第3話 交わる視線
瘴気魔獣は、欠片すら残らず塵となった。
その様子に、一抹の悲しみを感じながら、アイリスは顔を上げた。
すぐ近くで息をつくリオに駆け寄り、掌を掲げる。
リオはすぐに気づき、手を挙げる。
乾いた、気持ちよい音が響いた。
「上の調査はどうだった?」
「順調ですよ。全部終わりました」
おや、依頼のことはしっかり覚えていたらしい。
けれど予感がして、アイリスは微笑む。
「リオさんこそ。地下で面白いものを見つけて、つい寄り道してたんじゃないですか?」
リオは目を見開き、破顔した。
「ばれたか」
やっぱりそうか。
予想通りで、怒る気にもならなかった。
「まあ、無事でよかったです。後で教えてください。その“面白いもの”」
瞼を伏せ、口元に笑みを浮かべたリオが頷く。
「お疲れ様です!」
セイルが駆け寄ってきた。
「お二人とも、すごかったです!あんな連携、初めて見ました!」
興奮の熱が伝わってきて苦笑しつつ、リオと視線を交わす。
「僕も頑張ります!」
ぐっと杖を握るセイルに、リオは目を細めた。
「いい浄化だった」
リオの言葉に、セイルは満面の笑みを浮かべた。
*
アイリスは片手を軽く払った。
ミレーユを囲っていた氷の壁に亀裂が走り、砕けるように崩れた。
ミレーユは、床に座り込んでいた。
その前に、集めてきた矢をそっと置く。
「何よ……嗤いに来たの?」
アイリスは引っ込めようとした手を止め、顔を上げる。
「同じAランクなのに……あたしは足手まといで、リオには相手にすらしてもらえない」
涙が頬を伝う。
「さぞ、滑稽ね」
アイリスは少しの間、じっとミレーユを見つめる。
そっと手を伸ばし、指先でミレーユの目元をぬぐった。
「初めてで、うまく連携できる人なんていません」
何度か共に戦った経験があるからこそ、動けるのだ。
「リオさんに憧れは持たない方がいいですよ。あの通り、変な人なので」
ミレーユがアイリスを見上げた。
その顔が、くしゃりと歪む。
「……なんであんたに、こんな……」
アイリスは頬を緩めた。
「格好よかったですよ。弓矢で魔獣を倒すミレーユさん」
リオに突撃したところも、とは言えず、その言葉はそっと胸にしまった。
*
セイルとミレーユには先に街へ戻ってもらい、アイリスはリオとともに“面白いもの”を見に来ていた。
「これは指向性のある灯りらしい」
「指向性、ですか?」
聞きなれない言葉に、アイリスは棒を見て首を傾げる。
「強さが方向によって異なる性質のことだ。光魔法だと空間全体を照らすけど、これは一方向のみを強く照らせる」
「なるほど。暗いところを見るのに便利ですね」
リオが嬉しそうに笑う。
「他にも色々あって……」
お宝の山に目を輝かせるリオ。
アイリスは息をつき、口元に笑みを浮かべる。
「収納袋に入れて持ち帰りましょうか。帰ってから、ゆっくり確認すればいいですよ」
「いいのか?」
リオに問われて、アイリスは頷く。
「わかった気がします。たぶん、リオさんの好奇心が、収納袋や魔法陣を生んだんですよね」
誰も見向きもしない物への好奇心。
それは大事にすべきものかもしれない。
リオを見ていると、自然にそう思えた。
カラン、とリオが持っていた照らす棒が床に落ちる。
アイリスは苦笑しながら拾い上げる。
「落としましたよ?」
「……ああ、うん」
棒を差し出しながら見上げると、翠の瞳と視線が交わった。
どこか揺れて、所在なさげで、アイリスは首を傾げる。
「どうしました?」
静かな空間に、リオがわずかに身じろぎする音が響いた。
「アイリスは……俺を見てくれるんだな」
「当たり前じゃないですか。目に入らない方がおかしいですよ」
照らす棒を押し付け、収納袋を取り出し、宝の山をせっせと片付けていく。
まったく。むしろもっと目に入らなくて済むくらい、大人しくなってほしいものだ。




