第1話 瘴気の獅子
階段を駆け降り、通路に出る。
瘴気魔獣の気配が漂う方から、戦闘音が聞こえる。
すでに戦いは始まっていた。
「セイル、走れる?」
振り返って問うと、セイルは肩で息をしながらも頷いた。
魔獣は全て片付いている。さすがリオだ。
「安全だから、後から来て」
「は……はい」
アイリスは速度を上げた。
*
すぐに広い場所に出た。
何かの施設だったのだろうか。四角い部屋になっている。
その中央に件の瘴気魔獣がいた。
獅子型の魔獣は、揺れる尾だけでアイリスの背丈ほどもある。
鬣を逆立て、前足を踏み広げて咆哮した。
空間がビリビリと震える。
瘴気の匂いが鼻を突き、息が詰まりそうになった。
魔獣の爪が振るわれ、リオが弾き返す。
床には矢が何本も落ち、刺さっている。
「リオ、矢がもうない!」
ミレーユが叫ぶ。
リオが床の矢を指の間に挟み、まとめてミレーユに投げた。
ミレーユは手を伸ばすが、何本かの矢が指をすり抜け、床に散乱する。
魔獣が首を巡らせ、顎を開く。
矢を拾おうとするミレーユに光線を放った。
リオが間に割り込む。
迫る光線を、剣が捉えた。
刀身と光線が衝突した瞬間、轟音が弾ける。
リオはそのまま手首を返し、剣を横へ薙ぎ払う。
衝撃波が光線を弾き飛ばした。
酷い状況だ。
リオが二人分の動きをしている。
我慢できず、アイリスも駆け出した。
詠唱し、叫ぶ。
「──アイス・ウォール!」
ミレーユの正面と左右、三方を囲む氷の壁が瞬く間に競り上がる。
リオが振り返った。
額には汗が浮かび、呼吸がわずかに乱れている。
「大丈夫ですか?」
駆け寄りながら、そっと冷風を送る。
リオは目を閉じてその風を受け止め、眉尻を落として笑った。
「……ありがとう」
無事でよかった。
胸の奥の緊張が、一瞬ほどける。
アイリスも笑い返し、すぐに瘴気魔獣を見据えた。
*
「状況は?」
「あれが例の瘴気魔獣だ。攻撃は爪と咆哮、口から光線。目が光ると動きを止められるから注意するんだ」
「動きを?」
麻痺か、それとも精神的な何かか。
「まず、目を潰します」
右手を開き、素早く詠唱すると、細剣ほどの太さの鋭い氷針が一本浮かぶ。
魔獣をじっと見据える。
狙いを定め、手を突き出すようにして放った。
魔獣の左目に命中する。
痛みに震える咆哮が響く。
リオが踏み込む。
「アイリスさん!」
セイルも追いついたようだ。
アイリスは振り返らず告げる。
「浄化の準備を!」
「え……でも──」
瘴気魔獣を見たセイルが足を止める気配が伝わってきた。
「私たちが守る!落ち着いて詠唱をして!」
すぐに返事はない。
だが、震えた声が返ってきた。
「……はい!」
アイリスはもう一本、氷の針を形成する。
瞬きを忘れるほど集中した。
瘴気魔獣の動きは激しく、リオも攻め切れていない。
右目を狙い、リオに当たらないよう慎重に放つ。
完璧に撃ち抜いた。




