第6話 孤独な刃 -side リオ-
魔獣の数が増えてきた。
リオも剣を抜く。
だが、そこからが問題だった。
リオが戦い出した瞬間、ミレーユはほとんど矢を撃たなくなった。
「きゃあ。今の、格好いい!」
リオは冷めた目でミレーユを見た。
無駄口を叩く暇があったら、手を動かしてほしい。
なんのための遠距離狙撃だ。
「数を減らしてくれるか?」
やんわり頼むが、ミレーユは首を傾げる。
「リオなら、このくらい余裕よね」
確かに余裕ではある。
それでも、支援があるだけで負担は減る。
全部一人で対処するとなると、神経もすり減る。
深いため息をつきながら魔獣を蹴散らした。
ようやく周囲が静かになり、一息ついた瞬間。背中に鈍い衝撃をくらう。
手がブレ、鞘に納めかけた剣が指をかすめる。
片足を前に出し、どうにか体勢を保った。
物申そうと振り向く前に、腰に腕が回される。
咄嗟に腹筋に力を入れて抵抗する。
「リオ。ここなら二人きりよ」
甘い声。
ぞわりと鳥肌が立った。
「魔獣の気配もないし……あたしはいつだって、受け入れられるわ」
──何をだ。
考えたくもなくて、リオはミレーユの腕を掴み、無理やり引き剥がす。
「どうしてよ!あたしと一緒に落ちてくれたじゃない!」
「それは、例の瘴気魔獣が地下にいるからだ」
リオは一歩下がる。
笑顔を浮かべる余裕など、もうない。
「あたしの安全を考えてくれたんでしょ!?」
「俺が考えたのは“仲間の安全”だ。落ちたのが君じゃなかったとしても、俺はともに落ちた」
その言葉を受け、ミレーユは一瞬、放心する。
顔がカッと赤くなった。
「ひどいわ!」
腕をばっと振り、視線をそらす。
怒りと羞恥で声が震えていた。
「何よ!こんなに好きなのに!どうして受け入れてくれないのよ!」
「……そうやって好きだという割には、俺のことを全く見ていないじゃないか」
ミレーユが虚をつかれたように口を開ける。
「そんなこと……あたしは、強くて優しいリオが好きで……」
「俺の嫌がることを、するのにか?」
リオは眉を寄せ、視線を流す。
怒りに似た感情が胸に広がったが、それも長くは続かなかった。
──結局、誰も自分を見てはいない。
そう思うと、むしろ静かに心が冷えた。
ミレーユだけじゃない。
みんな、そうだ。
色々あって、気づけば有名になってしまっていた。
その名声に呼び寄せられるように、人が集まる。
まるで、餌に群がる魔獣のように。
誰もが肩書きしか見ず、俺自身を見ない。
勝手に“強い”、“平気だ”と決めつける。
それなのに。
どうせ自分には無理だからと、一線を引く。
ひとりで何でもできるからと、遠慮する。
いつしか、振り返ると一人で立っていた。
仲のいいユリウスやイリスですら、「ついていけない」と言った。
その言葉を耳にした時、ただ「そうか」と静かに笑みを浮かべた。
だが、掌から力が抜けた。
胸の奥に残った小さな痛みには、気づかないふりをした。
──あの瞬間から、手を伸ばすことを諦めた。
父は立場上肩入れできず。いつまでも母を頼ってはいられない。
頼めば引き受けてくれるだろう相手はいるが、父と同様、立場がそれを許さない。
誰かに背中を預けるなんて、もう自分には許されないことのように思えた。
気づけば隣には誰もいない。
それは──ひどく孤独だった。
けれど、だからこそ、誰にも頼らず、ただ前を見て歩くしかなかった。
「そういう相手を求めているなら、他に行ってくれ。俺では、返せない」
思わず、きつく言い切った。
ミレーユは呆然と立ち尽くす。
地下の風が、二人の間を吹き抜ける。
その冷たさだけが残った。
最近ずっと心地よくて、こんな感情は忘れていた。
周囲に魔獣の気配もないことだ。
放っておいても問題はない。
リオは踵を返す。
瘴気魔獣の気配が漂う方へ足を向ける。
歩きながら、思った。
アイリスだけは違った。
狩人にしては珍しく、俺のことを知らなかった。
Sランクとわかって尊敬してくれるが、それを理由に距離を置くことはない。
いつだって、常に。その眼差しは真っすぐ、俺自身へと向いていた。
アイリスは、何をしているだろうか──ふと、そんな思いがよぎった。




