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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第1章 揺れる影と初めての光
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第8話 光の中の帰り道

 素材回収やら何やらで、結局夜が明けてしまった。

 むごい現場にも関わらず、リオは黙々と素材を集め、気づけば流れた血や血臭の処理までしてくれていた。


 村に戻り、魔獣を全て討伐したと伝えると、依頼主の男性は感涙にむせび、何度も頭を下げた。


「おいしいカボチャ、作ってくださいね」


 アイリスが笑顔で言うと、男性は鼻をこすりながら、ぐっと頷いた。


 *


 帰りは馬車の手配ができず、徒歩だった。

 街道に朝の光が射し、露を纏った草が淡くきらめいていた。


 アイリスはブーツのつま先で軽く地面を叩く。


「街まで走りますけど。あなたは、どのくらい速いんですか?」


 振り返って尋ねると、リオが朗らかな笑みを浮かべた。


「たぶん、すごく速い」

「へえ……」


 アイリスは目を細める。


「じゃあ、勝負しましょう。先にグランゼリアの門をくぐった方が、朝食をごちそうしてもらえる」


 リオの笑みが、少し困ったようなものに変わる。

 ずいぶんな余裕だ。


「魔法の使用は?」

「無しに決まってます」


 昨夜分かった。

 リオは風魔法を使える。

 だからこそ、純粋な実力勝負がいい。


「君の合図で、はじめよう」


 リオがのんきに立ったまま言った。

 アイリスは口角をあげた。


「いいですよ。では──勝負です!」


 地面を蹴った瞬間、風がはじけた。

 自慢の脚力で一気に加速する。

 今日は少し贅沢して、いいお店にでも──そう思った矢先。


「じゃあ、お先」


 横をすり抜ける声。


「え」


 気付けば、視界をかすめた影が、あっという間に遠ざかる。

 呆然としたのも束の間、すぐに気合を入れ直した。


 ──負けてたまるものか。


 *


 グランゼリアの門の下で、アイリスは膝に手をつき、肩で息をしていた。

 全速力で駆けたせいで、心臓が早鐘のように打つ。


「俺の勝ち」


 涼しい顔で腕を組むリオを、キッと睨む。

 悔しい。速すぎる。

 だが、約束通り魔法は使っていない。


「私の、負けです。食べたいものはありますか?」


 息を整えながら尋ねると、リオが嬉しそうに笑った。


「屋台。おすすめとか、あるか?」


 アイリスは言葉を失う。


「……そんなのでいいんですか?」

「楽しいだろ?屋台」


 そんなに楽しそうに笑われると、まあいいかと思ってしまう。


「私のおすすめは魔法香辛料(マジカルスパイス)串です」

「まじかる……?」


 不思議そうな顔をするリオに、ふふっと笑う。

 食べてみればわかる。

 早速グランゼリアの西、市場区(マーケット)に向かった。


 *


 アイリスは、目的の屋台に駆け寄った。


「らっしゃい!お、アイリスちゃん。今日もいつもの?」


 屋台の男性が、元気に声をかけてくる。


「はい。今日は、二つお願いします」

「まいど!」


 焼き上がった肉や野菜の串に、香辛料の粉が振りかけられる。

 立ちのぼる湯気に鼻をくすぐる香り。

 紙袋を二つ受け取り、アイリスは代金を払ってリオのもとへ戻る。


「どうぞ」


 ほかほかの紙袋を渡すと、リオは慎重に中を覗いた。


「……嗅いだことのない香りだ」


 アイリスは小さく胸を張る。


「最近できた屋台なんです。香辛料の調合が絶妙なんですよ」


 リオが一本手に取り、齧る。

 その目が、わずかに見開かれた。


「これは……確かに絶妙だな」


 立ったまま、次から次へと口に運んでいく。

 その姿に、アイリスは思わず笑みを漏らした。


 自分の袋から一本取り出し、一口食べる。

 ──いつもより、おいしく感じた。

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