第8話 響き合う刃、一閃
トロッコが地面に叩きつけられる前に、どちらからともなく跳んだ。
今度こそ逃がさない──アイリスは着地と共に地を蹴る。
距離を一気に詰め、その赤黒い目を貫いた。
耳を裂くような絶叫が響き渡る。
そのまま首を切り落とそうとしたが、ガキン、と硬い衝撃が手に跳ね返る。
骨に当たったらしい。即座に距離を取る。
入れ替わるように、リオが魔獣に肉迫した。
いつの間にか抜き放たれていた刃を見て、アイリスは目を見開く。
それは、見たことのない形状の武器だった。
緩やかに弧を描く刃は流麗で、片刃の白い金属が冷たい光を宿している。
リオは懐へ飛び込み、切っ先をわずかに引く。
左手の指先が刀身を滑る。
淡い緑光が刃を駆け抜けた。
首を狙い、鋭く斬り払う。
魔獣は身を捻り、その刃をかわした。
刃先が空を切った。
次の瞬間、魔獣の片腕が宙を舞った。
刃は触れてすらいない。
まるで見えない刃に断たれたかのようだった。
アイリスには、何が起きたのか理解できない。
瘴気魔獣が叫び、体を揺らして暴れる。
「畳み掛けるぞ!」
その声に応じ、駆け出す。
素早く斬り付け、魔獣の体に深く傷を刻む。
リオがその隙に、もう片方の腕を弾き飛ばした。
アイリスに合わせてリオが動く。
互いの動きが絶妙に噛み合い、邪魔にならない。
二人の剣戟が、魔獣を圧倒する。
自分の力を全開で発揮できる状況に、体が勝手に反応し、昂る血が笑みとなって滲む。
ひどく高揚していた。
瘴気魔獣が咆哮を上げた。
頭をもたげたかと思うと、地面へ身を屈める。
両腕を失っているというのに、それでも頭で土を抉ろうとする。
潜る──!
アイリスは詠唱する。
「──アイシクル・エッジ!」
複数の太い氷柱が瘴気魔獣の体を貫く。
体から突き出した氷柱が地面につかえ、魔獣はそれ以上潜れない。
リオが口角を上げる。
その笑みは、戦いを愉しむ者のそれだった。
「はっ、最高だ!」
怒り狂った魔獣は潜ることを諦め、リオに向かって突進する。
だが、リオは武器を鞘に納め、地面に吸い込まれるように体を沈める。
「リオさん!?」
駆け寄ろうとしたアイリスは、その足を止める。
リオの構えには微塵の隙も無い。
肩の力は抜かれ、腰は低く、視線は真っすぐ敵を射抜く。
一瞬の静寂──。
鞘が淡い白と緑の光を帯び、光の粒が瞬間的に踊る。
鞘を握り、リオが腰をひねる。
同時に刃は鞘を滑り、空気を切り裂く。
白銀の軌跡だけが闇に浮かんだ。
──一閃。
刃が線を引くように走る。
遅れて、魔獣の体が左右に分かれた。
突進の勢いは止まらない。
二つに裂けた巨体は、リオの脇を抜け、そのまま背後へ流れていく。
リオは刃をゆっくりと鞘に沿わせる。
金属が滑り込む音だけが、静寂に響いた。
その音を合図にするように、瘴気魔獣は塵となって崩れ落ちた。
その光景を背に、リオは静かに立っていた。




