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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第1章 揺れる影と初めての光
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第2話 月灯りの杯

 石造りで重厚な城塞都市、グランゼリア。

 都市そのものがひとつの国のような存在で、商業・学術・信仰のすべてが集まる。


 上空から見ると、四つの扇を抱いた大円のような街並みが広がっている。

 アイリスは西の市場区(マーケット)の一角にある“月灯りの樽”という店に来ていた。


 端の席でぼうっとしながらグラスを握っていると、店に入ってきたサラがすぐに気づいて駆け寄ってくる。


「アイリス……大丈夫?」


 首を傾げるサラの髪が流れる。


「……うん、お疲れさま」


 笑顔を浮かべたが、うまく笑えている自信はなかった。


 サラが手早く食事を注文してくれる。

 グラスを合わせて乾杯するが、アイリスはすぐにそのグラスをテーブルに置く。


「せめて……手際が悪いとか、実力が無いとか。そういう理由だったら頑張れるのに……」


 ずっと頭の中に浮かんでいた言葉が、ぽろりとこぼれる。

 改善する余地のない理由を挙げられれば、どうすればいいかわからない。


「アイリスはAランク。その実力に文句を言われる筋合いはないよ」


 サラが真剣な顔でそう言ってくれた。

 それだけでも、少し心が救われる。


「私の方こそ、ごめん。狩人のことはともかく、聖導教会の人となると、どうしても情報が少なくて」


 アイリスは首を横に振る。


「ううん。本当に、いつも……ありがとう」


 視界が滲んで、アイリスは俯く。

 サラのせいじゃない。全部、自分のせいなのだ。


 向かいに座るサラが、アイリスの頬を両手で包む。

 そのまま顔を持ち上げられた。

 真っすぐな瞳と目が合う。


「全部、向こうが悪いんだよ」


 穏やかな声は、そこまで。

 次の瞬間──声を張り上げた。


「付き合わなきゃパートナーにならないとか言うカス、アイリスを飾り扱いする見栄クズ、あげく色ボケで話ひっくり返す女!──ほんっとうに、ろくな奴がいない!」


 サラがテーブルを掌で強く叩く。


 ……そんな人もいたな。と遠い目をしてしまう。


「どうして、誰もアイリスのことをわかってくれないの……!」


 ぐっと唇を噛むサラの目元に涙が滲む。

 アイリスは、ふっと表情を緩めた。


「……私、もうサラがいてくれたら、それでいいや」

「何言ってるの!きっといい人がいるよ!ほら、例えば……」


 誰のことを思い浮かべたのか、サラの表情がすんと真顔になる。

 思わず、アイリスは尋ねる。


「どうしたの?」


 サラの口元が一瞬ひきつった。


「意外といいコンビ……?でも、アイリスまで被害に遭ったら……」


 その言葉に、背筋がぞくりとする。

 アイリスはぶるりと震える。


「ちょっと。変な人、紹介しないでよ」


 被害……って何?

 胡乱げな目を向けるが、サラは明るく笑う。


「大丈夫、無い無い。さ、今日は嫌なこと忘れて飲むよ!」


 その笑顔に、アイリスも頬を緩める。

 二人はグラスをぶつけ合い、静かな夜に小さな笑いを響かせた。

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