第8話 光の中の帰り道
素材回収やら何やらで、結局夜が明けてしまった。
むごい現場にも関わらず、リオは黙々と素材を集め、気づけば流れた血や血臭の処理までしてくれていた。
村に戻り、魔獣を全て討伐したと伝えると、依頼主の男性は感涙にむせび、何度も頭を下げた。
「おいしいカボチャ、作ってくださいね」
アイリスが笑顔で言うと、男性は鼻をこすりながら、ぐっと頷いた。
*
帰りは馬車の手配ができず、徒歩だった。
街道に朝の光が射し、露を纏った草が淡くきらめいていた。
アイリスはブーツのつま先で軽く地面を叩く。
「街まで走りますけど。あなたは、どのくらい速いんですか?」
振り返って尋ねると、リオが朗らかな笑みを浮かべた。
「たぶん、すごく速い」
「へえ……」
アイリスは目を細める。
「じゃあ、勝負しましょう。先にグランゼリアの門をくぐった方が、朝食をごちそうしてもらえる」
リオの笑みが、少し困ったようなものに変わる。
ずいぶんな余裕だ。
「魔法の使用は?」
「無しに決まってます」
昨夜分かった。
リオは風魔法を使える。
だからこそ、純粋な実力勝負がいい。
「君の合図で、はじめよう」
リオがのんきに立ったまま言った。
アイリスは口角をあげた。
「いいですよ。では──勝負です!」
地面を蹴った瞬間、風がはじけた。
自慢の脚力で一気に加速する。
今日は少し贅沢して、いいお店にでも──そう思った矢先。
「じゃあ、お先」
横をすり抜ける声。
「え」
気付けば、視界をかすめた影が、あっという間に遠ざかる。
呆然としたのも束の間、すぐに気合を入れ直した。
──負けてたまるものか。
*
グランゼリアの門の下で、アイリスは膝に手をつき、肩で息をしていた。
全速力で駆けたせいで、心臓が早鐘のように打つ。
「俺の勝ち」
涼しい顔で腕を組むリオを、キッと睨む。
悔しい。速すぎる。
だが、約束通り魔法は使っていない。
「私の、負けです。食べたいものはありますか?」
息を整えながら尋ねると、リオが嬉しそうに笑った。
「屋台。おすすめとか、あるか?」
アイリスは言葉を失う。
「……そんなのでいいんですか?」
「楽しいだろ?屋台」
そんなに楽しそうに笑われると、まあいいかと思ってしまう。
「私のおすすめは魔法香辛料串です」
「まじかる……?」
不思議そうな顔をするリオに、ふふっと笑う。
食べてみればわかる。
早速グランゼリアの西、市場区に向かった。
*
アイリスは、目的の屋台に駆け寄った。
「らっしゃい!お、アイリスちゃん。今日もいつもの?」
屋台の男性が、元気に声をかけてくる。
「はい。今日は、二つお願いします」
「まいど!」
焼き上がった肉や野菜の串に、香辛料の粉が振りかけられる。
立ちのぼる湯気に鼻をくすぐる香り。
紙袋を二つ受け取り、アイリスは代金を払ってリオのもとへ戻る。
「どうぞ」
ほかほかの紙袋を渡すと、リオは慎重に中を覗いた。
「……嗅いだことのない香りだ」
アイリスは小さく胸を張る。
「最近できた屋台なんです。香辛料の調合が絶妙なんですよ」
リオが一本手に取り、齧る。
その目が、わずかに見開かれた。
「これは……確かに絶妙だな」
立ったまま、次から次へと口に運んでいく。
その姿に、アイリスは思わず笑みを漏らした。
自分の袋から一本取り出し、一口食べる。
──いつもより、おいしく感じた。




