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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第4章 隔たれた光
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第5話 好奇心の先 -side リオ-

 崩落範囲外の二人は安全。

 自分が落ちれば被害最小。

 そこまでは予想通りだった。


 だが、その先に待つ現実まで考える余裕は、さすがのリオにもなかった。


 リオは天井を見上げる。

 先日の坑道よりは低いが、それでもかなりの距離を落ちたようだった。


 一応、風魔法で衝撃を和らげたものの、ミレーユは受け身の取り方が下手だった。

 落下の衝撃で軽く足を痛めたミレーユが、不安げに見上げてくる。


 リオは背を向けたまま眉を寄せた。

 実用性の劣る服。スリットのおかげで足は動かしやすそうだが、長い裾を踏んで足を取られていては意味がない。


 ──抱えて上るか?


 一瞬考えたが、すぐに却下した。

 騒がれたら、上るより先に疲れそうだ。


 それに、地下の奥から“何か”が這い上がってくる気配があった。

 あれは、アイリスたちでは対処できないだろう。


「リオ……」


 振り返ると、縋るような目が向けられていた。


 ──俺が光魔法を使えることも知っていそうだ。


 人差し指を立て、すいと横へ払う。

 小さな魔法陣がミレーユの足元に浮かび、瞬時の治癒が完了した。


「ありがとう!これで動けるわ!」


 ミレーユが元気に立ち上がる。

 先ほどまでの殊勝さは、もうどこにもなかった。


「このまま、“二人で”魔獣を討伐するわよ!」


 合流するという選択肢すら考えないらしい。


 セイルが書き写していた古代語には、見覚えのない語が混じっていた。

 だから、念のため確認しておきたかった。


 リオは古代語がわかる。

 本来なら、解読して渡すだけで済んだはずなのに──。

 ミレーユがしつこく構ってくるものだから、二人に任せきりになってしまった。


 依頼より、自分の欲求の方が優先か。

 そこまで考えて、リオははたと我に返った。


 ……自分も好奇心を優先して、アイリスに散々怒られた。

 今思えば、少し申し訳なかった。


 *


 薄暗い地下を進む。

 ピチャン、と水の滴る音がした。


「キャッ」


 ミレーユが、ドンと腕にぶつかってくる。


「……魔獣の襲撃に対応できないから、少し距離を取ってくれるか?」


 なるべく柔らかい表情で伝えると、拗ねたように頰を膨らませ、ミレーユは離れる。

 その足元で、カチリと音がした。


 素早く剣の柄に手を伸ばす。

 幸い、目の前の壁がゴゴゴ、と音を立てて開いただけだった。


「……不用意に歩き回らないでくれるか?」


 リオは貼り付けた微笑のまま言う。


「で、でも、ほら!面白そうなものが沢山あるわ!」


 ため息をつき、リオは中を見た。

 一瞬ガラクタに見えた。

 だが、刻まれた古代文字を見て、吸い寄せられるように手を伸ばした。


 先端に半球が付いた棒のようなもの。

 明らかにスイッチがある。

 押すとカチッと音がして、半球部分から光が伸びた。


 不意を突かれ、棒が手の中で滑る。

 床を打つより早く、反射的に手を伸ばして受け止めた。

 リオは目をわずかに見開き、手の中のそれを見下ろす。


 照らす道具、興味深い。

 ランプとは違って指向性があり、一定の方向を強く照らせる。

 これは便利だ。


 しかし、光はすぐに消え、何度かスイッチを押してみるが反応はない。

 ……残念だ。


 視線を感じて、現実に戻る。

 振り向くと、ミレーユがじっとこちらを見ていた。


「おもしろかった?」


 問いかけられ、リオは瞬きをする。


「夢中になっちゃって、可愛い」


 からかうようでいて、どこか慈しむような笑顔だった。


 小言を言われるかと思ったのに、褒められた。

 中身はいささか不服だが、一瞬、返す言葉を失う。


「満足したら行くわよ」


 ミレーユは近くの箱のようなものに腰を下ろす。

 気が済むまで待つつもりらしい。


 好きにしていいのか。

 もしかして、ミレーユと組めば、思うままに探索できる?

 そんな考えが頭をよぎる。


 だが、アイリスが腰に手を当てて眉を寄せた顔も、同時に浮かんだ。

 ──今は、依頼をこなしている最中だ。


「……いや、行こう」


 アイリスなら、きっとそう言う。


 後でゆっくり来ればいい。

 リオは立ち上がった。

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