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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第4章 隔たれた光
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第3話 落ちていく距離

 翌日。

 リオを除いた三人で、一階の食堂で朝食をとっていた。


 パンを裂く音だけが、静かに響く。


 ミレーユが肘をついたまま唇を突き出す。


「もう。リオはどこに行ったのよ」


 アイリスは一瞬だけ視線を向け、すぐに手元のスープを見た。

 あの人は隠密と索敵が得意なのだ。本気で隠れられれば、見つけられるはずがない。


「昨夜は帰ってきませんでしたが、大丈夫ですかね」


 セイルも心配そうに言う。


 居心地の悪い場所に、帰りたくなんてないだろう。


「どうせ、どこかの屋根の上で寝て……」


 つい、そう言いかけたアイリスは、視線を感じて口を閉ざした。

 ミレーユが悔しそうに睨んでくる。


 ──要らないことを言ってしまった。

 せっかくの朝食が、味気なく感じられた。


 *


 ミレーユの案内で、アイリスたちは目的の遺跡の入り口にやって来た。

 偶然見つかったと言われるだけあって、うっかりぶち抜いてしまった天井から、地下の遺跡に入る。


 ミレーユとセイルに続き、着地したアイリスが辺りを確認していた、その時だった。


「アイリス。昨日は大丈夫だったか?」

「ひっ!」


 突然、耳元で声が聞こえて、アイリスは悲鳴を上げた。

 すぐに手で口を押さえて振り返る。


 リオが少し目を見開き、体を起こす。


「ごめん、近すぎたか?」

「いえ、私も油断してました」


 前方へ目を向けると、ミレーユとセイルが会話しているのが見えた。

 まだリオには気づいていないようだ。


「かくれんぼは成功ですか?」

「ああ。部屋にまでやってきて……おかげで、屋根の上で一晩過ごすことになった」


 リオがどこか疲れたように息をつく。


 予想通り過ぎて、アイリスは小さく笑った。


「どうするんですか?」


 小声で問いかけると、リオは少しだけ口元を引き締め、視線を逸らした。


「……適当にやる。君はセイルを守ってあげてほしい」

「……わかりました」


 ミレーユがリオに気づき、すぐにその距離がゼロになる。


 アイリスはそっと目を逸らした。

 セイルの元へ歩み寄ると、彼も困ったように眉を寄せている。


「……僕たちで、依頼を完遂しましょう」

「そうだね」


 セイルがゆっくり詠唱し、杖の先に光の球を浮かべる。

 照らし出された石造りの遺跡を、二人で先に歩き出した。


 *


 魔獣の気配は、地下深くにあった。

 だが、今回の依頼は調査と討伐だ。まずは調査をと、今いる階層を隅々まで調べていく。


 最近、人が雑に踏み入った形跡があった。

 アレンが言っていた“上層階は荒らされた”という言葉を思い出す。


 ついでに罠にもかかってくれれば良かったのに、奥までは踏み込んでいないのか多くが残っていた。

 罠はアイリスが即座に無効化し、セイルは広げた手帳にメモを取っていく。


「古代語……読めたらいいのですが」


 壁には古代文字が刻まれている。


 わからない文字を写すのも、それはそれで大変だ。

 アイリスはメモを覗き込む。

 十分綺麗に写せているように見えた。


「戻ったら、魔法局で解読してもらおう」

「そうですね」


 時折出てくる魔獣は、ミレーユが蹴散らしていた。

 アイリスたちは引き続き調査に専念する。


「さっさと終わらせて、帰るわよ」


 ミレーユがつかつかと先へ進む。

 そして魔獣を倒すたびに、自慢げにリオを振り返る。


「ミレーユさん。この遺跡は古い。足元を確認しながら……」

「あら!今名前を呼んでくれたわね!」


 リオが口元に微笑を浮かべたまま、頬をヒクリと引きつらせた。


 アイリスはもはや、色々な感情を通り越して、ミレーユに尊敬の念すら感じ始めていた。


「あたしに任せて!遠くの敵だって、全部射抜いてやるわよ」


 そのままリオの心臓まで射抜く勢いだ。


 ミレーユが踵で勇ましく床を蹴った。

 石畳が軋み、石の一片が抜け落ちた。


 衝撃の波が周囲に広がる。


「嘘でしょ!?」


 叫び声もろとも、地下に吸い込まれる。


 近くにいたリオの足元も崩れる。

 リオがちらりと肩越しに振り向いた。無事を確かめるように、ほんの一瞬だけ。


 次の瞬間、彼は抵抗もせず、崩れる床の方へと身を委ねていった。


 砕ける石の音とともに、暗い空間の底へと姿が消える。

 アイリスとセイルは、ぽかんとその様子を眺めるしかなかった。

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