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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第4章 隔たれた光
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第6話 孤独な刃 -side リオ-

 魔獣の数が増えてきた。

 リオも剣を抜く。


 だが、そこからが問題だった。


 リオが戦い出した瞬間、ミレーユはほとんど矢を撃たなくなった。


「きゃあ。今の、格好いい!」


 リオは冷めた目でミレーユを見た。


 無駄口を叩く暇があったら、手を動かしてほしい。

 なんのための遠距離狙撃だ。


「数を減らしてくれるか?」


 やんわり頼むが、ミレーユは首を傾げる。


「リオなら、このくらい余裕よね」


 確かに余裕ではある。

 それでも、支援があるだけで負担は減る。

 全部一人で対処するとなると、神経もすり減る。


 深いため息をつきながら魔獣を蹴散らした。


 ようやく周囲が静かになり、一息ついた瞬間。背中に鈍い衝撃をくらう。


 手がブレ、鞘に納めかけた剣が指をかすめる。

 片足を前に出し、どうにか体勢を保った。


 物申そうと振り向く前に、腰に腕が回される。

 咄嗟に腹筋に力を入れて抵抗する。


「リオ。ここなら二人きりよ」


 甘い声。


 ぞわりと鳥肌が立った。


「魔獣の気配もないし……あたしはいつだって、受け入れられるわ」


 ──何をだ。

 考えたくもなくて、リオはミレーユの腕を掴み、無理やり引き剥がす。


「どうしてよ!あたしと一緒に落ちてくれたじゃない!」

「それは、例の瘴気魔獣が地下にいるからだ」


 リオは一歩下がる。

 笑顔を浮かべる余裕など、もうない。


「あたしの安全を考えてくれたんでしょ!?」

「俺が考えたのは“仲間の安全”だ。落ちたのが君じゃなかったとしても、俺はともに落ちた」


 その言葉を受け、ミレーユは一瞬、放心する。

 顔がカッと赤くなった。


「ひどいわ!」


 腕をばっと振り、視線をそらす。

 怒りと羞恥で声が震えていた。


「何よ!こんなに好きなのに!どうして受け入れてくれないのよ!」

「……そうやって好きだという割には、俺のことを全く見ていないじゃないか」


 ミレーユが虚をつかれたように口を開ける。


「そんなこと……あたしは、強くて優しいリオが好きで……」

「俺の嫌がることを、するのにか?」


 リオは眉を寄せ、視線を流す。


 怒りに似た感情が胸に広がったが、それも長くは続かなかった。

 ──結局、誰も自分を見てはいない。

 そう思うと、むしろ静かに心が冷えた。


 ミレーユだけじゃない。

 みんな、そうだ。

 色々あって、気づけば有名になってしまっていた。

 その名声に呼び寄せられるように、人が集まる。


 まるで、餌に群がる魔獣のように。

 誰もが肩書きしか見ず、俺自身を見ない。

 勝手に“強い”、“平気だ”と決めつける。


 それなのに。

 どうせ自分には無理だからと、一線を引く。

 ひとりで何でもできるからと、遠慮する。


 いつしか、振り返ると一人で立っていた。


 仲のいいユリウスやイリスですら、「ついていけない」と言った。

 その言葉を耳にした時、ただ「そうか」と静かに笑みを浮かべた。


 だが、掌から力が抜けた。

 胸の奥に残った小さな痛みには、気づかないふりをした。


 ──あの瞬間から、手を伸ばすことを諦めた。


 父は立場上肩入れできず。いつまでも母を頼ってはいられない。

 頼めば引き受けてくれるだろう相手はいるが、父と同様、立場がそれを許さない。


 誰かに背中を預けるなんて、もう自分には許されないことのように思えた。

 気づけば隣には誰もいない。


 それは──ひどく孤独だった。

 けれど、だからこそ、誰にも頼らず、ただ前を見て歩くしかなかった。


「そういう相手を求めているなら、他に行ってくれ。俺では、返せない」


 思わず、きつく言い切った。


 ミレーユは呆然と立ち尽くす。


 地下の風が、二人の間を吹き抜ける。

 その冷たさだけが残った。


 最近ずっと心地よくて、こんな感情は忘れていた。


 周囲に魔獣の気配もないことだ。

 放っておいても問題はない。


 リオは踵を返す。

 瘴気魔獣の気配が漂う方へ足を向ける。


 歩きながら、思った。


 アイリスだけは違った。

 狩人にしては珍しく、俺のことを知らなかった。

 Sランクとわかって尊敬してくれるが、それを理由に距離を置くことはない。

 いつだって、常に。その眼差しは真っすぐ、俺自身へと向いていた。


 アイリスは、何をしているだろうか──ふと、そんな思いがよぎった。

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