ローズの家
広場にあったベンチで座り待つことに。
幸い、ポケットに昨日ネルが渡してきた札束が入っていたため、近くの売店でパンを買って食べながら、彼女のファンサービスが終わるのを待ち続ける。
そういえば、賞金ってどこでもらうのが正解だったのだろう、またネルにあったら聞いてみるか。
再び彼女から石が飛ぶ。飛ばし方は親指ではじいているだけだった。それなのに威力もそこそこ、追尾するように自分に飛んでくる。
中身『こい』だった。
ファンからもらった物が詰まった箱を運でいる彼女についていく。他のファンがついてきているものだと思ったが誰もいない。
空は暗くなりはじめた。パンだけだったから少しおなかもすいてきた。
彼女の家と思われる家、彼女が中はいるとガチャガチャと物音が。そんな音が終わったと思ったら手招きが。
いや、しかしすでに外の時点で嫌な予感がする。物が、溢れているのだ。何かわからない箱っぽいものとか色々と。
「はやくしろー」
戸惑っていたら急かす声が聞こえる。諦めて中へ。
中に入ると物がいっぱいだった。いろんな段ボールがぐちゃぐちゃにおかれており、足元が何か踏みそうなほど小物が散らばっている。
「ちょっと適当に座ってて」
色んなもので溢れているソファっぽいところに座ると芳香剤の匂いが鼻をくすぐる。息をするたびに果物かと思ったら花のような香り、時間が経ってくると意外と慣れてくるもので違和感がなくなってきた。
「あっ、そこ座ったの」、まあいっか」
やる気のなさそうな表情で何かを載せているお盆を彼の前におき、すぐそばに彼女が座った。
「えっと、違うところ座ったほうがいい?」
「いいよ、めんどいし」
目の前には四角いお菓子とスティック状の野菜。野菜を手に取ると冷たく、食感はしっかりして思いのほかおいしかった。彼女もそれを少しずつかじりながら食べている。
「むぅ」
四角いお菓子のほうに手を出そうとすると声が、取られたくないのか再び野菜へ。そして彼女はお菓子のほうへ。
静かな時間、とはいっても部屋の汚さが気になるけれども。静かに流れる。不思議と落ち着くがいつまでこうしていることになるのだろうか。
最後の野菜スティックが終わると、お盆を持っていく。目で追っていると一瞬振り向いた。少し口元が緩んでいるように見た気がした。
お盆を置く音、続けえて「よし!」と気合を入れるような声が聞こえた。そして現れた彼女の様子はさっきよりは良さそうだ。
今度は対面のソファーのものを無理やり奥へ押し出して正面に座る。
「クロウくんはドン引かないのね。この部屋に」
「いや、引いているよ」
気まずそうに黙ってしまった。こっちも気まずい。
「まあ、この話は置いときましょ。クロウくんが見てきてたのびっくりしたよ」
「ああ、気になってね」
「どう? どうだった?」
「すごかった、一つ一つの動作がぞくっと来る感じで。あとは敵役がやられてるだけじゃなくてやりあってたらなあって――」
気づいた時には遅かった。下を向いてソファーを人差し指でいじりながら「だよねー、ファンの人に無理言ってやってもらう手前、強く言えないんだぁ」と残念そうな声を漏らしていた。
「誰かが」
わざと言葉を区切ってこちらをチラリ。
「やってくれたりしないかなあ」
ちらちら区切りながら上目づかいで甘えてくる。
こっちも意識してしまって緊張してきた。
映画で見ててもきれいだなと思える女性、それが目の前でこっちを見ている。
正直感情が動かされる。
「『ローズキャメロット』のシーンだけなら、できるよ」
俺は押し負けた。
「できるの!?」
「アルクに再現するって付き合ってたから」
「ああ、私の映画のファンって子か。どんな子なの?」
「同い年でローズ……ちゃんと同じ構えでずっと戦ってたよ」
「ちょっと待って、同い年で戦うって、実線でやってるってこと? 」
「空砲用の弾なんてなかったから実銃と普通のナイフでやってたよ」
「マジ? ごっこ遊びじゃなくてガチでやりあって? ってことはクロウくんもそれを受けきれるってことよね」
「は、はい」
「ふ、ふふっ」
笑い声を漏らしながら考え込むように下を向いた。
嫌な予感はした。
今までにない満面の笑顔で立ち上がり「こっちこっち」と手招きしながら奥へと案内される。さっき食事を持ってきたところにはキッチンとそばに下へ降りる階段があり、降りていく。そしてついていった先には何もない一室が見えた。上の部屋くらいの大きさの部屋が広がっていた。
「でもクロウくんのことを知ってさ、アルクちゃんのことを知ってさ。また同じことを言うけどさ、悔しいんだ」
喋りながら奥へ歩いていく。言葉が止まると同時にお馴染みのポーズで自分に身体を向けた。
「今日初めて喋ったくらいの仲だけどさ、こんなに熱くなったのは初めて映像取った時かもしれない」
息を吸う音がはっきり聞こえるほどの音が響く。
「クロウ! 見せてもらうわ、その実力を!」
走り出す彼女に合わせて武器を構える。
始まりは銃の一撃、直撃に合わせて横に一閃。受け止めた瞬間に顔、喉、胸に向けて三発の弾丸が襲う。それに合わせて身体を反らしてかわしながら一歩っ距離をとり、突きの一撃。彼女はナイフで受け流し火花を散らしながら自分の後ろへ飛び去り、着地と同時に弾丸が……飛ばない。
ここで終わりだからだ。
緊張が解け、倒れこんだ。
「一発でここまでやれるの、クロウくんすごいすごい」
「早すぎ、何回もはできんぞ」
「かもね、やっぱり組もうよ、ね?」
「いいよ」
いつの間にか彼女は姿勢を少し起こして四つん這いの状態で自分を見下ろしていた。頬が赤く、瞳が潤んでいて、笑みを浮かべている。
「本当に好きになっちゃうかもね」
彼女から垂れた汗が目に染みた。目をこするとそばにもう一人女性の姿が興味深そうに見下ろしている。
「ネルさん!?」
「へっ? うわああ!」
四つん這いの彼女を持ち上げて額に手を当てる。赤の力を取っているようだ。
「仲良くなったみたいなのでそろそろ行こうか思ったら、危なっかしいですね」
「うっ、でも『ブレードガンナー』をちゃんと見てくれてるファンってだけで嬉しくて」
「知っていますよ。あなたもお友達として『ゴールディ』を脱走しましょうか」
「私も?」
「はい、明日から二日間、忙しくなりますよ」




