第2話 くすぐったい距離
「それで、アイリスは狩人で、リオのパートナーということだね」
「はい」
アイリスは頷いた。
アルヴェルはリオの方を向く。
「つまり、アイリスは仕事仲間で、リオのパーティーメンバーということだね?」
「だから、そうと言ってるだろ」
リオがわずかに眉を寄せる。
アルヴェルが肩をすくめて、ため息をついた。
「アイリス。リオのことを“リオさん”と呼んでいるようだけど、いざという時そんな呼び方をしていたら、舌を噛むよ?」
アイリスははっとした。
確かに──咄嗟の呼びかけは短い方がいいに決まっている。
「それに、リオが先輩だからか丁寧に話しているようだけど、それも良くないね。もっと気楽に行こうよ」
「気楽……」
アイリスはリオをちらと見た。
両の拳をぎゅっと握る。
「……リオ……よろしく」
かあっと頬が熱くなった。
どうしてだろう。すごく、くすぐったい。
リオの片方の口角が、わずかに上がる。
その口元を、静かに手で覆う。
「なんか……くすぐったいな」
その言葉で、さらに顔が熱くなる。
「こ……これからは、気楽な口調でいこうと思いま……思う」
「ん……」
沈黙が落ちた。
その沈黙を破ったのは、アルヴェルだった。
眉をわずかにひそめ、口を半開きにしたまま立ち上がる。
「我、帰る」
「え!?」
アイリスは咄嗟にアルヴェルの服を掴んだ。
「古代文明の第一人者なんですよね?一緒に見ていってくださいよ」
アルヴェルが、笑顔でアイリスの手を解く。
「ごめんね。ちょっと嫌かな」
──なぜ。
アイリスは呆然と、解かれた手を見つめた。
「アルヴェル」
リオが呼ぶ。
だが、アルヴェルはそのまま部屋の戸を開け、振り向きながら微笑んだ。
「リオ。無自覚なまま大切なものを失わないようにね」
ばたんと、無慈悲に扉が閉まった。
*
言うとおりにしたのに、去っていった。
アイリスはしばらく扉を見つめて動けなかった。
背後でリオが、お宝の近くにしゃがみ込む。
「まあいい、早く見てみよう」
「いいんで……いいの?」
「いい。最近、どんどん人間臭くなってきてるんだ」
言い方は素っ気ないが、口元には笑みが浮かんでいた。
人間臭い、三百歳を超えたおじいちゃん。しかも見た目は子供。
アイリスは両手で頭を押さえる。
「……混乱してきた」
「その反応、アルヴェルの思うつぼだから。早く慣れた方がいい」
どうしてリオの周りは、こんな珍妙なものに満ちているのだろう。
「アイリス。これ、何だと思う?」
顔を上げると、リオが何かを持ち上げていた。
アイリスはそれをじっと見つめる。
「お鍋……ですかね?」
「口調、戻ってる」
「あ……!」
慣れるまで、もう少し時間がかかりそうだ。




