幕間 彼の幼馴染
アイリスがリオとともに、次の依頼を探していた時のことだった。
「あら、リオ!」
元気な声が聞こえて、リオが振り返る。
突進するかのような勢いで、誰かがリオに抱きついた。
アイリスはぴしりと固まる。
それは、竜騎士の鎧に身を包んだ女性だった。
肩下まで届く深紅の髪。
少し金が混ざった落ち着いた焦茶色の瞳でリオを見上げる。
「イリス。戻って来てたのか」
リオがイリスの腰を支える。
その手をアイリスは凝視した。
あのリオが、平然として、相手の腰まで支えている。
──すごい。
同時に、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚が走る。
アイリスは思わず胸を押さえ、首を傾げた。
「ええ!私もすっかり立派になったのよ。見て、この鎧!」
イリスがリオから離れて、くるりと回って見せた。
「ジークさんが心配性で、なかなか許可してもらえなかったからな」
「本当に!お父さんは心配が過ぎるのよ!」
その言葉に、リオが苦笑する。
イリスはひとしきり笑った後に、こちらを見て首を傾げた。
「あら?連れがいたの?」
アイリスはびくりと肩を跳ねさせる。
お邪魔感がすごかった。
「あの……私、向こうに行って……」
一人で去ろうとすると、リオに腕を掴まれる。
「アイリスだ。俺の相棒」
イリスが目を丸くする。
そして、満面の笑みを浮かべた。
「パートナーってこと?リオ、パーティーを組んだの?」
「ああ、ようやく」
「おめでとう!そうだ、よかったら食事でも一緒に行かない?話が聞きたいわ!」
あれよあれよという間に、三人で食事をすることになってしまった。
*
イリスは、リオの幼馴染というやつらしい。
学園で六年間ともに学び、今は両親と竜騎士として働いているのだとか。
「相変わらず、周りを振り回してるの?」
「そんなことは……ないと思う」
「絶対嘘じゃない。ね、アイリス」
アイリスは、細かく頷く。
リオがほんのわずかに眉を下げると、イリスは堪えきれないとばかりに笑った。
その目には、からかうような光が浮かんでいる。
イリスを見ていると、胸の奥に小さな棘のような痛みを覚える。
──自分もあんな風に、素直に笑えたらいいのに。
そんな思いがよぎる。
「リオが女の子と組んでるなんてびっくりよ。距離感下手なのに、大丈夫?」
「イリスには言われたくないな」
リオが苦笑した。
「アイリス。困ったことがあったら、いつでも言ってね」
イリスに言われ、アイリスは頷く。
大丈夫。リオは私に対して、節度のある距離を保ってくれている。
そう思うのに、胸の奥がざわつく。
ふと顔を上げると、イリスがじっとこちらを見つめていた。
「それにしても私たち、名前が似てるわね」
アイリスはきょとんと瞬きをした。
アイリスとイリス。
言われてみれば、一文字しか違わない。
「道理で口にしやすい気がしたわけだ」
思わずリオを見る。
そんなふうに思われていたのか。
リオが顎に指を当てる。
「けど、ややこしいな。……アイリって呼んでもいいか?」
「いいよ」
特に支障もないので、快諾した。
イリスが小さく肩を落とす。
「なんか……ごめんね」
「いえ。むしろ、少し嬉しいです」
アイリスは、俯きがちに笑った。
「姉ができたみたいで……」
イリスが「キャー!」と叫ぶ。
「アイリス!私のこと、お姉ちゃんって呼んでいいわよ!」
「……お姉ちゃん」
「……っ、かわいい!」
ギュッと抱きしめられた。
鎧の重みを感じるよりも、なんだかふわりと安心する気持ちが勝り、頬が自然とほころんだ。




