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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第6章 相棒という距離
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第7話 それでも、なお

 せっせと爆発物を回収し、半分ほど片付け終わった時だった。


「あなたたち、何してるの!?」


 突然、耳に女性の声が届き、思わず身体が跳ね上がった。


 振り返ると、倉庫の入り口付近に女性が立っていた。

 黒マントじゃない。あまりに普通の服装。


 ──一般人!?


 アイリスは咄嗟に手元を動かしてしまう。


 収納袋に吸い込まれかけた箱が落ち、中身が床に散った。


 リオが素早く床を蹴った。

 だが、それよりも早く女性が壁のボタンを押す。


 アイリスの影が伸びた。


 木箱が爆ぜる。

 白い閃光が視界を焼いた。


 音より速く、力強い腕がアイリスを抱き寄せた。


 アイリスは咄嗟に体を丸めた。


 空気が一瞬、固まったかのように膨張する。

 次の瞬間、轟音と熱風が襲いかかった。


 けれど思いのほか衝撃がない。

 戸惑いながら顔を上げ、ようやく気づく。


 ──リオの腕の中にいた。


 リオが自分の頭を庇うように掲げていた腕を下ろし、何度か咳をする。

 吐息が頭にかかった。


 肩に回された腕に、力が籠る。

 指先が、ほんのわずかに震えている。


「大丈夫か?」

「……うん」


 周囲の床が黒く焦げていた。

 思わず、リオの胸元をギュッと掴む。

 優しい香りに包まれて、少しずつ落ち着きが戻ってくる。


「何が……」

「爆破スイッチを押されたらしい」


 リオが視線を向ける。


 そこには、先ほどの女性が倒れていた。

 爆風で吹き飛ばされて、気絶しているようだ。


 拘束した六人も、入り口の脇で木箱の破片は浴びていたが、無事だった。


 女性を止めようと、駆け出したはず。

 すぐに身を翻して戻ってきたのか。


 アイリスはゆっくりと首を振った。


「リオ……私じゃなくて、一般人を守らないと」


 私たちは、狩人だ。

 同じ狩人よりも優先すべき、助ける対象がいる。


「……そうだな」


 リオが立ち上がる。


「褒められた動きじゃない。けど……」


 手を取り、立たせてくれる。

 まだ膝が震えていた。


「同じことが起きてもまた、アイリを優先すると思う」


 目を見開く。

 その言葉が、胸の奥に落ちた。


 真っすぐ見つめてくるリオの瞳は、静かだった。


 そんなの、狩人として失格だ。

 怒らなくてはいけないのに、喉が動かない。


「無事でよかった……」


 その声に、心臓が跳ねた。

 ただの安堵のはずなのに、熱を帯びた響きに聞こえた。


 胸がきゅっとなる。

 周囲の音が遠くなり、リオのことしか目に入らなくなる。


「これは、かなり危なかった」


 リオは焼け焦げた自分の服を見下ろし、眉を寄せた。


 この人の優しさに触れるたび、自分がほどけていく。

 外のざわめきも、気にならなかった。


「あー……どうしよう。信号弾の代わりに、爆発で知らせることになってしまった。父さんに怒られる……」


 額を押さえ、ため息をつくリオ。

 ふと、顔を上げてこちらを見ると、首を傾げる。


「アイリ?」


 目が合っただけで胸が跳ね、思わず息を止めた。

 言葉が浮かばない。

 代わりに出たのは──


「あ、え、うん!怒られよう!」

「……なんでそんな前向き?」


 リオが苦笑する。


 その時、ガラリと瓦礫を踏む音がした。

 爆発で吹き飛んだ壁、白煙の向こうに、人影が立っている。


 知らない青年だった。

 アッシュシルバーの髪はやや長めで、前髪が眉にかかっている。

 暗金色の瞳に、青白い肌。

 線が細く、実戦的なカーキ色の服に身を包んでいる。


「……ノア?」


 リオが、少し目を見開く。


「爆発があった。無事?」


 抑揚のない、低い声。

 静かな人だった。


 なぜかアイリスを見て、安否を尋ねてくる。


「あ、はい」


 アイリスはこくりと頷いた。


「……そう」


 青年はすぐに、どこかへ行ってしまう。

 一体なんだったんだろうか。


「知り合いなのか?」


 リオに尋ねられて、アイリスは首を振る。


「リオこそ、知ってるの?」

「Sランクのノアだ」


 ──Sランク。

 思わず肩を縮める。


「ど……どうしてSランクの人が?」

「さあ……」


 リオが眉を少し寄せた。


 通りかかった雲が陽を遮り、リオの表情にかすかな影を落とす。

 その目は、ほんの一瞬だけノアを追ったが、すぐに俯き、口元にはわずかに硬さだけが残った。

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