黒の城へ
今は朝6時、ローズと一緒にお土産屋を見に行くことになった。
「ふーん、これがアルクちゃんなんだ」
「はい、そうです」
振り向くと表情は不機嫌。素直に怒ってくれるほうがいいと思うくらいに。
「それじゃあ、次は招待状を見せてもらうね」
「どうぞ」
「俺も見るっす!」
「今日は君が弄られる番ですね」
昨日の仕返しのつもりか、嬉しそうに聞いてくる。
「ネルさんは眠くなさそうですね」
「眠りませんから」
後だしされた情報にコハクとローズは寝不足で不満げ、、代償に招待状の鑑賞会が行われた。ずっと隣でこれはなに、これはだれと定期的に質問が来て答える。自業自得だが、辛い。
長いよ2時間。招待状は1時間も経つとさすがに見る部分もなくなり、ネルさん以外は半分寝ている状態で休んでいた。
「来たみたいですよ」
ネルの声で目が覚め、彼女の指さす方向に輸送車。ただ、黒く染め上げられ、装飾も明らかに他と仕様が違う。
「すごいですね、あれ早いやつですよ」
「へえ、なんか視線も集まってるね」
言われると確かに視線が「アルク様? 今日だっけ?」「いや、乗ってないな」はっきり聞こえた不穏な言葉。
普段からあれに乗ってここへきているのか。
到着すると黒い装束を着た男性が降りてきた。
「クロウ様ですね、招待状を」
ネルから受け取り渡した。
「それでは後ろへどうぞ、こちらは汚れてはいけませんのでお預かりします」
彼の言葉を合図に輸送車の扉が開き、乗り込んだ。
中の装飾も黒い。壁沿いにソファーのような座席が並んでいた。座ると身体が深く沈みふかふかの感触が心地いい。
ネルは「良い革ですね」と表面をさすり、コハクは何度も跳ねて感触を楽しみ、ローズは横に倒れてうずもれていた。
「それでは出発します」
音は静かだった、たまに何かを乗り上げたのか揺れは感じるがこのふかふかなのが良いのか、不快感がない。四つほど顔ほどの小さな窓で外が見えるが速い。通り過ぎる景色の木が目で追わないと見えないくらいの速度。これなら確かにすぐにつきそう。
周りを見るとローズはそのまま眠り、他の二人は同じに外を眺めていた。
ネルはずっと小さく独り言、多分お金のことだろうなあと想像がつく。コハクを見ると目が合った。
「速いっすね」
「こんなに速かったらいつでも合えそうだな」
「確かに、落ち着いたら『ゴールディ』に来るっす、歓迎するっすよ。みんなも絶対そう思ってるっす」
「だな」
しばらく見てたがさすがに飽きてきて再びあれに身体を預けてみると非常に心地いい。ローズが眠るのも頷ける。コハクを見るとすでに寝ており、ネルはこっちを見ていた。
「起こしてあげるから気にせず眠りなさい」
頷く、揺れがさらに心地よさをましていく。
〇 〇 〇
夢の中アルクがどんな子だったかずっと思いだしていた。
笑っていると楽しいけど、怒ると手が付けられない。わがままだって言うし、付き合わないと拗ねて大変。強くて明るくて無邪気。
あとは、どうするんだろう。彼女を助けられたとして、どうしたいのだろう。また前のような生活に。みんなも交じって……ローズとネルが見えて胸に何かが刺さった。
距離感、決断しないといけないのか。
目が覚めた。まだ二人は目が覚めてないみたいだ。
「うなされていましたね」
「ネルさんの言葉を思い出してました」
「さて、どの言葉でしょう」
「距離感ですよ」
その言葉に微笑みを浮かべた。
「もう決断する時なのに、悩んでいましたか」
「近づくと、わかってきましたよ」
「あら、それはどういうことを」
「自分にとっては数日、彼女にとって数十日。同じ気持ちなのかって」
「それは友達として、それ以上のこと?」
「分からないんです、もしかしたら友達ですらなくなってと思うくらい」
「うふふっ」
急に笑い出したネル。
少しむっと来てしまった。
「結構真面目に相談したつもりですけど」
「いえ、すみません。可愛らしくて」
「どういう意味ですか」
「君はただ不安なだけですよ。それは大事なことなこと、相手のことを大切と思っている証拠ですから。一方アルクちゃんは来ていることを黒の頂点を使ってまで確認している。君たちは良い距離間になっているのです。割り切ろうとしているローズちゃんには悪いですけどね」
「頑張ってみます、ありがとうございました」
「不安なら抱きついてもいいのですよ」
大げさに腕を広げて待ち構える。
「やりませんよ、アルクに怒られそうですから」
「ふふっ、そうですね、彼女の意識しないと」
そういいながら腕を下すと笑顔でこちらを見てくる。
「でも残念、抱きついてきたら二人を起こして弄ってもらおうと思ったのですが」
「うわっ、怖いな。もしかしてまだ夜のことを怒ってるんですか」
「さあ、どうでしょうね。私とあなたもお友達、ですから」
強調されるお友達という言葉、警告のようにも聞こえた。
「あとどのくらいで着きますか」
「皆さんが眠ってから結構経ちましたからね、もうすぐだと思いますが」
ネルが探すように首を回していると「そうですね、あと5分ほどで到着いたします」と男性の声、運転手だ。向こうにもこっちの声はしっかり聞こえると思っていなかったからちょっとびっくりした。
「運転手さん、ありがとうございます。会話が筒抜けでしたか」
「そんなこと言って、初めから知っていたんじゃないですか」
「いえいえ、こんないい車に乗ったのは初めてですから。変なこと聞かれてないといいですけど。盗み聞きしてる悪い子は二人いますんが」
ネルの言葉に二人はピクリと反応して起き始めた。コハクは申し訳なさそうに頭を掻きながら、ローズは上体を起こして両腕を広げてストレッチをしている。
「いやあ、起きたら真剣な話でいつ起きようか困ったっす」
「頑張って割り切ろうとしているローズですよー」
不満げにネルに皮肉をぶつけるも「そういうところが相変わらずでかわいいですね」頭をなでて軽くあしらわれた。
「ネルさんがいきなり抱きついてなんていうから焦ったっすよ」
「ほんとよねー」
ローズの言葉にネルの手が止まり、コハクも余計なことを言ったと思い、ネルから顔をそらした。
「あはは、冗談ですよ。抱きつくの見たら弄られるかなって、聞いていたのならそこも聞いているでしょう? ねえ、クロウくん!」
「へっ?! ああ、はい」
「うわっ、焦ってるよ二人とも。いやらしいなあ」
「ごめんっす、俺が余計なことをいうからこんなことに」
空気が不穏になる中。輸送車は静かになった。
「到着いたしました、忘れ物などないよう注意してください」
彼の言葉と同時に扉が開いていく。
「さあ、着きましたよ」
「はーい」
男2人は静かにさっさと外へ。周囲は高台のようになっていて、平原を見下ろすように景色が広がる。そして、建物、村のような素朴な雰囲気にそぐわない真っ黒な城。
あれが『黒の城』。
旅の終わりを感じ、思わず息をのんだ。




