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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第5章 共鳴の刻
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第1話 瘴気の獅子

 階段を駆け降り、通路に出る。

 瘴気魔獣の気配が漂う方から、戦闘音が聞こえる。

 すでに戦いは始まっていた。


「セイル、走れる?」


 振り返って問うと、セイルは肩で息をしながらも頷いた。

 魔獣は全て片付いている。さすがリオだ。


「安全だから、後から来て」

「は……はい」


 アイリスは速度を上げた。


 *


 すぐに広い場所に出た。

 何かの施設だったのだろうか。四角い部屋になっている。

 その中央に件(くだん)の瘴気魔獣がいた。


 獅子型の魔獣は、揺れる尾だけでアイリスの背丈ほどもある。


 鬣(たてがみ)を逆立て、前足を踏み広げて咆哮した。

 空間がビリビリと震える。


 瘴気の匂いが鼻を突き、息が詰まりそうになった。


 魔獣の爪が振るわれ、リオが弾き返す。

 床には矢が何本も落ち、刺さっている。


「リオ、矢がもうない!」


 ミレーユが叫ぶ。


 リオが床の矢を指の間に挟み、まとめてミレーユに投げた。


 ミレーユは手を伸ばすが、何本かの矢が指をすり抜け、床に散乱する。


 魔獣が首を巡らせ、顎を開く。

 矢を拾おうとするミレーユに光線を放った。


 リオが間に割り込む。

 迫る光線を、剣が捉えた。


 刀身と光線が衝突した瞬間、轟音が弾ける。

 リオはそのまま手首を返し、剣を横へ薙ぎ払う。


 衝撃波が光線を弾き飛ばした。


 酷い状況だ。

 リオが二人分の動きをしている。

 我慢できず、アイリスも駆け出した。


 詠唱し、叫ぶ。


「──アイス・ウォール!」


 ミレーユの正面と左右、三方を囲む氷の壁が瞬く間に競り上がる。


 リオが振り返った。

 額には汗が浮かび、呼吸がわずかに乱れている。


「大丈夫ですか?」


 駆け寄りながら、そっと冷風を送る。

 リオは目を閉じてその風を受け止め、眉尻を落として笑った。


「……ありがとう」


 無事でよかった。

 胸の奥の緊張が、一瞬ほどける。


 アイリスも笑い返し、すぐに瘴気魔獣を見据えた。


 *


「状況は?」

「あれが例の瘴気魔獣だ。攻撃は爪と咆哮、口から光線。目が光ると動きを止められるから注意するんだ」

「動きを?」


 麻痺か、それとも精神的な何かか。


「まず、目を潰します」


 右手を開き、素早く詠唱すると、細剣ほどの太さの鋭い氷針(ひょうしん)が一本浮かぶ。


 魔獣をじっと見据える。

 狙いを定め、手を突き出すようにして放った。


 魔獣の左目に命中する。

 痛みに震える咆哮が響く。


 リオが踏み込む。


「アイリスさん!」


 セイルも追いついたようだ。

 アイリスは振り返らず告げる。


「浄化の準備を!」

「え……でも──」


 瘴気魔獣を見たセイルが足を止める気配が伝わってきた。


「私たちが守る!落ち着いて詠唱をして!」


 すぐに返事はない。

 だが、震えた声が返ってきた。


「……はい!」


 アイリスはもう一本、氷の針を形成する。

 瞬きを忘れるほど集中した。


 瘴気魔獣の動きは激しく、リオも攻め切れていない。

 右目を狙い、リオに当たらないよう慎重に放つ。


 完璧に撃ち抜いた。

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