万象器
「クロウくんの秘密。君とアルクちゃんが『万象器』ということです」
『万象器』という言葉、それ自体はネルと初めて会った時に聞いた気がする。
言葉の意味は分からない。
「『万象器』、とはなんですか」
「私たち自我をもつ色の頂点が人になろうとするために作った……人です」
「頂点が、人ですか」
「そう、君たちが生まれるずっと前にやっていた実験、結果どちら失敗し……あーえっと目的を達すことが出来なかったという意味で、良いとか悪いとかではなくて……」
「大丈夫です、続けてください」
彼女の戸惑う表情を見ただけで、言葉選びが難しいことはわかる。
自分にできることはちゃんと聞くこと。
一呼吸入れて彼女の言葉は続く。
「失敗の原因は君たちの存在が『万象器』に生まれてしまったためです。中止した後、クロウくんは白、アルクちゃんは青が保護者として育てることになります。私も最近まで知らなかったことですが」
じっとりとした瞳で二人を睨む。
「知っていれば殺しかねない状況だった、というのが抜けているぞ」
「だね、ネルは今いる彼らがあるからの言葉じゃないか。」
ネルの視線がこっちに移る。表情は困ったように微笑んでいた。
「ごめんなさい、当時はそうかもしれません。今、君のことを、彼女のことを知った今ならそんなこと微塵も思いませんが」
後半は嬉しそうに語る彼女に少しむずがゆい気持ちを覚えてしまう。
「二人とも『万象器』ですが、時期が異なっており性質が異なります。そのため、クロウくんがアルクちゃんのように頂点の力を使うことはできません。ここからは二人の『万象器』の性質について説明しますね?」
「わかりました」
「始めにアルクちゃんを、彼女は頂点の力を取り込めます。そこから私たちは彼女の身体で人のように動く予定でした。最初は成功したように見えましたが、徐々に彼女に私たちの存在が上書きされることで失敗……となりました」
気まずそうに目を細めた。
気にしてないように頷いて返すと言葉は続く。
「彼女の取り込む能力は私たち色の頂点には非常に危険です。触れる程度では取り込まれませんが、勢いよくぶつかるだけで彼女の意志とは関係なく取り込まれます。他には、青の頂点なにかありますか?」
「取り込まれると、一時的にアルクの身体を乗っ取ることができる。取り込まれる量に応じて数分から数十分もたたないうちに頂点の存在は消えてしまうが、黒はそれを利用してクロウを攻撃したそうだな」
その言葉に頷いた。
覚えている、最後のアルクの言葉は黒の頂点の言葉だった。
「それではクロウくんはどうなのか。説明していきます」
真剣なまなざし、思わず息をのむ。
「君の体には無数の管が通っており、そこに頂点の力がかけ巡っています。管は君の体を動かし、頂点の意志で動かすつもりでしたが、アルクちゃんと同じように君の存在が体を動かすようになっていました」
自分の体に、頂点の力が? それだと他人から色が見えないのがおかしいような気が。
「気になるところがありましたか?」
「自分の色が見えないって言われるのはなぜなのかと」
「その部分は、白と青の頂点に説明してらいましょうか」
「ふむ、クロウのこと任しては白のほうが詳しそうだが」
話を振られたバロンはこちらを指さした。
「クロウはアルクのお兄ちゃんだから色に対して最強なのさ!」
その言葉に沈黙が広がった。ネルの視線が青の頂点へ。意図を読み取ったように話し出す。
「クロウはアルクより生まれたのが先ということだ。クロウは人に、アルクは人と色の共生が目的のため生まれたのだ。人はもともと色がない、それを満たすために色の力を受けず、見えない体をつくり、同じ素材の管が君の中へ通っている。そこに私たち頂点が通ることで動けるようになっている。結果として色の力に対しては見えず、受け付けない体となり色に対して並外れて強くなったということだな、白」
「そ、そういうことさ。うーん、それと――」
「白、そこから先は関係ある内容か?」
「あはは、そうだね。みんな説明上手でつい、ね」
続きを喋るのを止めた青の頂点の声は不機嫌な声色。返すバロンの声は困って誤魔化すように笑っていた。
「クロウくん、聞きたいことはわかりましたか?」
「はい」
「では、続きを。クロウくんは色に対して非常に強いというより影響がありません。しかし、剣で切り裂いたり、銃で実弾を放ったりすれば普通にダメージを受けます。さらに、色の攻撃も体全体に受ければ、黒の頂点の時のように体の中にいる頂点がダメージを受けて消えてしまいます。これが今も無事でいる理由となります」
「じゃあ、今は体の中に……4つ?」
目覚める直前の夢、4つの光が見えたのが記憶に残っている。
「そうですね、元々は白の頂点だけ。今回はここにいない黄の頂点を含めて4人が君の中にいます」
「つまり、前より強くなったんですか?」
「あー、いや。それは……」
急に目を逸らされ、青の頂点に向いた。
「特にないぞ。君らの提案が提案したのだろう」
「そうだよ、それに理由は簡単さ。みんな君が好きだからだよ!」
また自分を指さしながら嬉しそうに叫ぶ。初めからそのつもりだったかのように青の頂点が続けて声を上げた。
「そうだな、私もアルクと共にある君を見て、愛しく見守っていたぞ」
「ほら、君もちゃんと言ったらどうだい?」
バロンが嬉しそうに鼻歌を歌いながら彼女の肩をつかんで、無理やり自分の前に連れていかれる。
彼女の表情はひどく疲れていて、小さな声で「さっさといえばよかった」とつぶやいているのが聞こえた。
彼女の後ろでは三人がそれぞれ違う様子で待っている。
アッシュはからかってる時によくやる意地悪な笑顔を。
青の頂点はいつもより輝いているように見える。
バロンは身体の動きからワクワクが抑えきれていない。
彼女は覚悟を決めたように強く瞬きをして視線を合わせた。
「私も好きだから、ですよ」
「は、はい。ありがとうございます」
直後にため息「ローズちゃんいなくてよかった」と消え入るような声を漏らしながら後ろを向いた。
「いやあ、愛の告白みたいで良か――」
嬉しそうにしゃべる言い終える前に殴られ、吹き飛んでいた。床に倒れこんだバロンに向けて「調子のんな!」と吐き捨てるネル。
「感情が乗っていてよかったと思うぞ、さすが赤だ」
「青も! もうやめてくださいね?」
「ふむ、わかった」
アッシュ関しては睨まれると、口に手を当て頷いて喋らないとジェスチャー。それを見て落ち着かせるように大きくため息を吐いた。
「青の頂点、あとはお願いします」
「わかった。さて、アッシュ、クロウ。一通り説明が終わったところで明日のことを話していく」
俺とアッシュは青の頂点へ向いて頷いた。
「彼女とは間違いなく戦いになる。彼女と直接戦うのはアッシュ、クロウ、バロンの三人だ。バロンの体は元々アルクの対策で作ったスーツだから戦えるはずだ。ローズという女性も入れようか迷ったが、ネルの進言により却下となった」
「じゃあ、他のみんなは何を」
「彼女以外の足止めと警戒、私や赤の妹もそこに加わる。誰も邪魔させないように君たちが安心して戦えるために。今回の一番の要はクロウ。君になる。そのためよく聞いておくように」
「はい」
「今回、彼女が迷走しているのは、君が生きていることが知らない、君がもういないと思っているのが一番の原因だ。それが取り除かれた瞬間、どう転ぶかによって動きが変わる。だが、必ず戦闘を起こせ。これは必要なことだ」
「戦うことが?」
「アッシュの提案だ。せっかくだから彼に説明してもらおうか」
アッシュはこちらを向く。真面目な話のときにする鋭い視線が刺さる。
「今。アルクはみんなから見たらどういう立ちあるか、わかるか?」
「強いとか危険?」
「そうだ、めっちゃ強いしヤバイ。強すぎると近寄りづらい。頂点の方々と……他の人が話しているような感じだ」
「ああ、わかるよ」
「なら、無理やり上へ担がれているアルクをして俺たちと同じところに持ってくんだ、わかったか?」
「それって、あとですごい喧嘩になりそうだけど」
「そこはお前が受け止めろ。その時も、後もだ。俺の言いたいこと……分かっているよな」
茶化す気が一切ない空気、ここにいる全員が見ているような気がして緊張が走る。
「分かってるよ」
アッシュの青く光る瞳が怖く感じた。自分をはっきりとは言えなかった。はっきりとどうするかを。
怖く感じたのは、そういうところも見透かされている気がしたから。
「以上です、青の頂点様」
「明日の朝、彼女は『黒の城』の住民が運転する輸送車でここにくる。訪問方法は彼女が一人でまんじゅうを持ってくる。周囲には数名の黒の住民がいるがそっちは私たちの仕事だ。彼女が持ってくるそれを受け取るのはクロウ、君だ」
「わかりました」
「アッシュ、君も明日で最後だ。油断は絶対にするな」
青の頂点の言葉に頷き、周りを見るとネルが倒れたバロンを眺めていた。
全然動いてない気がする
「バロン、ずっと倒れている気が」
「ん? ふむ」
青の頂点が気づくとネルが顔をそらした。近づいて彼の様子を見に行くと拳の跡から白い光の玉出てきた。
「ご、ごめん。言いづらくってさ」
「おい、赤の妹」
「赤も分かってるよ、君が説明している合間に話してたからね」
「バロンは足止め行きだ。アッシュ、クロウ。君たちだけが頼りだ。白と赤の妹は残りなさい。反省会だ」




