決意
場所が問題だった。何をしゃべりだすか分からない彼女をどこへいけば比較的安全か。行きついたのは今日で何回目かと思ってしまう青の頂点の私室だった。
肩につかまり頭の上に頭をのせて「あー、なんなんだろうなー、今日はほんとに」と愚痴が始まっている。
「お前たち、なぜここへ」
「すみません、少しだけここにいさせてもらえませんか」
「別にいいが、赤の妹お前何でそんなことに」
「いいじゃないですか、別にー」
「クロウ、なぜ彼女は赤の力が増えている。色に当てられているぞ」
「その、ローズをアッシュが――」
「あー聞きたくない、その名前は聞きたくないですよー」
遮る彼女の様子に察し「好きにするといい、私も関わっているようだな。クロウ」優し気な声で言う。
その意味が気になって問いかけようと下が自分と青の頂点を阻むように立ちふさがった。
「今は私の話だけ聞いてくださいねー、ローズちゃんの話しましょうねー」
「はい、どうぞ」
下手に刺激すると危ない。いきなり殴りかかってきそうなくらい情緒が不安定。
「ローズちゃんは……ローズは、ダメな子でした」
急にテンションが低くなった。何かを思い出しているように頭を抱えているが話は続く。
「『ゴールディ』で白に適性があっただけの残念な子。鍛えて鍛えてと、ガキが物をせがむようにしつこくて、当時は気が狂いそうでした。その点バッドは優秀でした。強くなる
やり方を知らないだけ、キングになったスピネルがもう一人できるかと思ったくらい」
彼女が姿を消した、移動したのはまた自分の背中。頭の上の頭をのせて話は続く。
「いよいよ『シアン闘劇』が始動するって段階、とにかくお金がない。そんな時にもあの子は来て、金がないことをうっかり漏らしたら君の大好きな『ブレードガンナー』を持ってきましたよ、売れた数だけ訓練してくれって。安請け合いでした、後悔しています」
肩をぺしぺし叩きながら「『ゴールディ』じゃ本しか売れなかったけど、黄の頂点があーもう本当に余計なことしてくれましたよ」さらに肩を叩く速度が上がった。
「結果的に50本、その瞬間は黄の頂点と笑っていましたね。価格もぼったくってましたからお金の問題が落ち着くかもって思っていました。でも水を差すようにそいつは言うのです、あの子も50回訓練してあげないとねって。頭を抱えました」
肩を叩くのをやめ、ぐったりと体を預けてくる。
「聞いてます? 君らのせいなんだよ」
「うん、聞いてるよ」
「はい、聞いてますよ。あの映画、ぼったくり価格で――」
急に話に乗っかってきた青の頂点に、背筋が伸ばして体から少し離れてくれた。
「あー! 次はえっと」
「ぼったくり価格について――」
「訓練でしたね! 話を続けますよ!」
何度も声をかき消される青の頂点は小さく「むぅ」と、拗ねた声を漏らして追及をやめた。
「50回の訓練、3回目あたりで無理だと感じました。強くはなっていました。『ブレードガンナー』を見た時点で白の力を無意識に使うようになって射撃の精度が上がっていましたから。でも、黄の力を突破するための力が足りない。私は彼女で実験をすることにしました」
「実験?」
「そうです、この先を聞いたら、君は私のことを嫌いになるかも、しれませんね」
急に正面へ、微笑んだ顔でこっちを見ている。
「今はネルさんの話を聞くって決めてるから、続けてください」
返事はなく、口元は笑っているが、目つきは細く鋭くなる。
また自分の背中に現れて頭を撫で始めた。
「私はローズに赤の力を無理やり与えました。大量の赤の力を訓練の回数分一気に強くなれるって嘘をついて。結果は強くはなりました。容量が増え、力も増える。想定外なこともありました。力が集まりやすくなり、しまいには容量がすぐにいっぱいになって簡単に爆発してしまうようになりました。覚えはありますよ?」
「分かります、無気力になるやつですよね」
自分の言葉に続けて「似たようなことをしていたのだな、赤の妹」と、青の頂点が興味を示した。
似たようなこと?
「あの忌々しいガキの瞳を見たとき察しましたよ。成功させたらこうなるのかって」
「いいや、失敗だよ。確かに私たちと比肩するほどの力を得た。だが身体が確実に限界を迎えてしまう。明日で中止だ。そのあたりも聞いたのだろう。クロウの表情を見ればよくわかる」
大事なことを黙っていたことは、正直ムカッとした。
「アイツは、元に戻れるんですか」
「戻すさ、明日は早く終わらせてくれ、あの子のためにも。彼のためにも」
「わかりました」
「待ってください、綺麗に終わらせないでくださいよ」
ネルが青の頂点の傍に現れ、話に割り込んできた。
さっきまでと違い、自分で立っているところを見るとだいぶ元に戻ってきているようだ。
「私は、どうですか? ローズちゃんにひどいことをしたのですよ」
「でも、強くなれたんですよね」
「そう、ですね」
「その時、どんな感じだったかは分からないけど、今のローズがネルさんを嫌うなんて思えないし」
「そうじゃなく、クロウくんが私をですね」
「変わらないよ、好きですから」
「……はぁ」
返ってきたのはため息、そのまま喋らず頭に手のひらが振ってくる。
聞こえたのがゴスッと鈍い音、続く痛みと衝撃。
「思わせぶりなことを言うのはやめなさい!」
「痛っ! さっきまで軽かったのに!」
「それは密度を変えて軽くしてただけです。今までも撫でたりしたことあったでしょう」
そういえばそんなこともあったな。
「あの男には彼女の性質のこと言おうと思ったのに、もうすっきり――」
「すんません! ここにネルさんは……いた!」
「どうしましたか、くそ野郎」
だめだ、本人を目の前にしたら機嫌が明らかに悪い。
背中にはローズがおんぶされており、力が抜けている様子。
「ほんと、やばいんですって! ローズが赤の力が暴発したらこんなになっちまって!」
「あはは、大変ですねえ」
「ちょっと! 赤の力分けてくださいよ!」
「何を言っているのでしょうか、彼女の色の適正は知っているでしょうに」
「あっ、白か、バロンは! いないか。クロウは今までこんなことはないのか?」
「傍で野菜スティック食べて……眠くなってそれ――」
「うおっ、びくってなった」
力ないはずのローズに一瞬睨まれた気がする。
いつの間にか彼らの後ろにネルが立っていて、無気力なローズを彼から奪っていく。
「いいじゃないですか、せっかくだから同じ状況にしましょう、三人でね」
すごくうきうきした表情で話す彼女の言葉にいまいち理解できず、察しの良いアッシュは「三人って、俺と彼女と……?」と、あと一人は。
「クロウくんで行きましょうか」
「うがぁっ!」
ローズから変な声叫び声、だか力尽きた。
そこからはネルの指示通りに彼女を左右で挟むように座っていく。
「もっと肩を寄せ合って、ふふっ良い感じですねえ。どうですか? ローズちゃん。幸せですか?」
足を延ばして壁沿いに座っている彼女に目線を合わせるようにしゃがみ、動かない彼女の頬を突いて楽しんでいる。
機嫌は治ったのか、アッシュを見ても表情が優しくなっていた。
「アッシュくん、彼女とイチャイチャしすぎないようにね。彼女は赤の力がたまりやすいの」
「みたいっすね、ありがとうございます」
「こういうローズちゃんもしばらくは見納めですからね、うふふっ」
「すみません、俺のわがままで」
「いくから」
ロースが声を。彼女の言葉は続く。
「行けるようになったら、すぐ、みんなと一緒に」
その言葉にアッシュと目が合い頷く。
ネルは彼女の頭を撫で始める。
「本当にこの子は、かわいいですね」
撫でながらこちらを向いた。
「クロウくん、今日はずっと付き合ってくれてありがとう。これからもよろしくお願いしますね」
次にアッシュへ視線が向いた。
「アッシュくん、君は非常に運が良かったですね。彼が居なかったら私はこれから何をしていたか」
「うっす、すみません」
そしてローズへ向く。
「ローズちゃん、『ゴールディ』はいつでもあなたを、あなたの仲間たちを歓迎します。それだけは忘れないでくださいね」
「うん」
「青の頂点、すみませんね、長いこと居座って」
「気にするな、元々予定がなく暇をしていたところだったからな。君らも落ち着くまでいるといい」
「では、また明日」
微笑みながら手を振って彼女は去っていく。同時にアッシュから緊張が切れたのか「あー」と気の抜けた声が聞こえる。
「マジで助かったわ、クロウ。赤の頂点の機嫌損ねちゃって」
「ああ、知ってるよ。ずっと見てたからな
「は?」」
肩からもローズからのビクッとなった刺激が来た。
「戻ってきたら食堂がぐちゃぐちゃになってて、そこでネルさんに会ってローズについていったんだ。だから全部知ってる、ネルさんがローズに隠してたことも、告白もな」
「ほとんどじゃねえか」
「実はな、俺も怒ってことがあるんだよ」
これだけはちゃんと言っておかないと。
「え?」
「身体のこと、何で隠していたんだ」
頭を掻き、困ったように少し目を逸らしたがすぐにこちらを向く。
「まだ、言うべきじゃない……と」
「だけど、それがきっかけだよな」
「……はい、それに関しては何にも言えない」
「分かったならいいけど。おかげで俺も決心がついたわけだし」
「だな、あのタイミングでローズが来るのはびっくりだったけど」
「確かに、もうすこしでローズの情報を伝えることに――」
「私の情報がなんだって? クロウくん、教えてくれるかな?」
耳元から声が、振り向くと怒っている彼女がこっちを向いていた。
こっちを睨んでいるローズが近くて、思わず少しだけ距離を取った。
「えっと、何も話してないよ」
「そうそう、ちょうど来たしさ」
「その前に、言うことは?」
「……ごめんなさい」
彼女表情は怒っているというより楽しんでいるような笑み。
「変だと思ったんだよね、戻ってきたときクロウくんは表情硬いのに、アッシュは妙にへらへらしててさ。ちょっとむかつくなぁ」
「その件に関しては俺も悪いところあってさ、まじで」
「へえ、じゃあ二人とも悪いってことね?」
「あー、やべえ、そうなるわ。ごめん」
彼女は交互にこっちを見てくるので、アッシュを息を揃えて頷く。
「本当に仲いいわね、じゃあお詫びに二つしてもらおうかな」
「良いよ」
「なんでも大丈夫っす」
「じゃあ、クロウくんにアルクちゃんのことを聞いてもらうね。さっきはちゃんと言えなかったから。作戦に参加できない理由でもあるから」
「わかったよ」
「私、アルクちゃんに嫉妬してた。アッシュくんには悪いけど、君は初恋だった。でも友達だって決めたけどさ。いざ会うと彼女が君をどう思っているか気になった。彼女の好意がどれかと思ってさ、ごめんね」
彼女の言葉に平気なふりをして頷いた。正直気分は困っていた。あの時、自分は残酷なことをしていたと。割り切れていない、俺もローズのことを言うのを躊躇っていたのを思うと。
「君のことをとっちゃおうかって、ブレスレットを見せたら、彼女すごい妬いてた。黒の力が襲い掛かるかと思うくらいに悪意を私に向けた。でもね、自分を傷つけて抑えて、謝ってきて、また無邪気に話しかけてくれた。黒の城でのあの場所で彼女は君にもっと近づこうとしてたよ、友達の先へなりたいって。いたっ!」
アッシュが彼女の頭を軽くたたいていた。
「クロウの代弁、お前の顔怖くなると危なっかしいから俺が叩いといた」
「悪い、ちょっとすっとした」
「むかつくわぁ、助かったけどさ。クロウくんは、彼女を受け入れるのよね?」
「うん、必ず」
「よし、じゃあ二つ目は二人に」
彼女の腕が首の後ろに、アッシュも一緒だ。一気に抱き寄せられ「うわっ?!」「おっ大胆!」と声を漏らす。
二人とも彼女に頬が引っ付くくらいの距離、耳元に大きく息を吸う音が。
「絶対にアルクちゃん、助けるぞー!」
再び吸う音、俺たちも揃えて叫ぶ「おー!」揃った声に笑い声がみんなつられていく。
組まれた腕が離れ、お互いの顔を見合いながら笑いは途切れない。
「息会いすぎでしょ、何なのよもう!」
「いいじゃんいいじゃん、絶対やらないとだもんな。楽しみにしてるぜ、アルクの告白をよ」
「うっ、そうか見られるか」
「私は聞けないかもだから、アッシュ頼むよ」
「もちろん! 一字一句表情から何まで記憶しておくっす!」
「くっそ、楽しみにしておけよ!」




