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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第4章 隔たれた光
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第1話 古代遺跡の影

 依頼を終えて戻ったアイリスとリオは、休む間もなく新たな呼び出しを受けていた。

 向かった先は、狩人本部の奥にある──狩人の長(マスター)、アレンの執務室。


 扉を開けた瞬間、空気が張りつめる。

 アイリスは自然と背筋を伸ばし、唇を引き結んだ。


 机の縁に軽く腰を掛けたアレンが、静かに二人を迎える。

 今年で四十歳になるらしいが、そうとは思えぬ若々しさ。

 隣で肩の力を抜いて立つリオが息子だと知っていても、いまひとつ実感が湧かなかった。


 淡い金髪に、鋭い蒼の光。

 瞳の色を除けば、まるでリオがそのまま歳を重ねたようだった。

 ただ、その眼差しは、リオのものよりもずっと鋭く厳しい。


「新しく遺跡が見つかった。Aランク狩人の報告によれば、地下に強力な瘴気魔獣の姿も確認されている。二人には、遺跡の調査と魔獣の討伐を依頼したい」


 リオが手を上げる。


「古代遺跡、ですか?なぜ今になって?」

「街の下に隠れていたそうだ。先日、建設中に、偶然発見された」


 アレンが眉間を押さえる。


「クラウン家の横入りがあって、上層階は荒らされたらしい」

「クラウン家?」


 聞いたことのない名前に、アイリスはつい口を挟んでしまう。

 アレンが深くため息をつく。


「グランゼリアにおける古くからの系譜で、一目置かれている存在だ。権威は“理由なく”認められ、伝統と格式が重んじられている」

「唯一、家名がある家系なんだ」


 リオが補足してくれる。

 王冠区(クラウン)と同じ名前だと思った。


 アレンの視線がアイリスへと移る。


「古代遺跡のことは知っているか?」

「はい。三百年前──竜の時代に栄え、滅んだ文明の遺跡ですよね」


 “竜とリュミナの物語”。

 子どもの頃、何度も読み返した絵本の情景が脳裏に浮かぶ。


 アレンは人差し指と中指を立てる。


「古代遺跡は二種類に分かれる。碑文のある無害なもの、そして罠に満ちた危険なもの。今回見つかったのは後者だ」


 危険な遺跡──それなら、リオが呼ばれるのも当然だ。

 胸の奥に、かすかな不安が灯る。


「しかも瘴気魔獣は推定Sランク。お前たちだけでは些(いささ)か危険と判断したため、四人で向かってもらう」


 空気がひやりとした。


 ──四人。

 アイリスの指先がわずかに震える。


 リオが半歩、前へ出た。


「残りの二人は?」

「一人は遺跡の調査を担当したAランク、ミレーユ。もうひとりは聖導士のセイルだ」


 二人とも、聞いたことのない名前だった。


「どちらも腕は確かだ。すぐに連携も取れるだろう」


 そこまで言って、アレンは一度口を閉じた。

 小さく息をつき、こちらを見て、目元を緩める。


「お前たちの実力なら心配はいらないだろうが──油断するな。気を付けて行ってこい」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。


 ──期待されている。


 絶対にやり遂げよう。

 そう心に刻み、アイリスは深く頷いた。


 *


 狩人本部の受付前で、アイリスたちは新しい仲間と合流した。


 灰銀の髪に水色の瞳──清潔感のある青年が一歩前へ出る。

 白と金のローブをきっちり着こなしており、几帳面な印象を受けた。


「セイルです。光魔法と炎魔法が使えます。よろしくお願いします」


 穏やかな笑みと礼儀正しさに、緊張が少しほどけた。


 一方、ミレーユはまるで対照的だった。

 黒髪に紅の瞳。自信に満ちた笑みを浮かべる。

 黒地に赤をあしらった戦闘服。

 深いスリットから覗く脚線が、アイリスにはひどく大人びて見えた。


「Aランク、ミレーユ。武器は弓よ、よろしく」


 その視線が、リオに向かう。


「リオだ。ランクはS。剣と、魔法を少々」


 リオが柔らかい微笑を浮かべて答える。


 どこが“少々”だ、とアイリスは心の中で突っ込んだ。


「アイリスです。Aランク。剣と、氷魔法を使います」

「知っていますよ。霜華(そうか)の剣姫(けんき)さん」


 セイルに笑顔で言われ、アイリスは思わず声を詰まらせて咳き込みそうになる。


「何、それ……」

「二つ名、知らなかったんですか?」


 セイルがくすりと笑う。


 本人も知らない二つ名があってたまるか。

 アイリスは唇を震わせる。


「黎閃(れいせん)のリオさんとも一緒に組めるなんて、光栄です」

「うわ、俺もあるのか」


 リオが苦笑する。


「二つ名って、勝手に決まるものなんですか?」


 納得がいかなくて。そっとリオに尋ねると、リオは小さく肩をすくめる。


「……かもしれない。それより、いいな。アイリスの方はそれっぽくて」

「何言ってるんですか。リオさんの方がシンプルで羨ましいです……」


 顔が熱い。

 ──霜華の剣姫なんて、恥ずかしくて悶えそうだ。


「オルフェリアは遠いわ。早く向かいましょ」


 ミレーユがリオの腕を取り、こちらを一瞥する。

 その鋭い視線に、アイリスは思わず目を丸くした。


「そんなに急ぐ必要は……」


 眉を寄せたまま引っ張られていくリオ。


 その瞬間、アイリスの胸がちくりと痛んだ。

 なぜだろう──少しだけ、心がざわつく。


 二人の背中を見送り、アイリスはそっと額を押さえた。

 自分でも知らなかった感情が、静かに息をし始めていた。

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