エピローグ 3-3
場所は『パレッタ』周辺の森。こんなところに隠れていたのか
「やあ、黒ちゃん。そしてスピル」
「チッ、バレたか」
力が弱くなっている黒の頂点。それよりもほとんど色が見えない、人とも頂点とも言いにくい何か。
彼女は横になって眠っている。
「こんなところで一体何をしているんだい?」
「逃げてるだけだ、アイツから。事情だって分かってんだろ」
「もちろん、一番の謎はスピルがいるってことなんだけどね」
「こいつは……成り行きだ」
「急だけどさ、僕のところへ来ないかい?」
「コイツを連れ戻すってことか」
「いいや、君もだ」
「やめとけよ、アルクに見つかったら俺の城みたいにぽっかり穴が開くぜ」
「君は、本当になにも知らないようだ。アルクはもう許しているよ」
「そんなわけ、無いだろ。好きな奴を殺したんだぜ」
「ふふっ、実は彼は生きていたと言ったら」
「あ? んなわけ。でも、そうだったら……」
自問自答し始めた。それを終えると「詳しく教えてくれないか」
彼に答えるように僕も彼が『万象器』であり、結果的に復活したこと。アルクは彼と恋人になったこと。それをきっかけに黒を彼女は別の目的で探していることを。
「あー、なんだよ。それじゃあ俺はただの間抜けってことか。定期的に『虹の箱舟』の方からバカでかい力が出ているから暴れてるのかと」
「溢れると危ないから空に売ってるだけだよ」
「ついさっきの二発は? なんかいつも違ってたぜ?」
「あれは……僕のせいだね。ちょっかい出したら暴発しちゃって」
「コイツは反応して暴れるし、お前には見つかるし。あのバカにはしてやられてばっかりだぜ」
「それで、どうするんだい?」
「俺は別に、あとはコイツの機嫌次第だぜ」
黒が身体の一部から小さな銃弾を持ち出した。あれは赤の力で作った銃弾だ。
「黄、出来れば何個かコイツをくれないか。妹から何個かもらったがそろそろ切れそうでな」
「良いよ、君のこれからの結果次第だけども」
「悪くない結果になると思うぜ」
横になっている彼女目がけて投げた。銃弾は身体に吸い込まれゆっくりと立ち上がっていく。
ここで初めて彼女の姿が正しく見えた。
眠らないはずの頂点が、朝に目覚めるようにあくびをしながら背伸び。煽情的な服装でゆっくりと見まわしていく。
赤の力を吸って、弱いけれど、確かに彼女だった。
「おはよう、黒ちゃん」
黒の頂点から僕に視線が移った。凝視するように目を細めて、誰か分かったのか口を開けて困った表情に。
「キーちゃん?」
「そうだよ」
答えた瞬間に背中を見せ、こけた。
派手に顔から地面に倒れた彼女の足には黒い輪っかが掴んでいる。
「はぁ?! 黒ちゃん何してんだ! 黄の頂点はマジやばいって! 逃げないと!」
「諦めろ、コイツに見つかった時点で逃げ場なんてないんだぜ。無駄に体力を使うな」
「裏切者ー!」
「今は赤の力を補充したからまともに話せると思うぜ」
こけている彼女の傍、といっても腕が届かない位置で立ち止まる。僕の知ってる彼女なら容赦なくつかんでやられかねない。
「さて、少し話をしようか」
急に丸く、大きく開いた瞳でこちらを見てくる。
「キーちゃんはアタシのこと、嫌い?」
「いいや、好きだよ」
「アタシは……嫌いだな。キーちゃんのこと」
「それはどうしてかな」
「見通している感じが、その余裕とか――」
一瞬見えた黒い靄、映像が途絶える。次の僕が彼女の前に舞い降りた。
「ほら、続きを放そうか。スピル」
「あ、あはは。対策ってこと?」
「だね、話しながら色を注いてくるなんて、そりゃ黒も狂っちゃうわけだ。ダメだよ、無理やり色を注ぎ込むなんて」
「黒ちゃん?」
「俺は何も。というか今知ったぜ」
「100人以上の被害者から推測していっただけさ。色がなんでぐちゃぐちゃにかき乱したまま安定してしまったのだろうってね。上空には8000近くいるけども、まだやるつもりかな?」
「いや、いやいやいや! キーちゃん本気?」
「これでも足りないくらいだと思っているくらいさ。お話しようか、スピル」
「はい、ごめんなさい」
彼女は身体を起こして地面に座る。
「正直、話は一つだけ。『ゴールディ』に帰らないかい?」
彼女の表情は曇った様子。目をキョロキョロさせて、何かを考えているが言葉は帰ってこない。
「何か言ってくれたら、手伝おうかな」
「手伝うって何をさ?」
「君が困っていることに対して、かな」
「キーちゃん、分かってて言ってる! 絶対言ってるって!」
「しょうがないなあ。嫌われているとかで悩んでいるだけだろう? 『ゴールディ』のみんなが」
「そ、そうだよ。悪いかよ」
ぶっきらぼうな言い方、少し戻ってきているようで嬉しい。
「思ってないから、大丈夫だよ。僕やネルはもちろんだし、みんなだって君がいないから退屈だと感じている」
「でもよ、怒ってる、だろ」
「そうだね、怒ってる。僕も怒っているよ」
「じゃあ、やっぱり嫌っているじゃないか! もう!」
「ほんとバカだよね、君は。怒っているのと嫌っているのは違う感情だろう?」
「怒ったら、嫌いになるじゃんか!」
「じゃあ、怒って『ゴールディ』を壊した君は『ゴールディ』のことが嫌いとなるけど良いのかな?」
「それは違う! あぁ、うん。……キーちゃんはいつも分かっていて回りくどく話をするから嫌い」
「ふーん、そうかい」
「嘘です、嫌いじゃないですー」
「いつでもいいから。でもなるべく早く帰ってほしい。僕が怒っているのは家出するだけして音信不通なことだけさ」
「分かった、分かったよ」
連絡していた一羽が来た、風呂敷を地面に落とす。『ゴールディ』から適当に集めた銃弾が入った風呂敷。
「黒、あとは君たちに任せるよ。僕からこれ以上は手を出さない。でもずっと見ているからね」
「ああ、わかってるぜ」
こうして、彼らとの会話を終えた。
さて、戻うろうか『ゴールディ』に。
一番近くに居た一羽に意識を。そしてネルの私室で様子を伺う。
彼女はひと段落ついたのか、コップで飲みながらゆっくりしている。
「落ち着いたみたいだね」
「少し前に終わりましたから。今知った所をところ見ると情報収集ですか?」
「うん、色々とね。良いことがいっぱいあったよ」
「今日は機嫌がよさそうですね、一羽やってしまったから怒っているのかと思いましたが」
そういいながらお皿を机の上へ置いた。中身は黄色い野菜スープ。
食事の意味はないけれど、味は感じる。
そして、これは僕の大好物だ。
「好きでしたよね、それ」
「よく分かっているじゃないか」
彼女の傍へ飛び、それをついばんで飲んでいく。
聞こえるのは僕のくちばしがスープに触れる音、彼女がコップを置いた音。それ以外は何もない静かな部屋。
僕はスープの味と、これから話すつもりの事柄にワクワクしていた。
「ふふっ」
「本当に機嫌がいいですね」
「僕は君たちのことが好きなんだって実感してね」
「そこまで言うほどとは、期待しても良いですか?」
「もちろん、飲み終えたらね」




