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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第1章 揺れる影と初めての光
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第7話 氷上の閃光

 洞窟がよく見える位置に戻ったアイリスたちは、魔獣が寝静まっていることを確認した。


「私が魔法で捕縛して、片付けます。安全な場所で待機していてもらえますか」


 アイリスがそう告げると、リオはわずかに眉を寄せた。


「いつもそんな感じなのか?」


 問われた意味がわからず、アイリスも眉を寄せる。


「聖導士は戦えない者が多いけど、自分の身くらいは守れる。君のやり方だと、君ひとりに全てを押し付けることになる」

「え……」


 ガン、と頭を殴られたような衝撃が走った。


 みんな、そうだった。

 あなたひとりでどうにかなるから、自分たちは邪魔にならないように後ろにいる──みんな、そう言うのだ。


「今日は試しに、背中は俺に任せてくれるか?」


 そう提案され、ぎこちなく頷く。


「では……詠唱するので少し待っていてください」

「ん」


 アイリスは洞窟に両手を向けた。

 範囲が広いため、詠唱はいつもより長くなる。


「──フロスト・フィールド」


 瞬間、魔力が地を走り、白銀の世界が広がった。

 霜が地面を覆い、凍てついた風が足もとを這う。


 異常に気づいた魔獣が目を覚ますが、脚は氷に囚われ、動けない。


「……氷?」


 リオが、かすれた声で呟く。


 アイリスは駆け出していた。

 ブーツの裏に仕込まれたスパイクが氷面を噛み、滑るように走る。


 残光のようにきらめく軌跡の中、細剣が閃く。


 一突き。

 すれ違った魔獣が崩れる。


 二突き。

 隣の一体も声を上げる間もなく沈んだ。


 氷上には黒い影だけが次々と残されていく。


 最後の一体を抜けざま、アイリスは氷面を蹴って身を翻した。

 刃先についた霜が散り、白い花弁のように舞う。


 静寂。

 凍りついた大地の上、風だけが再び流れ始めた。


「あとは、特殊個体だけですね。洞窟の奥に向かいましょう」


 細剣を鞘へ納め、顔を上げると、リオが目を見開き立ち尽くしていた。

 思わず眉間にしわが寄る。


「背中を任せろって、言いませんでしたか?」

「……言った」


 だったらなぜ、呆然と立っているのか。

 息をついたアイリスは、パキリと氷の割れる音に反応し、はっと振り返った。


 氷を砕きながら、何かが一直線に迫ってくる。


 遠くから一気に跳躍し、眼前まで距離を詰められていた。

 特殊個体だ。気づくのが遅れた。


 剣を抜く。

 突き出された爪を首を捻って避ける。頬が浅く裂けた。

 気にせず突きを放とうとする。


 ──その時。

 アイリスの目の前に緑色の光が浮かんだ。

 息をのんで、咄嗟に動きを止める。


 それは魔法陣だった。円の中に緻密な模様が走る。


 次の瞬間、魔法陣から風が奔った。


 魔獣の巨体が宙へ弾かれる。

 そのまま崖へ叩きつけられた。


 岩が激しく割れ、魔獣はずるりと地面に落ちた。

 骨まで砕けたのだろう。魔獣はぴくりとも動かなかった。


 呆気に取られたアイリスが振り返ると、リオは片手を突き出したまま小さく口を開いた。


「……ごめん、やりすぎた」


 堪忍袋の緒が切れる。


「素材!あれじゃあ、使い物にならないですよね!」


 眉尻を下げるリオに、アイリスは深く息を吐いた。

 せっかく他の魔獣は全て首を跳ねたのに、一番貴重な特殊個体が無残なことになっている。


 だがまあ、きっと助けようとしてくれたのだろう。

 ……余計なお世話だったが。


 怒ったまま素材の回収に移ろうとしたアイリスの手首を、リオが掴む。


「放してください……!」


 振り払おうとするが、そっと頬に手が添えられた。


 リオがわずかに眉を寄せ、アイリスを見つめる。

 一瞬、顔の近くが白く光り、頬が温かくなる。

 温もりが消えた時には、痛みも消えていた。


 すぐにリオは手を離し、慎重に氷の上を歩きながら近くの魔獣の死骸に近づく。


「素材を回収しようか」

「……はい。収納袋に、詰めてください」


 アイリスはゆっくりと自分の頬に触れる。

 傷はもう、どこにも残っていなかった。

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