幕間 洗浄魔法
アイリスは、ひとつお願いを口にした。
「洗浄魔法を教えてください」
「気に入ったようで、何よりだ」
収納袋に手を伸ばしかけたリオが、首を傾げる。
「……ん、教える?」
「はい。魔法陣より、自分でかけた方が微調整が効くと思いまして」
理由を説明すると、リオは少しだけ目を細めて、納得したように頷いた。
「そういうことなら。まずは、水魔法を発動して……」
言われたとおり詠唱を繋ぎ、順番に魔法を発動していく。
発動済みの魔法を維持したまま次の魔法を使おうとすると、頭がズキンと痛む。
体中に小さな緊張が走る。
これは、慣れが必要になりそうだ。
だが何度か練習するうちに、魔法で手が洗えるようになった。
ぱっとリオに視線を向けると、軽い頷きが返ってくる。
アイリスは頭の中で発動順序をおさらいする。
「えっと……これで……」
リオへと手を向けた。
その手を見て、リオが一瞬固まる。
珍しく慌てた表情で、こちらに手を伸ばす。
「待っ……!」
指先から、魔力がリオへと流れ込む。
二の腕の筋肉の感触、胸板の厚み。
魔力を通して、直に伝わる身体の感覚に、息が詰まった。
顔が一気に熱くなる。
慌てて手を引っ込めると、魔力が揺れて弾ける。
胸の奥が大きく跳ねる。
「……あ、あっ……!」
リオは手を伸ばしたまま眉を落としている。
以前、申し訳ないと言っていた理由が、ようやく理解できた。
頰が熱い。
「ご……ごめんなさい!」
アイリスは必死に頭を下げる。
胸の高鳴りが止まらない。
──今のは絶対、よくない……!
頭の中で、強く、けれど小さく叫んだ。
リオが伸ばしていた手をゆっくりと下ろす。
「いや……事前に伝えなかった俺が悪い。大丈夫か?」
アイリスはぎこちなく頷く。
顔が見られなかった。
「他人に使うには……少し、問題のある魔法だから。気を付けてほしい」
「はい……」
両方の頬を掌で押さえる。
少しどころの問題ではないと思った。
直接触れたわけではないのに。
世界が一瞬止まったように感じられた。




