告白
当日の朝、彼女の位置は黄の頂点が常に把握しており、もうすぐ来ることを伝えられていた。
虹の箱舟の入り口は屋根付きの通路を抜けて中に入る構造になっている。
時間は早朝。
まだ日が上がったばかり、明るくなり始めた空の下、見覚えのある黒い車が止まる。中からは数人出てくる。
彼女が見えた。
後ろ向いて手を振っており、どうやら一人でこちらにくるようだ。
手には見覚えのある紙袋。腰にはナイフと銃が掛けており、丸腰というわけではない。動きはきょろきょろと周りを見ている。
誰かいないか探しているが誰もいない、がっかりしたように下を向いた。地面を見ながらとぼとぼと向かってくる。
俺も向かおう。入り口の陰から朝の日差しが差す彼女のもとへ。
足音が響いた。足音に気付いて顔を上げる。まだ気づいていない彼女が小走りで向かってきた。
「すみません。こっちに黒ちゃんを――」
あと10歩ほど、彼女の動きが止まる。声も足も。
代わりに自分が歩き出す。彼女の表情が見えた、言いかけた口が開いて止まっている。瞳は大きく丸く輝かせてこちらをしっかりと見ている。
「どうした、アルク」
「えっ?」
声を聞いて彼女の表情が変わった。
怯えだ。
背負う大剣を天に掲げて彼女へ向けた。大げさに構えたそれは合図、同時に車のほうへ他のメンバーが取り囲む。
「やめてよ、夢の中だけで充分だよ、えっ?!」
すでに取り囲まれている光景を見て、再びこちらを向いた。
「どうして、どうして? わかった、バロンさんでしょ! こんな意地悪するの!」
「残念だったな、俺だよ、クロウだ」
「いや、違う! クロウはもういない!」
そういって銃を構えて黒い弾丸を発射、弾というよりこぶし大の固まりを乱射、やけくそな銃弾は1,2発よけた程度で大したことはない。
「次は『ローズキャメロット』でもするか?」
「むかつくなぁ! やってやんよ!」
ポーズはお馴染みだが、そこからナイフと銃から溢れる黒い力の伸び方が恐ろしいほど力強い。ナイフが長剣に見えるほど、それが銃からも伸びてる。
俺は左手を上げる、アッシュ、頼むぞ。
彼女は走り出す。初撃の銃弾、発射した瞬間に銃声が遠くから響く。
受けきれるかわからない、でもやるしかない。
大剣を盾に銃弾、続き黒いナイフの斬撃の衝撃が襲う。
踏ん張る足が、地面を滑り身体がしびれて動かない。でも彼女の攻撃は止まることなく、銃口がこちらを向いた。
同時に銃声、彼女の銃が形状を変え、先端が砕けてた
「よっ、アルク。久しぶり」
彼女の視線が声のほうへ、身の丈ほどの銃器を担ぎながら歩いてくる。
「アッシュもその服なんだ」
「懐かしくて良いっしょ」
「むかつくよ、今は。あれ?」
俺も気づいた、アッシュから香水の匂い、ローズの香りだ。
しかも結構匂いが濃い、つけすぎてる、わざとだろうけど。
「アッシュ、ローズ様と同じ匂いするんだね」
「あはは、ばれたか。付き合ってんの。さっきまでずっと一緒だったから匂い残ってたかぁ」
「えぇー!?」
目つきが変わった。さっきまで怒っていたのが、興味津々なキラキラした瞳、それは同時に隙ができた。
彼女のナイフに力を込めて切り上げる。手に力が入っていなかったのか、きれいに宙を舞い、アッシュが腰につけた小銃で遠くへ弾き飛ばした。
彼女は使えなくなった銃も捨て、後ずさりながら「何でよ!」と声を張り上げる。
「どうしてみんな勝手にするの!」
「勝手、何を?」
「いっぱい! いっぱいだよ! 黒ちゃんは嘘つくし! アッシュはローズ様と付き合ってるし! クロウは……」
「俺はどうなんだよ」
「死んだもん、あの時、絶対」
「いいや、生きてる、ここにいる!」
「いない! いない! いないっ! 私が殺しちゃったの!」
声に合わせて、青と黒の混じった光があふれ出る。自分には感じないが、アッシュを見ると足がすくんでいる。
俺は歩みを止めない、彼女と距離はあと5歩4歩と縮まっていく。
「殺されないよ、絶対に」
「嫌だよ、もう来ないでよ!」
退けるように手を横に振った。彼女の拒絶を伝えるように黒と青の混じった光の刃がこちらへ飛んだ。
避けるつもりはない、ここからが本番だ。
「クロウ!? えっ、あれ?」
焦りから困惑。彼女の足は止まった。
自分には効かない、少し衝撃はあるけれど、その攻撃は通らない。
彼女の前に立ち、剣を振りかぶる。
斬るのは怖くて、横に向けて思いっきり。
「お仕置きだ、アルク」
当たった、はっきりと感触がある。彼女の身体は横っ飛び、地面を少し滑って止まった。
やりすぎたか思った。でもすぐにピクリと動き出し、起き上がり始める。
「お前に俺を殺せるわけがないだろ?」
「うるさい、偽物」
もう回復したのかと思うほどダメージを感じさせない怒った声。
「まだそんなこと――」
「うっさい!」
声と一緒に何かを投げるような腕を振ると、黒い無数の棘を砂のように飛ばしてくる。砂が混じっていたのかチクチクと砂が刺さって少し痛い。
泣きそうな表情で、喧嘩した時のように考えなし、感情むき出しの攻撃を。
それなら、もう武器はいらない。
剣を置き、飛んでくる棘の中を無視して突っ込む。
彼女の腕を掴む。
「話してよ!」
振り払おうと伸ばした腕も掴んだ。
「わかったか、殺してないし、殺せないんだ」
腕から力を抜ぬけたのが分かった。でも、目は合わせてくれない。
「勝手だよ、生きてるなんて」
「そんなに言うならアルク、俺も勝手になるよ」
返事はない、それでも我は勝手に喋る。
「アルク、顔を見せてくれ」
一瞬ちらり、すぐにそっぽを向く。
それでも待つ。静かに、向いてくれるまで。
数秒経ったろうか、静寂はようやく終わった、
「んぅ」
小さく唸り声を漏らしながら、ゆっくりと彼女はこちらを向いた。
少し下向きで、不安そうに何度も上目づかいでこっちを見ている。
掴んだ腕を離し、目線を合わせるように屈む。
彼女も合わせて前を向いてくれた。
見つめあう、自分の決意が動き出す。
「君が好きだ、付き合ってください」
彼女の瞳が潤んだ、返事はまだない。代わりに返事をするように黒の力が背中からあふれ出て放射状に広がり弾けた。
正面の辺りにいた自分とアッシュは何事もなかったが、他のメンバーは頂点たちが当たらないように力を使って防いでいた。
一方彼女は、不安そうな表情。
「え、えっと、ね?」
「うん」
返事を返すとまた考えるようにゆっくりと口が動き出す。
「黒ちゃんの力、強いよ、危ないよ?」
「大丈夫、俺には効かない」
「ずっと辛かったから、これからわがまま、いっぱい言っちゃうよ」
「良いよ、気の済むまで」
不安そうな表情で他の理由を考えていたが「そっか、そっか!」と納得したように声がだんだんと明るくなった。
表情も無邪気な笑顔、よく知っている彼女の顔が姿を見せた。
「じゃあ、私も言うね!」
「うん!」
「クロウ、大好きだよ!」
抱きつくというより飛びつき、不意打ちで、支えきれなくて後ろへ倒れこんでしまう。
胸元で彼女が愛おしく思えて頭をなでているとアッシュが傍に立って見下ろしている。
目が合い、お互い笑顔を交わした。
彼が両手を挙げる、終了の合図だ。




