第4話 二物男
アイリスはじわじわと、目の前にいるのがとんでもない人物なのだと気づき始めた。
胸の前で両手を重ね、足が一歩下がる。
顔から血の気が引き、無感情に首を横に振った。
「……無理」
「何を我が儘言ってるんですか!じゃあ、あとはお願いしますね、リオさん!」
サラの手が離れる。
追い縋ろうとするが、あっという間に受付に戻ってしまった。
見捨てられた。
手を伸ばしたまま動けないでいるアイリスに、足音が近づく。
「仲がいいんだな」
とても穏やかな声だった。
アイリスは肩を跳ねさせ、距離を取る。
「わ、私はアイリスです。ランクはAで……」
「ああ、聞いてる。俺はリオ。ランクはSだ」
リオと名乗る青年は、それ以上は近付いて来なかった。
少し離れた距離を保ったまま、口元に微笑を浮かべている。
「なんで、Sランクの人が……」
警戒しか湧かなかった。
探るようにリオを見ると、リオは静かに首を傾げた。
「なんでだろう?」
「え?」
二人して、首を傾げる。
「有能な狩人の支援と聞いた。けれど、君に支援が必要とは思えない」
アイリスは、顔から表情が抜け落ちていくのを感じた。
「それは……」
一体、どういう意味で。
これまでに言われた数々の言葉が一気に頭を巡る。
リオがすぐに口を開いた。
「気を悪くしたならごめん。ただ、俺から見ても、君はAランクとして十分相応しい実力を持っているから」
その言葉に、頬が熱くなった。
初めてだった。サラ以外から、そんなふうに言われたのは。
アイリスは真っすぐリオを見つめた。
そして、重い口を開く。
「あの……私は、聖導士のパートナーがいないんです」
「うん」
「Sランクに上がるには、パーティーを組んで実績を積まないといけないので……」
どこかのパーティーに入れてもらおうとしたこともあった。
だがすぐに人間関係で問題が起こり、挫折した。
それで、パートナー探しをしていたが。結果は変わらなかった。
「つまり、聖導士代わり、と」
リオがゆっくりとそう言った。
アイリスは、怪訝な目を向けた。
この人は何を言っているのか。
リオが視線に気づいて、口角をわずかに上げた。
「俺は、光魔法も使えるんだ」
その言葉に、アイリスは目を見開いた。
開いた口が塞がらない。
Sランクの狩人が光魔法を使える──衝撃は大きすぎた。
思わず心の中で、この二物男!と叫んだ。
天は時として、二物を与えるらしい。
「狩人は聖導士とセットでようやく一人前。ひとりで完結できるなんて……」
愕然と呟くアイリスに、リオは少し寂しそうな笑みを浮かべた。
だが、すぐに穏やかな表情に戻る。
「とにかく、適当な依頼を受けよう。互いの実力を把握した方がいい」
踵を返すリオの背を、少し離れて追いかける。
掲示板の前で立ち止まるリオの隣に並ぶと、視線が向けられた。
「いつも、どんな依頼を?」
「魔獣の討伐依頼です。ちょうど……あの辺りの」
アイリスは一枚の紙を指差す。
兎型の魔獣が畑を荒らすので助けてほしい。
そんな内容の依頼だった。
「ん……それじゃあ、依頼を受けてきてくれるかな?」
「私が、ですか?」
依頼書を手に取りながら、ギョッとして振り返る。
「もちろん。君がリーダーで、俺は補助役だ」
Sランクなのに、何を言ってるんだこの人は。
嫌だ、Sランクのメンバーのリーダーなんて務めたくない。
ゆっくりと首を横に振るが、リオは口元に微笑を浮かべたまま動かない。
「嫌です」
言ってやった。
だが、リオは笑みを深める。
「俺も誰かと組むことはほとんどないんだ。だから、君が務めてくれると助かる」
絶対嘘だ。
半分泣きそうになりながら、アイリスは受付に向かう。
サラが気の毒そうな目を向けてきたが、すぐにぎゅっと拳を握って応援してくれた。
アイリスは小さく頷くしかなかった。




