第6話 沈黙の制圧
男に言われたとおり、一階まで下りた。
だが、そこからは反対の方向──先ほど見つけた、警備の厳しい建物へ向かう。
左肩を壁につけるようにしゃがみ、建物の影からそっと様子を伺う。
時々人がやってくるが、黒マントの中の顔をしっかり確認しているようだ。
「……怪しい」
「まったくだ」
アイリスの後ろから倉庫を見ていたリオも、同意する。
「地上の警戒が厳しすぎる。上から行くしかないか……」
「窓があるね」
アイリスは視線を流し、窓をひとつずつ確認する。
見つけた。
「奥から三番目の窓が開いてる」
「閉め忘れかな?」
リオが小さく笑い、そのまま隣にしゃがむ。
肩が触れた。
「気配を消して、上からあの窓を目指す。いけるか?」
「うん」
アイリスは前を向いたまま頷く。
今は右側を見ない方がいい気がした。
*
建物の出っ張りを伝い、無事に窓の近くまで辿り着く。
リオが先に飛び込んだ。
頭が完全に壁の向こうに消え、やがて窓から手だけが覗く。
軽く立てられた親指を見て頬を緩め、アイリスも位置を少しずらして飛び込む。
音もなく床に着地する。
近くの物陰に身を潜め、倉庫を見回した。
複数の木箱が、一か所にまとめられていた。
粗い合板に黄色い警告塗装、赤いペイントで“!”マーク。
蓋の一部は錆びた金具で補強され、剥がれかけたラベルの上には文字が書かれている。
風が箱の継ぎ目からツンとした匂いを運ぶ。
「間違いなさそうだ」
リオが囁いた。
「倉庫内も警備が厳重だね。先に昏倒させる?」
アイリスが問うと、リオは頷く。
「全部で六人だ。左の二人を頼めるか?」
多めに担当しようとしてくれている。
索敵していたアイリスは、口元に笑みを浮かべた。
「左の三人を任せて」
中央寄りの者も含めて、左側は全員、一人で対応可能だ。
リオがふっと目を細め、頷く。
「行くぞ」
リオの合図で、静かに動き出す。
近くの者から順番に背後へ回り込み、手の側面を首筋に打ち込む。
次の瞬間、相手の膝から力が抜けた。
倒れ込む体を受け止め、音を立てないよう床へ寝かせる。
同じように次の者の意識を奪う。
二人がかりで、あっという間に制圧が完了した。
「ふう。さっさと片付けてしまおう。収納袋に入れてしまえば、爆発の危険もない」
リオが懐から、収納袋を取り出す。
その横で、アイリスは爆発物が詰まった箱に手をかけた。
腕を回しても端まで届かず、胸に押しつけるように抱え込む。
大きく息を吸い、脚に力を込める。
箱が床からわずかに浮く。
だが、それ以上は上がらない。
顔が引きつった。
──重い。
リオが苦笑し、視線を箱の山へ向ける。
「これは、時間がかかりそうだ」
そして、倒れている見張りに目を向ける。
「先に彼らを動けないようにしておこう。アイリは袋の口を広げてくれるか?」
「……そうする」
六人をまとめて縄で括り、口には布を噛ませる。
アイリスは収納袋の口を広げ、リオの近くに待機する。
「私、筋力ないな……」
リオが持ち上げた木箱が、スルリと収納袋に吸い込まれていく。
悲しかった。結構鍛えているつもりだったのに。
「仕方がない。アイリより重いからな」
リオが息をつきながら言った。
聞き捨てならない一言だった。
「……もしかして、持っただけで重さがわかるの?」
「ああ」
アイリスは視線を落とした。
……なるほど。つまり体重はすでに知られている、と。
わずかに頬が赤くなる。
「……女の敵」
「なんで?」
アイリスは小さく鼻を鳴らす。
それがわからない男だから、女の敵なのだ。




