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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第6章 相棒という距離
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第1話 錬環区の守り人

 アイリスは、拾ったお宝たちの調査のため、リオとともにグランゼリア南の錬環区(アルケイン)を訪れていた。


 二人で歩いていると、リオがふと建物の影に視線を向けた。

 一瞬だけ、空気が張り詰めた気がした。


 アイリスは小さく首を傾げる。


「どうかしました?」


 少しの沈黙。

 次の瞬間、アイリスに向けられたのは穏やかな微笑だった。


「……いや、なんでも」


 何か珍しいものでもあったのだろうか。

 アイリスは息を吸い込む。


 金属の匂いと、かすかに焦げたような香りが混じる。

 路地の奥では、管が鳴るような音が響いていた。

 初めての場所に、アイリスは小走りでリオの背を追う。


 二人は建物に入った。

 リオは迷いのない足取りで奥へ進み、ある部屋の前で止まった。

 灯りが漏れている。


 リオがノックをして扉を開けた。

 中を覗き、ほんの一瞬、目元が和らぐ。


「アルヴェル、来てたのか」


 アルヴェル──リオの友人。

 アイリスは背筋を伸ばした。


「リオ……?珍しいね。狩人の仕事に専念してるって聞いたよ?」


 澄んだ鈴のような声。まるで、子どもみたいだ。

 そっと部屋を覗き込んだアイリスは、目を見開いて固まった。


 床に座って何かを弄っていたのは、小さな少年だった。

 白髪がさらりと流れ、澄んだ氷のような青い瞳が光を返す。

 どこを見ても無駄がない完璧な造形で、同じ人間という枠に収まるとは思えない。

 整いすぎていて、息が止まるほどだった。


「おや、久しぶりにこの反応を見たね」


 少年がころころと笑う。


「アルヴェルは見た目が完璧だからな」


 リオがアイリスの手を引く。

 アイリスは引かれるがまま、部屋へと入った。


「それだと、我(われ)が見た目だけ完璧みたいだね」


 拗ねたように眉を寄せる少年に、リオが「ごめんごめん」と謝る。


 アイリスは少年の前で足を止めた。

 青い瞳がじっと見上げてくる。


「我はアルヴェル。守(も)り人……といった方が、理解が進むかな?」

「守り人……」


 三権の、中立者。

 ……そうだ、思い出した。


 アイリスは額を押さえた。

 リオの紹介を受けた時に、サラが守り人の話をしていた。

 なぜあの時、名前も聞いておかなかったんだ。


「ふふ、面白い子だね」


 アルヴェルが穏やかに笑う。


 アイリスは、はっと我に返る。

 そうだ、挨拶をしていない。

 慌ててアルヴェルの前にしゃがんだ。


「私は、アイリスです。リオさんと同じ狩人で、ランクはAです」

「ああ……そうなんだね。それで?」


 ぱちりと、瞬きをした。

 何か足りなかっただろうか。


「えっと……リオさんと、パーティーを組むことになりました」

「リオと?いいなあ。我も入れてほしいくらいだ」


 アルヴェルが満面の笑みを浮かべる。


「駄目だろ、中立の立場なんだから」


 リオがたしなめると、アルヴェルは唇を突き出す。


「こんなことなら、契約に条件を追加するべきだったよ」

「後の祭りだな」


 リオがふっと笑う。


「それで?」


 アルヴェルがまた、こちらを見た。


 これ以上、説明できるものがない。

 戸惑ってリオを見ると、リオも訝しげにアルヴェルを見ている。


「アルヴェル……アイリスをいじめないでくれるか?」

「え?あれ?違ったのかい?」


 何がだろう。

 戸惑うアイリスの前で、リオとアルヴェルは会話を続ける。


「リオが誰かを連れてくることなんてないから、我はてっきり……」


 何が“てっきり”なのか、わからなかった。


「古代文明の遺跡が見つかったんだ。そこで色々拾ったから、今日はその調査に来た」


 リオがそう説明すると、アルヴェルが顔をわずかに歪めた。

 けれどすぐに、笑みが戻る。


「そう……それは、面白そうだね」


 言葉と表情が、少しだけ噛み合っていない気がした。


「アイリス。例のもの、出してくれるか?」

「あ、はい」


 リオに言われ、アイリスは床の近くで収納袋をひっくり返した。

 中から、遺跡で手に入れたお宝が次々に出てくる。


「これはまた、懐かしいものがたくさん……」


 アルヴェルが指先で突っついた。


「アルヴェルさんは、古代文明に詳しいんですか?」


 アイリスが尋ねると、アルヴェルは胸をそらせる。


「そうだよ。我こそは古代文明の第一人者なんだ」


 見た目からは想像もつかない。

 尊敬の目を向けていると、隣でリオがぼそりと呟く。


「ただの300歳のおじいさんだ」

「ひどいなあ、それは後で明かすから面白いのに。それに、我は315歳だよ」


 アイリスは言葉を失う。

 315歳?聞き間違いだろうか。


 アルヴェルが相好を崩した。


「ふふふ。我は最近、こういう顔を見るために生きてるんじゃないかと思ってるよ」

「趣味が悪いな」


 リオがはっ、と笑う。

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