第3話 黒影の出会い
それから数日が経った。
新しいパートナー候補を紹介したい──そんな連絡を受けて狩人本部へ向かう。
足は重かった。
今度こそ。きっと今度こそ──そう自分を元気づけてきた。
でも、そろそろ限界だった。
もうこのまま、ずっと独りでもいいかもしれない。
瘴気に関わらない依頼なら、誰かと一緒である必要はないのだから。
けれど、そうなると夢を諦めなくてはいけない。
アイリスは、両拳にぎゅっと力を込める。
狩人のSランクになる──それが、アイリスの目標だった。
もう誰も、目の前で失いたくない。
そのためには、自分一人ではまだ力不足だと痛感していた。
もっと強くならなければいけない。
Sランクは全部で五人しか存在しない。どんな依頼でも受けられ、全てを救える希望の象徴。
それこそがアイリスの夢だった。
*
狩人本部の扉を押し開けた。
いつもより重く感じた。
すぐに、誰かと会話していたサラが駆けてきた。
アイリスは緩慢に顔を上げる。
「アイリスさん、待ってましたよ!……酷い顔ですね」
笑顔だったサラの顔が曇る。
ここ最近は、あまり深く眠れていない。
アイリスは曖昧に笑った。
「実は、アイリスさんのパートナーについて、本気で上司に掛け合ってみたんです」
「え……?」
予想外の言葉に、サラを見つめた。
サラは、アイリスの手を握って引いた。
「そうしたら、まさかの最後の砦が来てしまいまして……」
「え?」
頭に疑問符が浮かぶ。
それでも、言っておきたいことがあった。
「私……年齢の近い人は、もう……」
「大丈夫ですよ!リオさんなら」
サラが笑顔で言い切った。
何なんだろう、その謎の信頼は。
でもきっと、サラがここまで言うのだ。
だいぶ年上の落ち着いた人なのだろう──そう思った。
サラが導いたのは、先ほどまでサラ自身が話していた人の元だった。
背にかけて、襟足の中央の一束だけが長く伸びている。
柔らかなそれは小さく束ねられ、腰を越えてなお、ゆるやかに揺れていた。
その人が、ゆっくりと振り返る。
肩に届かない長さの髪が、動きに合わせて揺れた。
淡い金髪に柔らかな翠の瞳、まるで太陽のような人だった。
思わずポカンとしてしまう。
思っていたよりずっと若い。歳も、それほど離れていなさそうだ。
体型は無駄のない筋肉が付いた細身。
正直、この人は職業を間違えているのでは……と思わずにはいられなかった。
アイリスの視線は、深い黒を基調とした戦闘服に向いた。
膝下まで届く上着が軽く揺れ、動くたびに影が流れる。
肩から胸にかけては黒革で補強され、左腕だけが長袖という非対称の造り。
戦闘中の動きを計算した無駄のない形だった。
腰には黒革の帯と鞘があり、揺れる二本の飾り紐がわずかに光を反射する。
下は細身の黒いズボンに膝下までのブーツ。
全体が闇に溶けるような静かな黒で統一され、彼の冷静さと研ぎ澄まされた気配を際立たせていた。
実力はありそうだ。
だが、どうしても躊躇いが生まれる。
アイリスは足を踏ん張り、逆にサラを引っ張った。
「サラ!嫌だよ、私はもう……」
「え?リオさんですよ?ほら、あのリオさん」
どのリオさんだ。
アイリスは焦る。
「誰、この人」
サラがカッと目を見開く。
「知らないんですか!?狩人の長の息子にして守り人の相談役、Sランクのリオさんですよ!?別名初こ……ケフン。この情報は余計でしたね」
「はあ……」
なんという情報量。
狩人の長の息子──。
「ちょっと待って!アレンさんの息子ってこと!?」
「そうですよ、なんで知らないんですか!」
知るわけがない。
そもそもSランクの人に会う機会など、ほぼないのだから。
「五人しかいないんだから、覚えておいた方がいいって言いましたよね!」
「う……」
アイリスは言葉に詰まる。
だがすぐに次の疑問が湧く。
「守り人って?」
「三年前に三権の中立者として立った方です!」
三権──狩人、聖導教会、魔法局のことだ。
確かに三年前、中立の観察者が発表されていた……気がする。




