第2話 交わる刃
視界を奪われ、瘴気魔獣の動きが鈍る。
「助かる!」
リオの声に、アイリスは口角を上げた。
リオが右前脚の腱を断つ。
魔獣の体が傾く。
その隙を逃さない。
飛び上がる。
掲げた手に煌めく氷柱を、上顎に叩き落とした。
氷柱が魔獣の顎を貫く。
悶え苦しむ叫びを浴びながら、アイリスは着地した。
「これで、目と口は封じました!」
あとは、爪だけを捌けばいい。そのはずだった。
魔獣の尾が空気を切り裂く。
アイリスは咄嗟に剣を抜き、受け流す。
衝撃が腕に走り、唇を噛む。
尾はそのまま床を薙ぎ、砂塵を巻き上げた。
リオが一瞬の迷いもなく跳び込む。
振り下ろされる尾を、体をひねってかわす。
着地と同時に旋回。
鋭い一撃が尾の付け根を斬り払った。
切り落とされた尾が地を叩いた。
そのまま踏み込み、左前脚を薙ぐ。
床を蹴り、巨体の脇を駆け抜けながら斬撃を重ねた。
魔獣が後ろに跳ね、体勢を立て直そうとする。
だが、両前脚の傷がその動きを妨げる。
手を緩めず、次の連続攻撃へ──駆け、斬り、跳ぶ。
白刃が絶え間なく巨体を刻み、リオは重力を忘れたかのように舞う。
詠唱を続けるセイルに魔獣が頭を向ける。
リオが脇腹を切り裂いた。
魔獣の意識が再びリオへ向く。
セイルは詠唱を止めない。
アイリスはリオの動きに目を奪われた。
まるで風そのものが舞っているかのようだった。
「浄化の準備、できました!」
セイルの声で我に返り、再び地面を蹴る。
「首を落とす!」
「はい!」
リオが魔獣の右側面で腰を落とす。
アイリスが反対の左側面で跳ぶ。
「──ホーリーライト!」
空間にまばゆい白銀の光が広がる。
魔獣の纏っていた瘴気が、ジュッと音を立てて塵になる。
魔獣が苦悶の唸り声を上げる。
リオが下から豪快に斬り上げる。
同時に、アイリスも上から鋭く振り下ろした。
交差するその一瞬、魔獣の太い首は逃げ場を失い、二本の刃が正確に頂点で交わった。
重厚な音とともに獅子の首が落ち、風が巻き上がる。
切断の感覚が腕に伝わる。錆びた鉄の匂いが一瞬だけ鼻をつき、消えた。
刃が鞘に戻る音が二回響く。
一瞬の静寂。
瘴気魔獣の威圧は消え去っていた。




