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陽に咲く氷華  作者: 無名の記録者
第3章 心の連鎖
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第8話 響き合う刃、一閃

 トロッコが地面に叩きつけられる前に、どちらからともなく跳んだ。


 今度こそ逃がさない──アイリスは着地と共に地を蹴る。

 距離を一気に詰め、その赤黒い目を貫いた。


 耳を裂くような絶叫が響き渡る。


 そのまま首を切り落とそうとしたが、ガキン、と硬い衝撃が手に跳ね返る。

 骨に当たったらしい。即座に距離を取る。


 入れ替わるように、リオが魔獣に肉迫した。

 いつの間にか抜き放たれていた刃を見て、アイリスは目を見開く。


 それは、見たことのない形状の武器だった。

 緩やかに弧を描く刃は流麗で、片刃の白い金属が冷たい光を宿している。


 リオは懐へ飛び込み、切っ先をわずかに引く。

 左手の指先が刀身を滑る。

 淡い緑光が刃を駆け抜けた。


 首を狙い、鋭く斬り払う。

 魔獣は身を捻り、その刃をかわした。


 刃先が空を切った。

 次の瞬間、魔獣の片腕が宙を舞った。


 刃は触れてすらいない。

 まるで見えない刃に断たれたかのようだった。

 アイリスには、何が起きたのか理解できない。


 瘴気魔獣が叫び、体を揺らして暴れる。


「畳み掛けるぞ!」


 その声に応じ、駆け出す。

 素早く斬り付け、魔獣の体に深く傷を刻む。


 リオがその隙に、もう片方の腕を弾き飛ばした。


 アイリスに合わせてリオが動く。

 互いの動きが絶妙に噛み合い、邪魔にならない。

 二人の剣戟(けんげき)が、魔獣を圧倒する。


 自分の力を全開で発揮できる状況に、体が勝手に反応し、昂(たかぶ)る血が笑みとなって滲む。

 ひどく高揚していた。


 瘴気魔獣が咆哮を上げた。

 頭をもたげたかと思うと、地面へ身を屈める。

 両腕を失っているというのに、それでも頭で土を抉ろうとする。


 潜る──!


 アイリスは詠唱する。


「──アイシクル・エッジ!」


 複数の太い氷柱が瘴気魔獣の体を貫く。

 体から突き出した氷柱が地面につかえ、魔獣はそれ以上潜れない。


 リオが口角を上げる。

 その笑みは、戦いを愉しむ者のそれだった。


「はっ、最高だ!」


 怒り狂った魔獣は潜ることを諦め、リオに向かって突進する。

 だが、リオは武器を鞘に納め、地面に吸い込まれるように体を沈める。


「リオさん!?」


 駆け寄ろうとしたアイリスは、その足を止める。

 リオの構えには微塵の隙も無い。


 肩の力は抜かれ、腰は低く、視線は真っすぐ敵を射抜く。

 一瞬の静寂──。


 鞘が淡い白と緑の光を帯び、光の粒が瞬間的に踊る。


 鞘を握り、リオが腰をひねる。

 同時に刃は鞘を滑り、空気を切り裂く。

 白銀の軌跡だけが闇に浮かんだ。


 ──一閃。


 刃が線を引くように走る。

 遅れて、魔獣の体が左右に分かれた。

 突進の勢いは止まらない。


 二つに裂けた巨体は、リオの脇を抜け、そのまま背後へ流れていく。


 リオは刃をゆっくりと鞘に沿わせる。

 金属が滑り込む音だけが、静寂に響いた。


 その音を合図にするように、瘴気魔獣は塵となって崩れ落ちた。

 その光景を背に、リオは静かに立っていた。

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