第1話 戦う顔
私の世界は、私ひとりで完結している。
時折、そう感じることがある。
アイリスは、Aランクの狩人だ。
ひとりで大抵の依頼はこなせる。
けれど、ひとりではできないことがあった。
それが浄化だ。
瘴気──それは人の悪意が形を持ったもの。
光魔法の浄化でしか消し去ることができない。
だから、狩人はパーティーを組むか、光魔法が使える聖導士とパートナーを組む。
「さすが、アイリスさん!あたしも安心して後衛に立てます」
もう何人目になるのかわからない、聖導士のパートナー候補。
この日の相手は、笑顔が元気な少女だった。
アイリスはほっと息をついた。
「私の方こそ、支援ありがとう」
頬を緩めて返すと、笑顔が返ってくる。
少し躊躇って。
ぎゅっと剣の柄を握りしめると、意を決して顔を上げた。
「あの……よかったら、明日も……」
少女が目を見開く。
そして笑みを浮かべた。
「もちろんです!」
その返事に、アイリスは顔をほころばせる。
今度こそ。
今度こそ、パートナーが見つかったかもしれない。
*
翌日。
アイリスは、契約している自室で鏡の前に立ち、指先で髪を整える。
白を基調に青の刺繍が繊細に施された戦闘服は、清潔感と機能性を兼ね備えている。
ふんわり広がる袖が動きに合わせて揺れ、太ももあたりまで伸びた上着の裾も軽やかに舞う。
短く仕立てたフレアスカートの下には短パンが隠れ、ブーツに覆われた足元まで含め、戦闘中の自由な動きを妨げない設計だ。
腰の上まである柔らかいミルクティー色の髪が光を受け、穏やかに揺れた。
手入れだけは行き届いている。
けれど、それを“美しい”と思うほどの自惚れはない。
髪を耳にかけ、ハニーブラウンの瞳が自分を見返す。
どこか寂しげな色をしている、と気づくのはいつもこうして一人の時だった。
一度目を閉じ、少しして瞼を持ち上げる。
今日も、自分で選んだ“戦う顔”をしていればいい。
*
狩人本部に向かうと、受付嬢のひとりと目があった。
彼女はサラという。
明るめの銅色の髪はボブに整えられ、ライトアンバーの瞳がアイリスをとらえる。
真っすぐサラの元に向かう。
サラが仕事用の笑顔を浮かべる。
「おはようございます」
「おはよう」
サラに挨拶を返して、アイリスは明るい表情のまま口を開く。
「私、昨日の人となら……」
きっと、うまくやっていける。
そう続けようとした。
だが、サラの表情が曇る。
「……また、聖導士の方から、パートナーの話を白紙に戻したいと連絡が来ました」
「え……」
アイリスは呆然とした。
受付のテーブルに両手をつく。
「どうして?理由は……!私、彼女をうまく守れなかった?何か迷惑を……」
サラはどこか言いづらそうに、こちらを見つめて口を開いた。
「表向きの理由は、性格の不一致ということです。ただ……どうやら彼女の懇意にしている狩人が、アイリスさんをパーティーに誘いたがっていると……」
アイリスは眉を寄せる。
「……つまり?」
「嫉妬ですね」
なんだ、それは。
頭を殴られたような衝撃が走った。
そんなもののために──彼女は、笑顔で、嘘をついたのか。
動けないアイリスに、サラが周囲をさっと見回してから耳打ちしてくる。
「今晩、いつものところで」
その声は、受付嬢としてのものではない柔らかさを含んでいた。
だが、アイリスは軋むように頷くことしかできなかった。




