エピローグ 2-3
アッシュと話している間も周囲を探していたがなかなか彼らは見つけるのが大変だった。
ようやく見つけたよ。『虹の箱舟』まで歩いて一時間ほど離れた平原。クロウは彼女を背負っていた。
見つけたときはけがをしたのかと焦ったが、近づくとそういう雰囲気ではない。
「なあ、アルク。いつまですればいいんだ」
「飽きるまでー」
くたびれた青年の声に、笑い交じりの少女の声が響きわたる。
平原のど真ん中でこの子たちは何をしているんだろう。
「やあ、久しぶり。どうしたんだい? 彼女を背負って」
「黄の頂点? お久しぶりです」
「映画の鳥さん。久しぶり、まさか新作!?」
「残念ながら、役者がそちらにいるからね。それからだよ」
「あ、そっかー」
「次は君たちが出演するかもしれないんだ、僕も早く来てほしいよ、切実に」
「どうしたんです、何か――」
クロウくんなら聞いてくれるだろうと思ったが、すべてを遮る声がかき消した。
「えっ?! 私出るの?」
「前言っただろ? 今度はアッシュも含めてみんなで撮ろうって」
「うそだっ?! 『ブレードガンナーリボーン』はクロウとローズ様とネルさんって」
「それは、アルクといない間の話で、映画を撮るのは別なんだって」
「えー、わかんないよ。結局どういうことなの?」
「みんなだって、次作はローズが誘える人たちみんな誘ってやるの」
「みんなかぁ、わたしもだよね?」
「そうだよ」
「そっかー、えへへ」
何だろう、アッシュくんの言っていた目に毒と言う意味を理解した気がする。
「あっ、アルク。動かないで! 黄の頂点!」
急に彼がこっちに向けて声を荒げた。言われた通りに前に行くと彼らの背中から黒い力が羽の形で現れる。
身体の数十倍の大きさが現れ、弾けていく。巻き込まれたらこの体じゃ即死だった。
見覚えはある。この前の戦いの最後だ、彼の告白によってでたあれが、いきなり現れた。
「すみません、感情が高ぶると力を漏らす癖が付いちゃって。普段は前兆が来たら空に向けて力を飛ばせばいいんだけど、今は背負って間に合いそうになかったので」
「鳥さん、ごめんなさい」
「えっ? 君ずっとそんなことをしてるのかい?」
「今日は外で二人きりだったから油断してたのもありますが。普段は『虹の箱舟』のみんなが兆候を教えてくれるんで、怖くなるって」
色が強いと体がおびえる感じか。
僕は何も感じなかったが、ローズに会った時も自分気配にすぐ気づいた鋭い人が何人かいたし、『虹の箱舟』はそういうのに敏感なのだろうか。
「アルク、やっぱり自分でも気づく方法はないのか?」
「分かんないよ、前は黒ちゃんが教えてくれてた……からさ」
急に寂しそうな表情になる。
「君は、黒の頂点を憎んで探していたと思っていたが、違うのかい?
「それはあの時だけ。今は……クロウはいるし。黒ちゃんは意地悪っぽいけど、臆病さんなんだよ。あの時だって喧嘩したら仲直りできるかなって。居なくなるってすごく寂しいことだよ」
笑みの混じったさびそうな声、予想外だった。もうすでに彼女は黒の頂点のことは許していたのか。
「今日も仕事の合間にここまで来たけど、見つからなくて」
「そこは、僕を頼ってほしかったなぁ」
「鳥さん知ってるの!?」
「実は……といいたいところなんだけど。もう少し待ってほしい。その様子だと『黒の城』も行ってないみたいだね」
「ん? 分かった! そこだね!」
急に目を輝かせて叫んだ言葉に「待って!」と声を張り上げるが聞こえている感じがしない。
いけない、余計なことを言ってしまった!
「アルク! ダメだ、バロンさんにも青の頂点にも止められているだろ」
「うっ、そうでした……でも、何か知ってるってことだよね!」
危なかった、この子に中途半端な情報を伝えるのはやめよう。
「助かったよクロウ、黒の頂点の問題は赤と黄の僕たちに任せてほしい。どうしてもこの問題は僕たちが解決しないといけないんだ」
「でも、黒ちゃんは私が原因で……」
「君の気持ちは分かる。でも、無理に動いたら君たちが勝ち取ったこの結果を台無しにしかねない。僕はそうしたくない、そのために頑張っている最中なんだ」
「う、うん分かった」
「ありがとう、黒ちゃんが戻ってきたら初めに君に伝えるよ」
「やったぁ! 鳥さんありがとう!」
無邪気に笑う少女、純粋な感謝の言葉は癒される。帰ったらストレスがたまった彼女と顔を合わせないといけないのは、ちょっと辛い。
「そういえば、さっき何かを言いかけてませんでした?」
ちょうどその話題になる予定だったら問いが来たがやめよう。よくよく考えたら彼らに言っても愚痴にしかならない。
それよりも今も続くそれについて聞かないと。
「ああ、その話はもう大丈夫。それよりなぜ君たちは背負って移動しているんだい?」
「あっ、最初にそれ聞いてましたね。これは……約束みたいなものです」
「わたしのわがままだよー」
なるほど、告白の時のあれか。
これで終わり、ではあるのだけど。せっかくだからちょっかいを出しちゃおう。
「それだとなんだか親子って感じだね」
「えー、アルクは子供じゃないよ」
「恋人らしい抱き方があるんだ、知ってるかい?」
「へー、そんなのあるの? クロウ、降ろしていいよー」
二人がこっちを見つめているのを確認したら、姿を変える。
人の形をしたものを二つ、正面に横向きにして抱える映像を見せた。二人は見たこと張るはず、あの映画にあったはずだから。
「あっ! あっ! 最後のところだよ! ルビー姫の!」
「あったなあ。あの抱き方か」
「やるよー!」
「はい、ルビー姫」
具体的にどうとか説明する間もなく、それっぽい形に持ち上げた。
「彼女は彼の首に手をまわして、身体を寄せると良い感じになるね」
「こう?」
「あっ、少し楽になった」
彼女はさらに顔を近付けて頬にキスをした。
「えへへっ!」
本当はそれをさせようとして、恥ずかしがるかと思ったけど。彼らはちゃんと恋人だったみたいだ。
のんきに思いながら彼らの表情を見たら想像と違った。睨んでいた。
「逃げて! 青のちか――」
彼女の背中ら広がる青い翼の余波に巻き込まれて途絶えてしまった。青の力か、そっちもあるのか。
そして、ありがとう。君たちの爆発は過剰反応する異変を見せてくれた。もうすぐだ、もうすぐ手のかかる子たちを見つけられる。
これで最後だ。




