↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第4章 隔たれた光
PR
30/50

第2話 ぽかんと空いた場所

 馬車での移動は、とても居心地が悪かった。


 ミレーユはリオにべったりで、隙間がほとんどないほど体を寄せ、積極的に話しかける。

 リオは無下にせず、微笑を浮かべて言葉を返していたが、その眉間はわずかに寄せられたままだった。


 先輩の女性狩人なのだ。本当は色々と話を聞きたかったのに、話しかけようとすると睨まれて取り付く島もない。


 アイリスは俯いた。

 膝の上で拳をぎゅっと握り、震えを抑えた。


 隣に座ったセイルが、外の港街の景色を指さして話しかけてくれる。


「見てください、あの帆船。風を受けて気持ちよさそうですね」


 その瞬間だけ、胸のざわつきが少し和らいだ。


 アイリスは小さく息をついた。

 でも胸の奥には、まだぽかんと空いた場所が残っていた。


 *


 交易と芸術の香りが漂う港街、オルフェリア。

 大陸東方に位置し、“風が詩(うた)を運ぶ街”とも呼ばれている。


 大理石の尖塔と、色鮮やかな絹布が彩る街並みは、昼も夜も静かな調べを奏でていた。

 曲線的な街路、風鈴や水路、花や絹の装飾──知らない文化に溢れ、目を奪われる。


 だが、宿屋では、また一悶着あった。

 ミレーユが二部屋でよいと言い出したのだ。


「ミレーユさん。さすがに僕も同意しかねます」


 セイルが柔らかくたしなめる。


 ミレーユがリオの腕に抱きつき、その胸を押し付けた。


「どうしてよ。あたしたちもいい歳よ、よくある話でしょ」

「それは、互いの同意があってのことです」


 それはそうだ。

 リオに視線を向けると、困ったように眉を寄せている。


 アイリスは胸の奥で何かがざわつくのを感じた。

 悔しいような、寂しいような──複雑な感情が胸をかすめる。


「悪いけど、俺はゆっくり休みたい」


 リオがそっと腕を引き抜く。


「あら。私と一緒の方が、“ゆっくり”休めるわよ」


 アイリスは思わず震えた。

 ──これが、大人の女性か。


 セイルがため息をつく。


「僕とリオさんは同室として。お二人はどうしますか?」

「私も……」

「三部屋とってちょうだい」


 アイリスは眉尻を下げてミレーユを見たが、目すら合わせてくれない。

 唇を噛みしめる。


 少し涙がこぼれそうになった。


 *


 リオとゆっくり話したかった。

 でも、すぐにどこかへ行ってしまったらしい。

 せっかく仲良くなれたと思っていたのに、少し距離を感じる。

 小さな寂しさが芽生えた。


 ミレーユはリオを探しに街へ繰り出していった。

 宿屋に残されたアイリスとセイルは、一階の食堂で、沈痛な面持ちでテーブルを囲んでいた。


「これ……大丈夫なのかな」


 アイリスは項垂れながら呟いた。

 アレンもまさか、人間関係で問題が起こるとは思ってもいなかっただろう。


「ミレーユさんは……気持ちが先走るタイプなんでしょうね」


 苦笑するセイルの言葉に、何も返せなかった。


 理解していた──ミレーユはリオを“そういう”対象として見ている。

 だから候補とはいえ、リオと組む自分が邪魔なのだと。


 胸の奥がじんわりと痛み、心に小さな影を落とす。


「でも、僕としては光栄ですよ。アイリスさんに憧れていたので」


 アイリスは顔を上げる。


 セイルの無垢な笑みに、少し心が洗われた。

 体の力も、自然と抜ける。


「あんな人たちは放っておいて、おいしいものでも食べようか」

「そうしましょう」


 珍しく酒を注文し、少しだけ気を紛らわせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。