ペンダントと告白
「呼びつけてすまない、少し話をしておこうと思ってね。彼も一緒だがいいか?」
「やあ、この姿はほとんど初めてかな?」
青の頂点とバロンが二人と同じようなたまになって待っていた。
「問題ありません、話というのは?」
早く切り上げてあっちの様子を見ないと、何か焦りを感じてしまう。
「話はこれのことだ」
それは病室に置いてあったコハクが拾ってくれたアクセサリーが入った箱。
「こういう時、不便だな。前にアッシュに怒られたがしょうがない」
「あっ、青くんそれは」
青の頂点が姿を変える。青い長髪になった、アルクだった。
「手がないと面倒でな、すまないがこの姿で行かせてもらう」
「これは、確かに複雑な気分ですね」
似ているけど雰囲気が変。表情がないというか無機質に感じる。
「ほら、やるなら誰も知らない人をやろうよ」
「思いのほか難しいからな。赤の妹は表情まで乗せて。君と関わると表情豊かになるからもっと見たいところだが」
ネルの話の時だけ表情が少し笑っていたような気がする。
箱を開けて、掴んだのは傷の入ったアルクのペンダント。
「最初は直して返そうかと思ったが、白に止められてな」
「クロウくん、どうする? 彼女ならすべて元通りにはできるが、君の気持ちが知りたいんだ」
「ちょっと触っていいですか?」
「どうぞ」
三つ葉のチャーム。青の力が四角く氷のように覆っていた。ペンダントの首紐を通す部分も壊れていて、ペンダントとしては使えなくなっている。
「ここだけってできますか首には通したいんです」
「なるほど、ひもを通すところだな」
彼女の人差し指が青くなる。そこから直す部分なぞっていく。ほんの数秒でそこだけがもとの形に戻った。
ひももすでに通しており「これで問題ないか?」手のひらにあるそれを受け取り、首へかけた。
「ありがとうございます」
「やっぱり、君は傷を直さないことを選んだね」
「はい、こう何もかも無かったことにするのは良くないと思って。よくわかりましたね」
「僕は君をずっと見ていたんだよ、君ならそうするって信じてたのさ」
「バロンもありがとうございます。そのブレスレットもそのままで。終わったらどこかへ飾ろうと思っているので」
「分かった、少し白のことを憎く感じたよ。私もずっと見ていたつもりだったのにな」
「君は自分が良いと思うものを相手に尽くしちゃうから。青がいいと思っても相手が良いとは限らないからね」
「ふむ、そうかもしれんな。私もアルクも。白とクロウも」
俺がバロンに? 似てるだろうか。
やばいな、二人で話し始めた、話が長くなりそうだ。
「ははっ、面白いこと言うね。あながち間違いじゃないかもね」
「かもな……クロウ、何か他に用事があるのだろう、もう大丈夫だ」
「え? あっ、はい。行ってきます」
急に空気を読んだように解放された。もしかして表情に出ていたのだろうか、青の頂点ならありえそう。
今はとにかく食堂へ。
〇 〇 〇
大惨事だった。アッシュが座っていたあたりが吹き飛んでいる。
「おっと、待つんだ」
この低い声、怒ったネルだ。
肩を掴んで行くのを止められた。
「ネルさん、機嫌が悪そうですね」
「そうだ……そうかもしれませんね。本当に面倒なことをしてくれました」
口調だけ直しても機嫌の悪そうだ。
「アッシュが何かしたんです、よね?」
「ええ、ちょうど主役が来ましたね」
ローズが走って食堂を通り抜けていく。
「行きましょうか」
「はい、ん? えっと」
追いかけようと向かうと肩をつかんだままのネル。身体をピッタリ引っ付けて、背中全体が少し暖かい。
一番の違和感は重さがなかった。温かい綿が乗っかっているような感覚。
「どうしました、早く行きましょう」
「いや、何で引っ付いて」
「歩くのは疲れますから、重さはないから大丈夫でしょう?」
「それは、まあ」
「ほら、クロウくん行くのです」
「分かりました」
重さがないとは、今更だけど彼女が人じゃないってことを実感した。
距離を取って彼女の後ろへついていく。ローズは迷いなく複数ある通路から外へ向かう通路へ向かい、よろよろと歩くアッシュを見つけた。
初めから位置がわかって居たかのように彼のほうへ、導かれているようで不気味にも感じた。
「アッシュさん! 歩いて大丈夫なの!」
「え?」
「あれ? 思ったより大丈夫そう?」
「えっと、まあ。加減してくれたみたいで」
地面にへたり込んだローズは泣き出してしまう。
「もうやめてよ! 君がいないと、クロウくんと君しかアルクちゃんが助けられれないんだよ!」
「ごめん」
「何でこのタイミングで喧嘩なんてするの!」
「今日じゃないといけなかったから」
「なんでよ」
「この戦い終わったら、しばらく入院になる。だから今のうちに」
「なにそれ」
どういうことだ? 俺も聞いていない。
「俺の目。青く光ってるだろ。これは青の力が身体中に充満してるから。普通は苦しくなったり、意識が亡くなって暴走とか、ローズさんはあるよね。絶対に」
「うん、うんあるよ」
「今は身体を改造してもらって、力がいっぱい入るようになっているんだ。でもこのままだ負担が大きくて死にかねない。明日まで、明日で最後。終われば元通り。だけどそうなったらローズさんと対等に話せそうになくて」
「そんなことないって」
「俺はある、だからまた言います。愛してます」
また? 告白してネルが怒っているのか?
ちらりと彼女を見るけどそこまで変化はなさそう。
「……わからないよ」
「じゃあ、教えるよ。いくらでも俺のこと」
「そういうことじゃなくて、何で私なの」
「ずっと、映画の中だったけどずっと見ていた。クロウを連れて現れたときもずっと、の君は感情が豊かで、子供っぽいけど、力が美しかった、動作に魅かれた、映画と違う明るさに心が打ばれた。クロウには悪いけどさ、俺の心はずっとローズさんに囚われていた」
「よく、そんな恥ずかしいことつらつらと」
「いくらでも続けてもいいよ」
「や、やめ」
「どうする、逃がすつもりはないよ」
「そんなのわかってる、ちょっと待って」
「うん」
少しの間があった。アッシュは静かに見つめ、ローズは周囲を見回して腰につけた銃を取り出した。
「勝負、銃で決着を」
耳元で「チッ」と舌打ちが。
「良いね、じゃあ射的をしようか」
「まあ、いいでしょ」
「じゃあ、ちょうどいい場所があるよ」
あの向きは訓練所か。確かにちょうどいいな。
「ネルさん、さっきなんで舌打ちしたんです、銃なら対等だと思うけど」
「いいや、全部アイツのペースだ。君も彼くらい強引だったら……」
「俺が、決めたせいかもしれない。アイツが行動を起こしたのは」
「へえ、アルクちゃんにってこと?」
「アイツ、俺がローズに割り切れてないって気づいてたから」
顔を真横に近づけて頬こすりながら囁いてくる。
「どうせなら私も意識して欲しかったな、なんて。ついさっきの告白も恥ずかしかったんだから」
「や、やめてください」
「ふふっ、君はローズちゃんといっしょでほんとにかわいい」
「今日のネルさんおかしいって。ほら、入っていきましたよ、訓練所ですね」
「どういう設備ですか」
「身体を鍛えるために色の影響を受けない仕組みになってます」
「あーあ。敗北確定か」
「どうして?」
「見ればわかる」
訓練所に入るとローズはもの珍しそうにきょろきょろと見回している。
「へえ、立派ね」
「んじゃあれを狙おう。3発で中央に近い方の勝ち」
「なるほど、良いわよ」
射的、同心円状に書かれた的に専用の銃で撃って精度を見るところだ。
「どうぞ」
アッシュに銃を渡され、三連射。思った結果じゃなかったのかローズは首をかしげている。
「あれ? おっかしいな」
「じゃあ、次は俺だ」
久々に見た彼の小銃。一切ぶれずに三発。アッシュが勝ったようで左腕を上げていた。
「はぁ、だよねえ。キングと競り合えるわけだ」
今の話、気になるけどあっちにも集中。
「俺の勝ち、何故かわかった?」
「いや、何かしたの?」
「何もできないが正しい、ここの施設は色の影響を受けない。人としての力を見る施設だ」
「人として、力を使わないと……でも変。狙うのに力なんて使った覚えないけど」
「そう、それが赤の頂点が怒って、いや隠したがっていること」
ローズは彼の言葉を待っている。ネルを見るとあっちに集中しろというように首を向こうへ振った。
「白の力が君の適性。赤の力が容量不足になるのは当然なんです」
少し間があった。彼女が返事をしたかわからないがクロウは続けて話し出した。
「白の力は印を付けることが多いんすよ、想像だけどクロウにつけたことがあるんじゃないかって」
ローズは目をそらし、顔を隠した。
「ははっ、残念でした。ローズちゃんは試合で赤に当てられてただけでーす。バカだね、うちの子はあっさりだまされて……いや、あの日の午後は……チッ、つまらん」
今日は不機嫌すぎてめちゃくちゃなことを言うな、この人。
「探している人があっさり見つかるってことがあったりと、俺を追いかけてくれたのもしかして、なんて」
「知らない!」
「ごめん。本題けれど。俺としては白と赤をうまく合わせて使えばもっと強くなれるって思ってあの場で話したんだ」
「もっと、強く」
「ここは白の本拠地でもある。力の使い方を学べるし……」
急に言葉止まった。
「何、急に黙っちゃって」
「……俺も、いるからさ」
「フフッ、アハハっ」
口に手を当て、下を向いてローズは笑う、その様子にアッシュはダメだと思ったのか少し下を向いたように見えた。
「しつこいよもう。参りました、銃の勝負も負けたしね」
彼女の言葉にアッシュは顔を上げた。静寂の間があった。
「……ありがとう」
喉が枯れた声で返事をすると、下を向いたまま目を拭い始めた。
「えっ、ちょっと泣かないでよ!」
アイツが泣いているの、初めて見たかもしれない。
やりきった、やりきりやがった。胸がすっとする。同時に悔しさもあった。
ネルの方を見たけれど、見入っている様子で大丈夫そうに見える。
「がんばるんだよ、明日も」
「めちゃくちゃ頑張る、カッコよく決めようと思ったのに、なさけねえ」
「十分かっこいいかっこいい。ほら、いくよ」
周りの目を気にしてか、ローズが彼の腕を挟み込むように持り、外へとよろよろ移動していく。
見つかる前に訓練所の脇へネルと移動していき、出ていく様子を見守る
「やり切りましたね」
「そうですね、私の隠していたことすら簡単に乗り切って……はぁ」
頭の上で大きくため息をしながら大きなため息。表情は見えないけど、声は寂しそうだった。
向こうでは彼女に腕を引くというより引っ張られながら、訓練所を出ていく姿が見えた。そこからも腕を引かれながら歩いている。どこへ行くかもわからずうろうろと。
「ちょっと、行ってくる」
返答する間もなく、ネルはは彼らの前に立ちふさがった。
「見てたよ、おめでとう」
力ない拍手、声もすごく不満げなのが伝わる。
ゆっくりと二人を見回していて、アッシュに視線が止まる。しばらくにらんでおり、口を開いたが「なんだろうな、君のことは好きになれん」と悪態をついた。
「ひどっ、クロウには好きって……」
何で、よりによってその話題をここで。
当然というべきか二人は固まってり、事情を知らないローズは置いてけぼり。
「もう知らん!」
それだけ言い捨てて消えたネル。
消えた彼女は当然こっちに来るわけで。
目の前にはすべてを諦めたかのような呆れた表情。
「明日は大切な日なのは分かるけど、話をしないか?」
頷くことしかできなかった。




