四、隔離小屋
村外れ。
男たちが、黙々と杭を打つ。
「急げ。
発熱者は、今夜にも出るかもしれん」
掘っ立て小屋が、半日で組み上がる。
中の板敷きの上に、筵と布。
「家族から離すのは、辛いな」
「……うつすより、ましだ」
回復者の老婆が、中に入る。
「あたしが世話するよ。死に損ないが役に立てるなら本望さね」
村人は、その背を、深く頭を下げて見送った。
五、検疫所
街道の分岐。
簡素な柵と、火鉢と、釜。
旅人が止められる。
「熱は?」
「……ない」
額に手が当てられる。
「よし。通れ」
別の男。
「……熱がある」
「七日、ここに」
男は顔を歪める。
「急ぎの用が――」
役人は、静かに言った。
「通せば、広がる。
家族を護ると心得よ」
男は、うつむき、柵の内へ入った。
六、水運
霞ヶ浦の港。
無数の船が、碇を下ろしている。
役人が、声を張る。
「すべての船を雇い入れる!」
「石灰、酒、酒精、水飴の原料、これを運べ!」
「入港は許す!
だが、上陸は禁止!」
船頭たちが、ざわつく。
「代は出る!」
その一言で、動きが変わる。
藍染の口覆をつけた回復者が、積み替えを行う。
港は、止まらず、
だが、交わらなかった。
七、日々の合言葉
井戸端。
子供が、水を汲みながら唱える。
「手を洗ったら……」
「オン・コロコロ!」
母が続ける。
「人に会ったら……」
「オン・コロコロ!」
宿の裏。
「熱湯消毒……」
「オン・コロコロ!」
やがて、それは、
坂東のあちこちで、
当たり前の音になった。
結び
高札は立ち、
僧は語り、
宿は煮沸し、
村は隔離し、
街道は止め、
船は運ぶ。
誰か一人の力ではない。
だが、誰もが、
「守っている」という実感を持った。
黒装束は、
その流れを、少しだけ整える。
そう、本番は、
まだ、これから。




