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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第6章 相棒という距離
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第3話 呼び慣れない

 その後も、二人でお宝の山の調査を進めた。

 リオが適宜メモを取り、手元のお宝に貼り付けていく。


「次にアルヴェルに会った時に、使い方が合ってるか確認しておく」

「私も聞きたい」


 だいぶ慣れて、自然に会話できるようになってきた。

 けれど、慣れないものもある。


「リ、オ。この取っ手のついた筒は……」


 リオが顔を上げる。


「俺の名前、いつからリ、オになったんだ?」

「う……」


 リオの名前だけは、どうも呼び慣れない。

 さん付けならすぐ呼べるのに、なぜか躊躇してしまう。


「練習するか?」

「ちょっと待ってください」

「また戻ってる」


 リオが眉尻を落として笑った。


「今のうちに練習しておかないと、後で大変だな」


 たしかにそうだ。練習しないといけない。

 アイリスは息を吸った。


「……リオ」

「うん」

「リオ……」

「ん」

「リオ」

「なんだ?」


 毎回きっちり、返事が返ってくる。

 最後には柔らかな笑みまでついて来た。


 思わず、持っていた筒をリオに投げる。

 また顔が熱くなっている。


「いちいち、返事を、しないで!」

「理不尽な」


 受け止めたリオが、その筒に視線を落とす。


「これ……持ち手と筒部分が別なんだな」

「……動かないから、用途はわからないけど」


 リオが息を吐く。


「瘴気があれば、動きを見れるんだけどな」

「瘴気?」


 どうしてそんなもので。

 アイリスが怪訝な目を向けると、リオは筒を持ち上げた。


「古代の遺物は、基本的に瘴気で動くんだ」

「……どういうこと?」


 口を開きかけたリオは、少し迷った様子を見せて、そっと筒を床に置く。


「ごめん、話していいかわからない。今は、そういうものだと思ってほしい」

「わかった」


 アイリスは頷く。

 リオが眉を上げた。


「気にならないのか?」

「気にはなるよ。でも、機密とかもあるんだと思うし」


 部屋を見回せばわかる。ここは、研究室だ。

 綺麗に片付けられてはいるが、本棚の書類も触らない方がよさそうだった。


「また、話せるようになったら教えてほしいな」

「もちろんだ」


 リオが頬を緩めた。


 *


「でも、瘴気がなくても動くものもあるんだよね」


 照らす棒を手に取りながら、アイリスは呟いた。


「おそらく、内部に瘴気が残っていただけだ」


 次の宝物を掘り出しながらリオが返す。


「危なくない?」


 瘴気が漏れ出してくるかもしれない。


「俺がいるから大丈夫だ。むしろ、残っているなら誤って浄化しないように気を付けないと……」

「残っているかなんて、わかるの?」


 リオは振り返り、口元に笑みを浮かべる。


「以前、ヴァルセリオ先生からもらったものがある」


 立ち上がり、引き出しから何かを取り出す。


 手のひらに収まる、直径五センチほどの文字盤。

 盤面は緑・橙・赤に色分けされ、針が緑の範囲で振れている。

 金属の縁には革が巻かれていた。


「瘴気度計といって、これを使えば……」


 リオがお宝の山に瘴気度計をかざす。

 針が橙まで一瞬振れた。


 その先にあるものを掘り出すと、低い円柱状の物体が出てくる。


「……なんだ、これ?」


 互いに顔を見合わせる。


 リオがひっくり返すと、車輪と刷毛(はけ)のようなものが付いていた。

 そっと床に置き、中央のスイッチを押す。


 その瞬間、奇怪な音が鳴った。

 アイリスは素早く剣の柄に手を添え、リオはアイリスを庇うように腕を伸ばす。


 物体が動き出す。

 刷毛がカシャカシャと動き、床をゆっくり動き回る。


 緊張が解け、二人とも腕を下ろした。


 近づいてくる物体に、アイリスは思わず小さく飛びのく。

 一瞬止まりかけたように見えた物体は、そのまま通り過ぎた。

 そして壁にぶつかると引き返す。


「……何これ?」


 アイリスは思わず呟く。


 リオも首を傾げていた。

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