第5話 好奇心の先 -side リオ-
崩落範囲外の二人は安全。
自分が落ちれば被害最小。
そこまでは予想通りだった。
だが、その先に待つ現実まで考える余裕は、さすがのリオにもなかった。
リオは天井を見上げる。
先日の坑道よりは低いが、それでもかなりの距離を落ちたようだった。
一応、風魔法で衝撃を和らげたものの、ミレーユは受け身の取り方が下手だった。
落下の衝撃で軽く足を痛めたミレーユが、不安げに見上げてくる。
リオは背を向けたまま眉を寄せた。
実用性の劣る服。スリットのおかげで足は動かしやすそうだが、長い裾を踏んで足を取られていては意味がない。
──抱えて上るか?
一瞬考えたが、すぐに却下した。
騒がれたら、上るより先に疲れそうだ。
それに、地下の奥から“何か”が這い上がってくる気配があった。
あれは、アイリスたちでは対処できないだろう。
「リオ……」
振り返ると、縋るような目が向けられていた。
──俺が光魔法を使えることも知っていそうだ。
人差し指を立て、すいと横へ払う。
小さな魔法陣がミレーユの足元に浮かび、瞬時の治癒が完了した。
「ありがとう!これで動けるわ!」
ミレーユが元気に立ち上がる。
先ほどまでの殊勝さは、もうどこにもなかった。
「このまま、“二人で”魔獣を討伐するわよ!」
合流するという選択肢すら考えないらしい。
セイルが書き写していた古代語には、見覚えのない語が混じっていた。
だから、念のため確認しておきたかった。
リオは古代語がわかる。
本来なら、解読して渡すだけで済んだはずなのに──。
ミレーユがしつこく構ってくるものだから、二人に任せきりになってしまった。
依頼より、自分の欲求の方が優先か。
そこまで考えて、リオははたと我に返った。
……自分も好奇心を優先して、アイリスに散々怒られた。
今思えば、少し申し訳なかった。
*
薄暗い地下を進む。
ピチャン、と水の滴る音がした。
「キャッ」
ミレーユが、ドンと腕にぶつかってくる。
「……魔獣の襲撃に対応できないから、少し距離を取ってくれるか?」
なるべく柔らかい表情で伝えると、拗ねたように頰を膨らませ、ミレーユは離れる。
その足元で、カチリと音がした。
素早く剣の柄に手を伸ばす。
幸い、目の前の壁がゴゴゴ、と音を立てて開いただけだった。
「……不用意に歩き回らないでくれるか?」
リオは貼り付けた微笑のまま言う。
「で、でも、ほら!面白そうなものが沢山あるわ!」
ため息をつき、リオは中を見た。
一瞬ガラクタに見えた。
だが、刻まれた古代文字を見て、吸い寄せられるように手を伸ばした。
先端に半球が付いた棒のようなもの。
明らかにスイッチがある。
押すとカチッと音がして、半球部分から光が伸びた。
不意を突かれ、棒が手の中で滑る。
床を打つより早く、反射的に手を伸ばして受け止めた。
リオは目をわずかに見開き、手の中のそれを見下ろす。
照らす道具、興味深い。
ランプとは違って指向性があり、一定の方向を強く照らせる。
これは便利だ。
しかし、光はすぐに消え、何度かスイッチを押してみるが反応はない。
……残念だ。
視線を感じて、現実に戻る。
振り向くと、ミレーユがじっとこちらを見ていた。
「おもしろかった?」
問いかけられ、リオは瞬きをする。
「夢中になっちゃって、可愛い」
からかうようでいて、どこか慈しむような笑顔だった。
小言を言われるかと思ったのに、褒められた。
中身はいささか不服だが、一瞬、返す言葉を失う。
「満足したら行くわよ」
ミレーユは近くの箱のようなものに腰を下ろす。
気が済むまで待つつもりらしい。
好きにしていいのか。
もしかして、ミレーユと組めば、思うままに探索できる?
そんな考えが頭をよぎる。
だが、アイリスが腰に手を当てて眉を寄せた顔も、同時に浮かんだ。
──今は、依頼をこなしている最中だ。
「……いや、行こう」
アイリスなら、きっとそう言う。
後でゆっくり来ればいい。
リオは立ち上がった。




