ファンサ
ローズを探すと決めたものの手がかりはなし。あの時の彼女の口ぶりから有名人だとは思うけれど。何かないかと思っていたのもつかの間、昨日の騒動で見覚えのある男性が話しかけてきた。
「お、兄ちゃん。義手つけたのか。武器まで良さそうなのもってんな」
「うん、稼がしてもらったからな」
「次の試合、決まってるなら教えてくれよ、全部お前にかけるからよ」
さっき話したばかりだし、言わないほうがいいか「わかったら伝えるさ。もっと稼がないといけないからさ、明日か明後日くらいにやると思うよ」と問題ない程度にいったつもりなのに、聞き耳を立てた連中が少しずつ集まってくる。
「マジか、頼むぜ本当に」
「次やるとしたらAのどれかか、あんなのしておいて一個上のマッチングとかしないだろB」
「Aは不動って感じがな。いやでもチームクロウだとなにかやってくれるか」
変な期待の目がこっちに集まりながら熱を帯びてるのがわかる。だけどちょっと気にいなることもあった。
「Aってそんなにやばいのか、キングがやばいのはわかるけどよ」
自分の言葉に静寂の間が。いけないことを聞いたかと焦ったが、すぐに起きたのは笑い声だった。
「そりゃあ、なあ。試合だって見てても湧き上がるものがないしな」
「確かに、早いんだよな。あそこらへんは。賭けてるやつも結果しか見てないのばっかりだろうし」
「特に後期の3対マッチはA以上は毎年変わらんな。A同士もわかってるから戦わないし」
「前期はまだな、ローズちゃんがいる分、見た目に華があるけど結局A3以上がどうしようもないって感じだし」
「まあ、こんな感じだよな。クロウの兄ちゃんもやってたら見てみるといいんだけどな、試合がないんだよ、上位はそもそも」
思ったよりも色々と話してくれて驚いた。
「ありがとう、色々と。助かるよ」
「いいんだよ、なあ」
「そうそう、稼がせてくれよ」
「そゆこと」
「ハハッ、だよなー」
意外と悪くないなこんな雰囲気も。負けたらぼろっかすにいわれそうだが。
「そういや、ローズを探してるんだけど、見かけたりしてない?」
空気が止まった。これはこの後笑いが来るほうじゃなくて言い方がまずかったほうだ。みんなの表情がこわばってるのがわかりやすい証拠だ。
「ローズちゃんを呼び捨てするのはやめとけ、ファンに聞こえたらクッソ面倒になるぞ。ちゃんか様つけておけばいいから、な?」
「お、おう。それでローズ……ちゃんって見かけてない?」
「今はファンサ時間だよ」
「ファンサ?」
「ファンサービスの略。そういややってる最中だったな。道理で殴って来るのが居ねえわけだ」
呼び捨てしただけでそんなことになるのか、気を付けないと。
「あそこに青い建物あるだろ、あの下でファンサやってるよ」
「今は後期だからあっちがメインになるよね」
少しだけ高い青い屋根の建物、確かにわかりやすい。
「兄ちゃんも男だなあ、若そうだし」
「実はチーム組んだりして」
長くなりだったので「じゃあ、また」駆け足で別れて、青い建物へ向かった。
青い建物の下は広場になっており、20人くらいのギャラリーが囲んでいるのが見える。ギャラリーの声援とローズの声が澄んで響いており、それに誘われるように向かう。
ギャラリーの服装は薄いピンク色した服装で統一されており、近くへ来ると一瞬何者みたいな顔はされたが、なぜか歓迎され見やすい位置に案内されていた。
「さあ、もうこれで最後。赤く輝き、白く煌めく衝撃があなたを倒す力となる、ローズキャメロット!」
ちょうどクライマックスといった感じか、腕をバツ時に交差させてからの銃弾と斬撃の応酬。さすがに銃は空砲、ナイフは刃なくした板を使っているが、動きは変わらない。食らっている悪役側はちょっと雑に倒れているけれど、ローズの技術を見るには十分な物だった。
周りに合わせ拍手をして、終えると笑顔でこちらに向く。
「本日は集まっていただきありがとうございました! 開始が遅れたこと、本当に申し訳ありません」
頭を下げているが、周りの声は「気にしてないよー!」とか「いつでもまってるよー」といった明るい励ましの声でいい雰囲気だなと微笑ましく思えた。
顔を上げた瞬間、間を感じた。自分もそれがわかってしまった。目が合ったしまった。
気を取り直すように少し天を仰ぐ彼女、勘違いしているファンは「泣かないでー」と励ましのエールが。
「それではこの後は握手会、プレゼント会がありますので参加者はこちらへ、お疲れさまでしたー!」
いいもの見れたし帰ろう。やっぱり本物は切れが違ったな。アルクとやってたの戦うためって感じだったから相手に見られるって意識が無いから動作一つ一つがそれっぽいだけだったんだな。
やっぱり、アルクに見せてあげたいな、彼女のこと。喜ぶのが容易に想像できてしまう。そのためにも、明後日がんばらないとな。
コツッ、感じの音が頭に響いた。少し遅れて鈍痛が走ってきた。痛みの方向ファンと楽しく会話をしながら何かをしたのが見える。何が当たったのか足元のほうへ視線を向けると白い紙が丸められた指先ほどの小石。
書かれていた内容は非常シンプルに二文字が書かれていた。
『まて』
紙から視線を彼女に向けるがさっきと変わらない様子。試しにもう一度帰ろうとした瞬間に今度は飛んできたのを感じ、キャッチ。軌道から考えてもやっぱり彼女から。
どうやっているのかはわからないが、紙にはさっきより力強い字で『にげるな』と書かれており、あきらめることにした。




