お救いください お薬師様 第四話
常磐林蔵様が連載されている「宗盛記」の二次創SSです。
楽しむには「宗盛記」の知識が必須となります。
「読んでおいてほしい本編の話数」は下記となります。チェックいただければ幸いです。
宗盛記0100 永暦二年七月 豌豆瘡対策 から
宗盛記0105 応保元年十二月 帰京 まで
この連載は、プロットを作成の後、AIで文書化したものを推敲して仕上げています。
いままでは梟丸くん視点でしたが、この章は視点がしょっちゅう入れ替わります。
ご了承ください。
永暦二年 七月
評定は、そこで終わらなかった。
教盛が扇を打ち鳴らす。
「では、実務に入る」
場の空気が締まる。
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【各国国衙への連絡】
「まずは、坂東の国衙と、騎射に集まった坂東武士へ、改めて触れを出す」
畠山が口を開く。
「伊豆守様の名だけでは、軽んずる者も出ましょう」
教盛は、静かに笑った。
「ゆえに――兄上と、儂の名で出す」
その名に、場がわずかに動く。
「陣容を明示する」
教盛は指を折る。
「総帥は清盛兄。
坂東総大将は儂、教盛。常陸より統べる」
「副将は宗盛。伊豆にて東海道と水運を押さえる」
「知盛は武蔵守として東山道を監督」
誰も異を唱えない。
「基本方針は、宗盛の書状に従うこと」
「不明は各国国衙へ問い合わせよ、と添える」
那須が頷いた。
「武士は陣立が明らかなら従いましょう」
「そして」
教盛は続ける。
「各国国衙へ、初期費用として千貫を渡す」
低い息が、いくつか漏れた。
「動きを止めぬための銭だ。
迷うな、即動けと伝えよ」
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【感染者の扱い】
「次に、既感染者の扱いだ」
佐竹が応じる。
「隔離後、快癒した者を雇います。
検疫、看護、物資運びに充てる。
差別は許さぬ。働きには銭と飯を出す」
畠山が頷く。
「武蔵も同じく。
回復した者ほど、前に立たせる」
黒衣の長が、静かに補足した。
「彼らが前に立てば、恐れは薄れます」
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【検疫所の設置】
教盛が続ける。
「街道と水運、両方だ」
上総が地図を広げた。
「利根川、鬼怒川、霞ヶ浦。
主要な渡し場すべてに検疫所を置く」
「宿駅もだ」
佐竹が言う。
「発熱者は、即隔離。
通過は、七日観察後のみ」
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【酒精と水飴】
「消毒用の酒精のために、伊豆へ酒を送る」
教盛の指示に、広常が即答する。
「上総から伊豆へは、直に船が出せる。
乗り手はかつて感染し、回復した者を主に乗せる」
「麦芽、麦、粟、稗は」
那須が言った。
「下野で集める。
水飴の原料に」
佐竹が続ける。
「常陸でも製造所を作る。
小児と病人を優先だ」
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【隔離小屋】
「掘っ立てで良い」
畠山が短く言う。
「各村、一棟」
「雨露をしのげれば十分。
近づくな、という形を作れ」
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【水運規制】
千葉が腕を組む。
「港は、入港まで。
上陸は禁止。
積み替えは回復者のみ」
「船乗りが荒れぬよう、
補償は出す」
教盛が即断する。
「銭は惜しまぬ」
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【石灰の供給】
「石灰は、四系統で回す」
教盛が、紙を広げる。
佐野・葛生 → 足利
秩父・武甲山 → 畠山
青梅・成木 → 畠山配下
常陸太田 → 佐竹
「散布は、宿、港、隔離小屋、死者の家」
誰も異を唱えなかった。
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【西光寺の役割】
最後に、西光寺の僧が進み出た。
「坂東の薬師如来の縁、すべて動かします」
「祈祷布に、バイ印を入れ、
各地へ配ります」
梟丸が、わずかに首を傾げる。
「……バイ印?」
僧は、微笑んだ。
「病を封じる符です。
民は、理より、形を信じます」
黒衣の長が、静かに言った。
「噂と、祈りと、理。
三つ揃えば、流れは折れません」
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【決裁】
教盛は、深く息を吸い、場を見渡した。
「よし」
「坂東は、守る」
誰も声を上げなかった。
だが、その沈黙こそが、
全員の覚悟だった。
梟丸は、胸の奥で、静かに思う。
(……盤面が、きれいだ)
黒衣の長は、何も言わず、影に戻る。
だがその夜から、坂東では、
・ 厠のそばに石灰が置かれ
・宿に煮沸釜が据えられ
・子供たちが「オン・コロコロ」と唱えながら手を洗い
・港では、船と陸が、見えない線で分けられた
痘瘡は、まだ消えない。
だが、
坂東は、もう、無防備ではなかった。




