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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第5章 共鳴の刻
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第3話 交わる視線

 瘴気魔獣は、欠片すら残らず塵となった。

 その様子に、一抹の悲しみを感じながら、アイリスは顔を上げた。


 すぐ近くで息をつくリオに駆け寄り、掌を掲げる。

 リオはすぐに気づき、手を挙げる。

 乾いた、気持ちよい音が響いた。


「上の調査はどうだった?」

「順調ですよ。全部終わりました」


 おや、依頼のことはしっかり覚えていたらしい。

 けれど予感がして、アイリスは微笑む。


「リオさんこそ。地下で面白いものを見つけて、つい寄り道してたんじゃないですか?」


 リオは目を見開き、破顔した。


「ばれたか」


 やっぱりそうか。

 予想通りで、怒る気にもならなかった。


「まあ、無事でよかったです。後で教えてください。その“面白いもの”」


 瞼を伏せ、口元に笑みを浮かべたリオが頷く。


「お疲れ様です!」


 セイルが駆け寄ってきた。


「お二人とも、すごかったです!あんな連携、初めて見ました!」


 興奮の熱が伝わってきて苦笑しつつ、リオと視線を交わす。


「僕も頑張ります!」


 ぐっと杖を握るセイルに、リオは目を細めた。


「いい浄化だった」


 リオの言葉に、セイルは満面の笑みを浮かべた。


 *


 アイリスは片手を軽く払った。

 ミレーユを囲っていた氷の壁に亀裂が走り、砕けるように崩れた。


 ミレーユは、床に座り込んでいた。

 その前に、集めてきた矢をそっと置く。


「何よ……嗤いに来たの?」


 アイリスは引っ込めようとした手を止め、顔を上げる。


「同じAランクなのに……あたしは足手まといで、リオには相手にすらしてもらえない」


 涙が頬を伝う。


「さぞ、滑稽ね」


 アイリスは少しの間、じっとミレーユを見つめる。

 そっと手を伸ばし、指先でミレーユの目元をぬぐった。


「初めてで、うまく連携できる人なんていません」


 何度か共に戦った経験があるからこそ、動けるのだ。


「リオさんに憧れは持たない方がいいですよ。あの通り、変な人なので」


 ミレーユがアイリスを見上げた。

 その顔が、くしゃりと歪む。


「……なんであんたに、こんな……」


 アイリスは頬を緩めた。


「格好よかったですよ。弓矢で魔獣を倒すミレーユさん」


 リオに突撃したところも、とは言えず、その言葉はそっと胸にしまった。


 *


 セイルとミレーユには先に街へ戻ってもらい、アイリスはリオとともに“面白いもの”を見に来ていた。


「これは指向性のある灯りらしい」

「指向性、ですか?」


 聞きなれない言葉に、アイリスは棒を見て首を傾げる。


「強さが方向によって異なる性質のことだ。光魔法だと空間全体を照らすけど、これは一方向のみを強く照らせる」

「なるほど。暗いところを見るのに便利ですね」


 リオが嬉しそうに笑う。


「他にも色々あって……」


 お宝の山に目を輝かせるリオ。

 アイリスは息をつき、口元に笑みを浮かべる。


「収納袋に入れて持ち帰りましょうか。帰ってから、ゆっくり確認すればいいですよ」

「いいのか?」


 リオに問われて、アイリスは頷く。


「わかった気がします。たぶん、リオさんの好奇心が、収納袋や魔法陣を生んだんですよね」


 誰も見向きもしない物への好奇心。

 それは大事にすべきものかもしれない。

 リオを見ていると、自然にそう思えた。


 カラン、とリオが持っていた照らす棒が床に落ちる。

 アイリスは苦笑しながら拾い上げる。


「落としましたよ?」

「……ああ、うん」


 棒を差し出しながら見上げると、翠の瞳と視線が交わった。

 どこか揺れて、所在なさげで、アイリスは首を傾げる。


「どうしました?」


 静かな空間に、リオがわずかに身じろぎする音が響いた。


「アイリスは……俺を見てくれるんだな」

「当たり前じゃないですか。目に入らない方がおかしいですよ」


 照らす棒を押し付け、収納袋を取り出し、宝の山をせっせと片付けていく。

 まったく。むしろもっと目に入らなくて済むくらい、大人しくなってほしいものだ。

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